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デヴォン黒桃さん

「黒桃将太郎」名義でKindle作家として活動。「デヴォン黒桃」名義で猫面師としてアート活動も。人間ドラマや人の感情に興味があり、書きたい物をジャンル問わず書いております。「黒桃短篇集」発売中昭和浪漫のスコシばかり怪異なお話、アナタの脳髄へソット、注入サせて頂きます。 心の臓のヨワい御方は、お引き返し下さい。 精神に異常をキタしても、責任が取れませぬ故。http://amzn.to/2jPBe4m

性別 男性
将来の夢 りっぱなおとな
座右の銘 悔しいけど感じちゃう

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最終列車

16/05/20 コンテスト(テーマ):第109回時空モノガタリ文学賞 【 旅 】 コメント:2件 デヴォン黒桃 閲覧数:1036

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 シュッシュッシュッシュッ

 何時の間にやら眠りこけていたらしい。車窓から外を眺めると、夕焼空に黒煙が、滲んで溶けて、灰色を薄くばら撒いていた。

 シュッシュッ……ボォォォォォォッ

 蒸気機関車が汽笛を鳴らす。
 
 オンギャア、オンギャア


 若い母親が、泣いて喚く赤子を抱いて、オロオロとしておった。
 カラフルなガラガラを、目の前に振ってヤッテも、ベロベロバアと顔をクズして見せても、一向に泣き止む気配もない。
 幸い、他に乗客は居らず、私が気に掛けなければ、ドウと云うこともない。私も、赤子の時分は、母をトコトン困らせる程に、大変良く泣いておったと聞いた。
 が、其の母親は、一所懸命に泣きやまそうとしておったので、私は座席を立ち、ナゼか手に持っていた紙風船を、プウと膨らまして、放り投げてやった。
 赤子は、イキナリ飛び出てきた紙風船に興味津々、小さな手足をバタつかせ、キャッキャと笑った。
 母親は、ホッと胸を撫で下ろし、私に頭を下げ、赤子が握って、凹んだ紙風船と一緒に、次の駅で降りていった。


 其の親子と入れ違いに、中学生位の少年。
 スッと窓際に座り、窓の外と私を、チラリと交互に見比べる。
 夕焼けも更に傾いて、差し込むオレンジの陽射しが、少年の顔を染める。
 フト、コチラを振り向いた少年と、目が合ったのだが、はにかんだ少年は、挨拶できずに目を逸らした。ソシテ又、コチラをチラリと気にして見遣る。次の駅が近くなると、トッと、席を立った少年が、ジッと私を見つめてくる。
 其の真っ直ぐな視線にドキリとした。
 私は、ポッケに手を入れて見た。ソコには、飴玉が二つ有った。
 コチラを見つめる少年に、オイデオイデと手招きして、飴玉を一つやった。
 ニコリと笑って、有り難う御座います、と元気に云うて、機関車を降りていった。


  其の少年と入れ違いに、今度は、濃紺の背広を着た青年が、走り込んで来た。
 ドタドタと騒がしいね、と、思いながら、残ったモウ一つの飴玉を口に放り込んだ。
 青年は、夕焼けを見ながら、ハンケチーフで額を汗を拭った。
 アンマリ汗を、ビシャビシャとかいておったので、喉でも乾いておらんかと、座席の側に置いておいた、冷やし飴をススメてみると、申し訳ない、とゴクゴクと一気に飲み干して、プハァ、と落ち着いた。


 其の青年と入れ違いに、中年夫婦が乗り込んできた。
 仲良く手を繋ぎ、並んで腰掛けて、過ぎる景色を指差し、ナニヤラ楽しそうに話し込んでおった。
 私に気付いた、中年の男が、奥さんの作ったと云う、握り飯を二つ、私に呉れた。
 トテモ美味しいんですよ、と、優しい笑顔を残し、次の駅で二人仲良く降りていった。
 ムシャリと一口喰うてみると、何処かで喰うたことの有る、トテモ懐かしい味がして、シンミリと涙が浮かんできた。 
 

 其の夫婦と入れ違いに、爺様が、写真を片手に乗り込んできた。
 太陽は、もう頭半分を沈めてしまっておった。其の太陽を写真に見せて、ジッと真っ直ぐ立って居った。
 突然振り向いた、爺様が云うには、若い頃、此の列車に婆様と一緒に乗って、ドコラ彼処に出掛けておって、其の時に作って呉れた握り飯が、トテモ懐かしいと、云うておったので、サッキ貰った物で申し訳ないが、握り飯をドウゾと渡して喰わせた。
 すると、死んだ婆様の作った握り飯と、同じ味がすると云うて、泣き出した。
 全部喰うてしまって、写真を抱いて、落ちる太陽を眺めると、涙を拭いて次の駅で降りていった。
 
 ――もう、入れ違いに乗ってくる客はおらんかった。
 私はフト、大事なコトに気がついた。私は、何時から此の列車に乗って、何処へ向かっておるのか、全く記憶にないのだ。
 刹那、ガンガンと頭痛がして、其の場にウズクマッて仕舞った。

 大丈夫ですか? と声を掛けられた。
 ああ、車掌が切符を見に来たのだなと、急に軽くなった頭を上げた。
 ソコには車掌では無くて、随分と前に死んだ筈の親父が居た。


「よう頑張って生きたな、迎えにきたよ」
 

 ――私は、何処かへ向かって居るのではなかった。
 コレは、走馬灯。
 今まで列車の中で出逢った人間達は、全て私だったのだ。
 そう云えば、私は、良く無く赤子であったし、恥ずかしがり屋の少年時代もあった。     
 一生懸命働いた青年時代に出逢った妻とは、仲良く色んな所に出掛けたし、妻の作った握り飯は格別だった。
 晩年、妻に先立たれても、写真を片手に、思い出巡りをしておったもんだ。
 

 そして……頭に出来た、腫瘍が大きくなって、ドウしようも無くなったのだった。



 モウ、私は死んで居るんだろうか?
 答えの解らぬまま、ニコヤカな親父と、軽くなった頭と一緒に、私も次の駅で降りた。


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このストーリーに関するコメント

16/05/20 クナリ

少しずつ関連付けられていく各種要素に、もしや……と思いながら読み進めました。
巧みな構成ですね。
面白かったです!

16/05/21 デヴォン黒桃

クナリ様 
感想ありがとう御座います。
今回は多様な表現を二千に抑える事に苦労しました。
短編の面白さでも有りますが。

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