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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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鉄の旅人

16/05/17 コンテスト(テーマ):第109回時空モノガタリ文学賞 【 旅 】 コメント:2件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:798

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『鉄の旅人』をみつけたら、あとをつけろ。ただし、迂闊にはちかづくな。
亜郎が、いつも大人たちからきかされている警告を思いだしたのは、無草地帯を夕美といっしょに歩いていたときのことだった。無草地帯は、大人たちから、足をふみいれるなとふだんから釘をさされているところだった。草も生えないほど夥しく汚染されているからだというが、ロボット対人間の戦争がおこったのは亜郎たちが生まれるずっとまえのことだから、二人にそれほど危機感がないのも無理はなかった。まったく草が生えてないわけではなく、実際には背丈の低い、赤い実をつける植物ができることをかれらはしっていた。ここにきたのも、たべると舌の上に甘味を帯びたすっぱさがひろがる実が目的だったからにほかならない。二人はこの実に苺ベリーという名をつけて、ときどきこっそりその実をつまみにくるのだった。
二人が大きな岩の下で苺ベリーの茂みを見つけて、唇を真っ赤に染めてたべているとき、岩の向うの、地面が段差になっているところを歩く、ロボットをみつけた。
戦争のときは、人間たちを恐怖に震えあがらせたこのロボットを攻略するために、逆に人々の対抗意識を煽り立て、圧倒的だといわれていた戦争を、ながびかせる原因になったから皮肉なものだ。最終的には、核兵器のために人類は滅ぼされ、ロボットはこの地上の支配者となった。生き残った人間たちは、放射能に汚染された大地を逃れて僻地で細々と生命をつないでいた。
戦争が終結したため、かつては人類の駆除のために作られた多くのロボットたちは無用の代物となり、その結果攻撃能力を封印されて、野に放たれた。本来の能力をオフ状態にされたロボットは、あてもなく地上を彷徨しだした。いま亜郎たちが、あとをつけはじめたのが、その『鉄の旅人』と呼ばれるロボットだった。かれらのなかにはこちらの命令にしたがうものもいて、何人もの力が必要な岩の除去やその他の過酷な労働を、らくらくこなしてくれることがわかってからは、ずいぶん重宝がられていた。
「大人の人にしらせましょうよ」
夕美が、亜郎の手をひっぱった。
「だいじょうぶさ。ぼく、あいつを、つかいこなしてやるんだ」
ロボットにむかって、指示を下している大人たちの、得意そうな顔をおもいだして彼は、自分もそんな思いをしたいとつよくおもった。
「だけど、亜郎。もしも、あれになったら、どうするつもり」
「わかってるよ、そんなこと」
封じられた殺傷能力は、なんらかのきっかけによって、復元するかもしれない。人々の一番の懸念はそれだった。なんといってもかれらは、人類抹殺用兵器なのだ。
「これまで一度だって、ロボットが人間を攻撃したなんてことはないんだ。おかげで、人々の生活は、かれらの労働力で、ずいぶんたすかっている。あらたに川をひいたり、井戸を掘ったり、また危険なモンスターたちを追い払ってくれたりして。――俺はいく」
「亜郎」
ロボットにむかってかけだしていく彼のあとを、いそいで夕美はおいかけた。
「やあ。ぼくは亜郎だ。こちらは夕美」
亜郎の言葉をおうむがえしにロボットも、
「やあ。私はN38017」
「僕の頼みをきいてくれるかい」
「なんなりと」
「苺ベリーをあつめてくれないか」
「苺ベリー」
「ほら、あそこに赤い実がみえるだろ。このあたりにはたくさんなってるから、摘んでほしいんだ」
「わかった」
その瞬間、ロボットの姿は二人の視界から消えた。ものの数秒後にふたたび出現したロボットの手の上には、苺ベリーの実が真っ赤な山となって盛られていた。
「すごいや」
亜郎と夕美は顔をみあわせ、すぐたべようとすると、ロボットがいった。
「この実は人間の体には危険だ」
「これまでいくらでもたべてるのに―――」
ロボットは、亜郎が伸ばす手から、サッとはなれた。
「よこせよ」
なおも亜郎がとろうとしたとき、背後で夕美が悲鳴をあげた。いきなり空から舞い降りてきた虎鷹が、彼女の肩をわしづかみにして、縞模様のある羽を翻しながら、飛び立とうとしていた。が一瞬後、虎鷹の体は風船が破裂するように吹き飛んでいた。亜郎はそのとき、ロボットから放たれた空気のゆがみのようなものが虎鷹を包み込むのをみた。
反動で夕美は地面にもんどりうったが、すぐにたちあがって肘のあたりをなでさすった。
「なんで、助けてくれたんだ」
亜郎も夕美も、かえってふしぎそうにロボットをながめた。
するとロボットは、
「人間はいまや、絶滅危惧種の最たるたるもの。大切にしなければならない」
もう自分たち人間は、ロボットにとっては、敵でもなんでもないのだ………。
そうおもうと、くやしいというより、たまらなくさびしい気持ちになってきた。立ち去って行く『鉄の旅人』の後ろ姿を、いつまでも見送りながら亜郎と夕美は、たがいにしっかり手をにぎりあっていた。


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このストーリーに関するコメント

16/05/18 霜月秋介

w・アーム・スープレックス様、拝読しました。

人がロボットを作り出し、そのロボットに自らが滅ぼされる。たしかに皮肉なものですね。
実際いま、ロボットは人助けのために作られていますが、便利すぎる反面、人間をダメにするのではないかという懸念があります。

16/05/18 W・アーム・スープレックス

霜月秋介さん、コメントありがとうございました。

ロボットはいつの日か、人類を席巻してしまうような気がしてなりません。
なぜならロボットは人間が作り出したものにほかならないからです。チェスや将棋、囲碁の世界ではすでに、多くの棋士が敗北しています。それだけですんでいたら、いいのですが。

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