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あずみの白馬さん

成人済 アイコンは天乃ゆうりさん作成(無断転載を禁じます) 自分なりの優しい世界観を出せるように頑張ります。 好きな作家は飯田雪子先生です。若輩者ですが、よろしくお願いします。 Twitter:@Hakuba_Azumino

性別 男性
将来の夢 旅立つときには、ひとりでも多くの人に見送られたい。
座右の銘 「これでいいのだ」

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1996年夏・僕はあなたに会いに行く

16/05/26 コンテスト(テーマ):第109回時空モノガタリ文学賞 【 旅 】 コメント:7件 あずみの白馬 閲覧数:1487

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――あなたにもうすぐ逢える

 昨夜札幌を出発した夜行快速ミッドナイトは、眩しい朝日の中、かつては青函連絡船が行き交った、潮の香りがする函館駅に滑り込んだ。

 僕は眠い目をこすりつつ、カバンから取り出したミニノートパソコンを携帯電話に接続し、
「おはよう、今日いよいよあえるね」
 と、温子さんにメールした。
(当時の携帯電話は通話しか出来ず、メールするためにはパソコンなどを必要とした)
 チャットで知り合った、栃木に住んでるという彼女。25歳のOLだと言う。話しているうちにだんだん仲良くなり、ついに彼女に会えることになった。
 僕はまだ社会人になったばかり。飛行機で行くお金は無いが暇ならある。と言う訳で、青春18きっぷ片手に栃木を目指している。黒磯駅での待ち合わせは22時。早くも胸が高鳴る。
 しばらく朝市を冷やかして、7時50分頃「快速海峡号」に乗り込んだ。
 青函トンネルを走るこの列車だが、僕はカーペットカーであっと言う間に寝てしまった。気づけば青森到着のアナウンスが流れている。ちょっともったい無いことしたかな。
 青森駅ですぐに盛岡行の普通列車に乗り込み、発車待ちにまたノートパソコンでメールチェックをすると、温子さんから「おはようございます。気をつけて来てね」と返事があった。
 ますますドキドキしてきた「今青森だよ。気をつけていきます!」と返すと発車メロディーが鳴り響く中、電車が動き出した。
 この電車、都会と同じ長椅子電車なのが惜しい。だが、車内が空けば身体を進行方向に向けて車窓を楽しめる。田園風景の中に新幹線の建設現場が見えた。この景色も過去のものになるのだろうかと思うと感慨深い。
 途中、特急に抜かれたりしながらのんびり走って14時前に盛岡着。恒例のメールチェックだ。
「黒磯駅に迎えに行きますね。美味しい油揚げを用意して待っています」
 早く会いたくなってきた。盛岡からは新幹線が出ているが、この切符は普通列車しか乗れないので、また長椅子電車の客になる。今度は小牛田行き、但し1分で仙台行きに乗り換え。車窓を見ながら温子さんのことを考えた。会えたからと言って恋人になれるわけじゃ無いけど、やっぱり期待してしまう。
 一瞬だけ松島が見えた。いにしえから変わらない、あの景色に例えられるぐらいに綺麗なら最高だろうな。
 淡い期待を胸にするうち、夕方の仙台駅に着いた。早速メールを確認する。

「着いたら私の正体をお見せしますね」

 は……? 正体!?
「正体って、どういう意味ですか?」
 返事を送って福島行きの電車に乗り込む。今度は古びたクロスシートの電車だ。彼女からの返事が気になるが、走行中は電波状況が悪く、途中駅停車時間は短すぎてインターネットに繋げられない。
 車窓はすっかり暗くなってきた。文庫本を手に取るが、内容が頭に入らない。恐怖と言う感情が心を支配しだした。
 19時半頃、福島駅到着。早速メールチェック。
「怖いですか? もし嫌なら、そのまま帰っても良いのですよ」
 長旅の疲れも感じられないほど怖くなってきた。北へ戻る夜行列車の発車案内も見えるが、この切符では乗れない。戻るために仙台まで逆戻りして泊まってもいいのだが……
 迷った末に19時45分頃、黒磯行普通列車に飛び乗った。彼女に行きますとメールして。
 怖いけどその先を見たかった。彼女の正体とは? 僕は呪い殺されるのか? でも、夜ごと会話を交わした彼女に逢いたい気持ちが勝ってしまった。この時初めて気付いた。自分の恋心に。
 22時前に黒磯駅に着いた。跨線橋を渡って改札を抜けると、ゾッとするほどの美しい、ツリ目が印象的な女性がそこにいた。
 そして……

 ***

――2016年夏

「どうしたの? 古いノートパソコンなんか出して」
「整理してたら出てきたんだよ。君と出会った日のことを思い出してな」

 温子さんは、不慮の事故が原因で命を落とした幽霊だと言う。家が厳格で、生涯彼氏が居なかったと言う彼女。僕は3日間彼氏として振る舞い、未練を晴らしてあげた。最後に本気で好きだったと言って山奥にある墓に祈りを捧げると、彼女は礼を言って静かに消えていった。その瞬間はとても寂しかった。

 その帰り道、温子の墓に向かっていた、彼女そっくりの女性とすれ違って僕はものすごく驚いた。聞けば温子の双子の妹の悠子と言うそうだ。温子さんを成仏させた話をすると、悠子は僕に深々と頭を下げてくれた。その縁でほどなく交際が始まり、結婚して今に至る。僕にはもったいないぐらい、素敵なお嫁さんだ。なぜか毎食油揚げが出てくるけど。

「(呪い殺すつもりだったんだけど、真剣に想われちゃったからね)」
「何か言った?」
「ううん、なんでも」

 狐さまを大切にすると、お稲荷様になると言われている……


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このストーリーに関するコメント

16/05/26 あずみの白馬

※作者注:列車のダイヤなどは知人に取材して書いたものなので、必ずしも正確ではありません。フィクションということでご理解下さい

16/05/26 天野ゆうり

お、大人な味わい深いお話でした!!
ソワソワした主人公の気持ち、温子さんの思い、悠子さんの心……色んな巡り合わせが重なって今がある。
神秘的で、素敵なお話でした!!

16/05/27 あずみの白馬

> 天野ゆうり さん
かなりソワソワした主人公さんでしたが、きっちりと見せられてよかったです。
温子さんと悠子さん、仲の良い双子だったのか、それとも……?

コメントありがとうございました!

16/06/01 あずみの白馬

> シール さま
貴重な御意見ありがとうございます。
> 海月漂 さま
私の描く主人公は、こういうタイプが多いかも知れないです。
知人から当時のメール事情を聞いて、これは主人公の行動制限に使えると思って描きました。
青函トンネル、今は新幹線が走っているそうですね。夜行快速も季節運転しか無いと聞きました。
作品の雰囲気にあっているとのことで、ありがとうございました!

16/06/03 冬垣ひなた

あずみの白馬さん、拝読しました。

1996年の旅情あふれる風景が目に浮かぶようでした。メールの自由でなかった時代でも、まだふと懐かしく感じます。
そして。まさしく狐の嫁入り……でも20年も一緒なら無問題ですね、お幸せに!

16/06/05 あずみの白馬

> 冬垣ひなた さま

1996年頃のメールもまともに打てなかった「ケータイ」から20年。いろいろ変わりましたよね。

狐の嫁入り後、20年も一緒にいるので、縁あってのこと……、ですね。私も幸せになってほしいと思います。

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