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あずみの白馬さん

成人済 アイコンは天乃ゆうりさん作成(無断転載を禁じます) 自分なりの優しい世界観を出せるように頑張ります。 好きな作家は飯田雪子先生です。若輩者ですが、よろしくお願いします。 Twitter:@Hakuba_Azumino

性別 男性
将来の夢 旅立つときには、ひとりでも多くの人に見送られたい。
座右の銘 「これでいいのだ」

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旅は道連れ、世は情け……?

16/06/05 コンテスト(テーマ):第109回時空モノガタリ文学賞 【 旅 】 コメント:1件 あずみの白馬 閲覧数:1070

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「(明日の朝には青森ね……)」

 私は夫と喧嘩になった勢いで家を飛び出し、上野から夜行列車に飛び乗ってしまった。私は別に青森の人間じゃない。ただ、遠くに行きたかった。

 車掌さんが案内放送をする中、私は考え事をする。好きで結婚したはずなのに、なぜこんなことになったのか……

 旦那は半年ほど前から急に、平日は帰りが毎日のように遅くなり、休みの日は疲れたと言って一日中ゴロゴロするばかりで娘のこともかまわない。私だってレジ打ちのパートで疲れてるのに……。しかも顔色はどんどん悪くなっていく。たまりかねて口論になってしまったのだ。

「(あの人、浮気でもしてるのかしら)」

 スマホは電源を切ってある。もっとも、電話なんて来ないだろうけど……。

「停車駅の御案内をいたします……、羽後本荘、6時1分、秋田、6時38分、八郎潟、7時1分……」

 寝台個室には車掌さんの案内放送だけが聞こえる。
 結婚前はよく旅行に行ったっけ。そう思いながら夜の闇に身を任せた。




――翌朝6時

 目が醒めると車内放送が流れている。

「ただいまこの列車、長岡駅で停車をしております。羽越本線、大雨の影響でこの先運転再開の目処はたっておりません」

 は、はあ!?
 狼狽している私のところに車掌がやって来た。いつ青森に着くか見込みがつかないので、時間はかかるが新幹線を乗り継いで青森に向かうか、旅行を中止して上野に戻るか決めて欲しいと言う。

 戻ると言う言葉に心が反応した。娘は大丈夫だろうか? 旦那は……浮気相手のところにでも行ったのかそれとも。そんなことばかりが心にぐるぐると渦巻いた。

「上野に戻ります」
 結論より先に言葉が出た。
 
 車掌さんが去った後、スマホの電源を入れると、すぐに旦那から着信が入った。
「やっと繋がった。お前、今どこに居るんだ? ごめんな。ちゃんと話すから許してくれ」
「まま……」
 旦那と娘の声だ。旦那の声は疲労感に満ちて、娘の声は弱々しく、両者とも一睡もしていないという感じだ。反省しているかどうかは別として、夫が必死に私を探していたこと、娘が本気で私に会いたがっていることだけは伝わった。しかし、
「ごめん、なさい……」
 聞いたこともない女の声に怒りがこみ上げる。どうやら本当に浮気していたようだった。
「……今帰るから……、ちゃんと話して」
 私は家路を急いだ。旦那と浮気相手をキッチリ締め上げてやらなければ気がすまない。そう思った。

――数年後

 春分の日の朝、私は熱海の温泉ホテルで朝食を摂った。
 朝風呂でもと思い、部屋に戻って朋子さんを誘った。彼女と一緒に湯船につかると色々なことを思い出す。


 言葉少なに部屋に戻り、チェックアウトをしてロビーに出ると、旦那と娘の姿があった。
「おはよう」
「おはよう、あなた」
「まま、おはよう!」
 三人の挨拶が終わってから朋子が続ける。
「……、おはよう、ございます」
 いつも彼女はこうだ。まるで申し訳無さそうに挨拶する。
「いいのよ。そんな気を使わなくても」

 私が家出したあの日の後、旦那は真相を話してくれた。聞けば朋子さんは幽霊で、旅行に行くのが大好きだったらしい。成仏させるために旦那は、仕事帰りに朋子と電車に乗って小旅行をしていたのだそうだ。
 成仏が目的とは言え、幽霊相手に浮気とは恐れいった。私は旦那と僧侶のところに行って、朋子を成仏させようとした。ところが、
「年3回、彼岸とお盆の時だけはこちらに帰って旅行したい」
 朋子は成仏に条件をつけてきたのだ。ある意味呆れた幽霊だ。でも、下手にこじれても面倒だし、また旦那と旅行出来るようになると思ってこの条件を飲んだのだ。

 そして、今にいたる。昨日は平日だったので私と朋子さんだけ先に熱海に行き、旦那と娘は今朝から合流したのだ。

「今日は梅の花を見に行こうか」

 旦那の一声にみんながうなづく。最初は怖がっていた娘も、今では朋子さんに懐いている。

 ふと思う。あの日、私が旅に出なかったらみんなどうなっていたのだろう……。

――旅は、新しい世界を開く扉なのかも知れない。


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このストーリーに関するコメント

16/06/06 あずみの白馬

> シール さま
貴重なご意見ありがとうございます。

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