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ココさん

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約束の旅

16/05/23 コンテスト(テーマ):第109回時空モノガタリ文学賞 【 旅 】 コメント:1件 ココ 閲覧数:650

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 私は彼と喫茶店にいた。付き合い始めた頃に行きつけだった店だ。
 コーヒーを一口飲んだ彼が突然、からかうような口調で言った。
「ねえ、俺が急にいなくなったらどうする?」
「なんで?」
「いや、なんとなく」
 彼は不思議な人だった。それは今も変わらない。何かを考えていると思ったら、急に突拍子もないことをよく言い出す。尤も、私は彼のそういった要素に惚れたところがある。何かを問われる度に私はクイズのような気持ちで答えていた。
「えー……とりあえず探しに行くかな」
「違う女といるかもよ?」
「それは最低。でも、無事ならそれでいいかも。一発くらいは殴ると思うけどさ」
 彼は一瞬、驚いた表情をしたが、すぐに納得するように頷いた。
「そうか。まあ、その時は待っているよ」

 私、染谷由紀は目を覚ました。夢の余韻が残っているせいか、思考があまりはっきりしない。
(まさか一年以上も前の話を夢で見るなんて……)
 しばらくぼんやりとしていると、車内の液晶画面が目に入った。そこに表示されていたのは大学の最寄り駅の名前。私はっと我に返り、慌てて足元のリュックを持つと、駆け足で電車を降りた。
 電光掲示板の時刻が始業時間の十五分前を示していた。ここから大学まで歩く時間を考えると、早過ぎもせず、遅過ぎもせずといった時間だ。
 電車から降りた人々は改札に向かうべく、ホーム上にある二か所の階段に集まる。その中にはスマートフォンで流行りのパズルゲームをしている人や、音楽を聴いている人、小説を読んでいる人もいた。私は何かに少しの嫌気がさし、耳からイヤホンを引きちぎるように外すと、周りと歩調を合わせるようにして大学へと足を進めた。
 過去にも彼、根本大樹と連絡が取れなくなることは多々あった。その理由として、ふらっと一人旅をしていたこともあったし、一人暮らしのアパートでただ寝ていただけということもあった。私はそんな大樹を毎度のように心配しながらも、「ああ、またか」という感じで一部諦めていた。
 しかし、それらはあくまで数日間という単位であり、今回のように二週間となると話は大きく変わってくる。携帯に電話を掛けても通じない。アパートに押しかけてもいない。
普段は客観的な私も今回はさすがに焦っていた。何かしらの事件に巻き込まれたのだろうか。その可能性が少しでもあるならば、一刻も早く警察に連絡をするべきだろうか。私は一度でもマイナスのイメージを持ってしまうと、そのスパイラルにどんどんと陥ってしまう傾向がある。不安で、仕方がなかった。しかし、今はまた違う感情がその傾向に走っていた。
 リュックのファスナーを開け、リボン柄ファイルから一枚の絵葉書を取り出した。昨日、家に速達で届けられたものだ。消印はフランスだった。表には中世をイメージさせるような城の風景。そして、裏には見覚えのある字で書かれた私の家の住所。間違いない。大樹の字だ。
 私は彼の意図が掴めないでいた。なぜこのタイミングで送ってきたのか。無事を伝えたいだけなのか。まるで挑発されているかのような気持ちだ。絵葉書を握りつぶしそうになる手を必死に抑えた。
 リュックに絵葉書を戻そうとしたとき、肩にトンという感触を感じた。横を見ると、彼の親友、渡辺良が私の隣に歩いていた。
「あ、おはよう」
「おはよう。由紀ちゃん。ところで、それって大樹から?」
「え?なんで知っているの?」
「一人旅に行くって聞いていたからだけど……もしかして聞いてなかった?」
 私は自惚れていたことを自覚した。所詮、彼女は親友より下なのか。
「聞いてないよ。いきなり連絡が取れなくなったから、警察に言おうとしていたの。そしたら、昨日これが届いてもうびっくり」
「……ひょっとして、怒っている?」
 良が恐る恐る聞いてきた。
 私は一息おいて落ち着かせる。
「大丈夫、怒ってない。……今回はなんで行くって?」
「確か、周りとの関係を一度断ち切りたいとか言っていたよ」
「断ち切りたいのに、なんで私にこんなものを送ってくるの?」
「彼女だからじゃないの?」
「出発前に何か言えば済むじゃない」
 良の視線が上に移る。
「ああ、こんなこともこぼしていた気がする。由紀がどうするか見てみたい、とも」
「まさか私に追いかけろと?」
「さあ?」
 良が肩をすくめた。どうやらこれ以上は聞いていないらしい。
 私はため息を吐いた。
「……仕方ないか」
「どうするの?」
「フランスまで追いかけるよ。約束は守りにね」


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