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辻宮 励さん

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甘夏便り

16/05/22 コンテスト(テーマ):第108回 時空モノガタリ文学賞 【 甘夏 】 コメント:4件 辻宮 励 閲覧数:788

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 甘夏はなんだか酸っぱくて苦くて、なのに爽やか。そんな中途半端な味。小さい頃はよく食べたが、最近は全く食べなくなった。
 僕の住む小さな村は何の特徴もない。強いて言えば、甘夏が特産品というくらいだ。甘夏みたいに中途半端なこの村が好きではなかったし、早く出ていきたいとさえ思っていた。ただ一つ、ちょっぴり心残りがあったけれど。
 僕は無事に大学受験が終わって東京の大学へ進学が決まった。小さな村で僕のニュースは簡単に広がり、親戚や高校の友人によるお祝い会まで行われ、疲れてしまっていた。そのため周りが落ち着いた後はのんびりと家で過ごしていた。
 そんなある日、僕は妙に嬉しそうな顔をした母親に呼び出された。何だよもう、という顔で嫌々リビングへ向かう。すると珍しい来客がこぢんまりと落ち着かない様子で座っていた。そしてちらりとこちらを見ながら、
「久しぶり。合格おめでとう」
 と照れ臭そうに言った。話すのは3年ぶりくらいだろうか。相変わらず化粧気のない落ち着いた雰囲気のままだった。しかし、そのか細い体にひっそりと内包された感情を正確に掴み取るには、時間が経ちすぎていた。僕のこの街への心残りとは、長い時間会うことすらなかったこの彼女と、さらに会えなくなるだろうということだった。
「ありがとう。ずっと連絡も取ってなかったし、久しぶりで驚いた」
 本当は連絡を取ることだってできたし、お互いの家などよく知っているのだから会おうとすればいつでも会うことはできた。しかし高校から学校が違った僕たちには、連絡を取り合って会うための、いわゆる特別な理由がなかったのだ。それを言い訳にして、僕は胸に刺さったままの感情に見ないふりをしてきた。
「大学、東京なんだよね?」彼女が小さい声で聞く。
「そうだよ。多分、就職も東京ですると思う」あえて、突き放すように答える。
「そっか。ならもう昔みたいに会ったりできないんだね」
「そうだよ。第一、ずっと長い間会ってなかったじゃないか。今さら寂しがる必要も、ないよ」
 これは、ほとんど嫌味だ。ずっと会いたいと思っていた。自分が素直に行動できなかったやるせなさが溢れてきて、思わずそれをぶつけてしまう。
「今日はなんでわざわざ会いに来たの?」
「幼馴染の門出をお祝いしたくって。ただ、それだけ。それだけだから」
 彼女がすっと立ち上がった。慌てて僕は尋ねる。
「もう行くの?」
「用事は済んだから。じゃあ東京に行っても元気でね」
 ふいに、輝きを滲ませた真っ黒な瞳が僕を釘付けにして僕は彼女を引き止めることができなかった。ただ一人残されて、後悔の波飲まれ呆然と立ち尽くした。

 東京に来てしばらく経った。都心に近く、周りを見渡せば必ず人がいるという生活。しかし、雑踏の中に紛れていても僕を知る人はいない。それが逆に僕の孤独をくっきりとさせ、大学でも馴染めていなかった僕は、世界中でひとりぼっちになったように感じた。
 故郷に帰りたい、そう思うことが増えてきた時、ジトジトとした梅雨の中、小さな包が届いた。誰からだろう、間違いなく自分宛なのだが送り主が書かれていない。包を開くと、甘夏が一つ、ごろりと転がり出てきた。その下には小さな手紙が一枚だけ置いてある。
『元気?こっちは甘夏の収穫が最後になったよ。今年最後の甘夏あげるね。あと、この前はごめん。帰ってきてくれるの待ってるから。じゃあまたね。』
 手紙にも送り主の名前は書いていなかった。だけど、誰が送ってきてくれたのかは明白だった。
 僕はすぐに届いた甘夏を夢中で剥き始めた。手で剥くには少し硬い皮。ベリベリと力を込めて剥くたびに、僕の意地っ張りな鎧が剥がれていくようだ。そうして露わになった果肉を口に押し込む。
 あぁ、懐かしい味がする。甘夏農家である彼女の家で、小さい頃によく食べたこの甘夏。やっぱりちょっと酸っぱくて苦い。どうしてあの日、彼女とあんな風に別れてしまったのだろうか。本当は話したいことがたくさんあった。酸っぱい、苦い。謝らなければならなかったのは僕の方で、彼女に謝らせてしまったことが申し訳なくてたまらない。酸っぱい、苦い、そして、しょっぱさが混じった。

 夏休みになり僕は慌てて故郷に帰省した。たった数ヶ月なのに随分と久しぶりに感じ、相変わらずの景色に安堵する。風と共に緑の洞窟を抜け、果樹園の奥深くへたどり着く。昔のように木陰で読書をする彼女を見つける。
「ただいま。」
「おかえり。」彼女は無表情のまま。
「・・・この前は、ごめん。」
 彼女はいいよ、と言って微かに笑った。季節外れな甘夏の香りがする。緑の木々がさわさわと僕らを包む。風に揺れる髪。半月に細くなる瞳。
 酸っぱくて苦いこと、言わなくちゃ。
「あのさ・・・」
 中途半端だけど爽やかな、甘夏の味が二人に染み渡った。


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このストーリーに関するコメント

16/05/22 辻宮 励

初めて物語を書きました。とても難しいと感じ、作家の方の偉大さを痛感しました。
スペースをあまり入れていないため見にくいかもしれません。そのように感じた方はコメントなどお願いします。
批評やアドバイスをもらえると勉強になりますので、よろしくお願いします。

16/05/22 辻宮 励

初めて物語を書きました。とても難しいと感じ、作家の方の偉大さを痛感しました。
スペースをあまり入れていないため見にくいかもしれません。そのように感じた方はコメントなどお願いします。
批評やアドバイスをもらえると勉強になりますので、よろしくお願いします。

16/05/22 クナリ

2000文字という制限のなか、心情描写も交えながら丁寧に進行していくので読みやすく、感情移入もしやすかったです。
最後が定型的と言いますか、優等生的に終わりすぎていると思いましたので、もう一工夫されるとさらに良いと思います。

16/05/22 辻宮 励

>クナリさん
クナリさんからコメント頂けるなんて嬉しい限りです!
できる限り丁寧に描こうと意識していたので、そう言って頂けると励みになります!
これから書く作品ではまっすぐだけでなく、様々なアイデアでストーリーを組み立てていきたいと思います。
アドバイスありがとうございます!

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