1. トップページ
  2. 北上する中二病患者と、徐々に南下おじさん

にぽっくめいきんぐさん

著作権とスマホアプリとカラオケに興味あります(雑食)。ゆるく楽しく生きてます。ありがとうございます。

性別 男性
将来の夢 興味を持ったものに躊躇なくうちこめるような、自由な時間が欲しいです。知らないものを知れるのが楽しいですし。
座右の銘 ざっくりだもの by まつお

投稿済みの作品

2

北上する中二病患者と、徐々に南下おじさん

16/05/14 コンテスト(テーマ):第109回時空モノガタリ文学賞 【 旅 】 コメント:4件 にぽっくめいきんぐ 閲覧数:1854

この作品を評価する

 中二の僕は、アニメの劇場版試写会の為、宮城から18切符で東京九段下にやって来た。
 会場には行列。受付の人が「カメラは預かります。撮影禁止です」と言うので、素直に預けた。
(ばら撒くファンなんているはずないのに)
 席は早い者勝ちだった。本の読みすぎで視力が低下気味の僕は、前列中央の席をゲット。
(真ん中の方が左右対称に観れる。でも、両側を挟まれるのは窮屈だなあ)
 そして暗転。開始ブザーが鳴った。

 ◆

 上映は夕方に終わった。
 コメディ系の宇宙物で、リュックの「銀河英雄伝説」の新書と比べて戦略戦術がヌルいし、政治描写も無く、低年齢向けの印象。
(なぜその行動で敵の行動が変わる? 戦術ってそうじゃない!)
 狭い知識と偏見からそんな疑問を持ったけど、この作品の良さは軽快な明るさだ。充分に堪能。
 上映後の舞台挨拶で、主役の男性声優が出てきて「次は、あの作品のあの役をやります」と喜んでいた。客の反応はまばら。
(違う作品の話をされてもなあ)
 でも、大役ゲットは嬉しいよね。数瞬遅れて、拍手で応える僕ら。

 さて、「TV版に加え、劇場版も見尽くした」僕は、夕焼けの雑踏の中、九段下駅までの道をとぼとぼ歩いた。振り返っても大きな玉ねぎはない。会場は日本武道館じゃなかった。
(続編、無いんだよな……)
 取り残されたような寂しさを覚えつつ、宮城の自宅へと、鈍行で行ける所まで北上する。
 18切符は、1枚で「日付が変わった次の駅」まで有効。終点までの差額を準備。
 夜の東北本線では、リュックの銀英伝も、カセットテープも、登場機会は無かった。今日の劇場版を反芻したいんだ。
 ビデオテープはアニメを正確に記録し、何度も再生できる。
 でも、僕の頭の「脳テープ」は、全てを記録なんて出来ない。ストーリーもあやふやだ。
 劇場版ビデオの発売まで半年、僕が頼れるのは、このチンケな脳テープだけ。 
 車窓はビル明かりでうるさかったけど、じき暗くなった。東京近郊なのに、畑と思しき外の闇が、地元宮城と同様に少し怖い。
 僕は劇場版の物語を何度も思い出しては、脳テープに記憶していった。

 夜中0時過ぎ、最終電車は黒磯駅が終点だった。改札で18切符を見せ、駅の外へ出る。
 付近の散策に行きたいけど、罪悪感で駅から離れられない。
(素通りは、やっぱりズルいよね)
 改札に戻り、後片付け中の駅員さんに話しかけた。
「あの、さっき18切符で電車降りたんですけど、日またぎなので、差額を……」
「まあ、いいんじゃない?」
 拍子抜け。僕の20分の葛藤は何だったんだ。
「君、これからどうするの?」
 そう聞かれ、素直に答える僕。
「野宿? 夜中に出歩くと危ないね。待合室が開いてるから、そこで朝を待ちなさい」
 駅員さんは、待合室の場所と、先客が居ることを教えてくれた。
(先客? こんな夜中に? こんな所に?)
 待合室のドアを開けると、よれよれの服を着たおじさんが長椅子に寝ていた。僕が別の長椅子に座ると、
「こんな夜中にどうした?」と声をかけてきた。
「18切符で1泊2日です」とだけ答えた。

 おじさんは一人で寂しかったらしい。長椅子から起き上がり、おじさんの物語を、少しお酒混じりの顔で僕に語った。
 北海道には仕事で、東京から車で行った。
 パチンコに寄ったら大負けした。
 戻ったら、車が盗まれていた。免許証も車の中。
 東京の嫁にも連絡がつかない。
 駆け込んだ警察に怪しまれ、移動代として1000円を渡された。
 鈍行で1000円分南下しては、次の警察で1000円をまた貰い、少しずつ南下しながら、東京の自宅を目指している。
 北海道から黒磯駅まで5日かかった。

 僕は「大変でしたね」とあいづちを打って聞いていた。
 でも本当は、この一見「事実は小説より奇なり」なおじさんの行動なんて、普通だと思った。
(中二ごときが500キロ以上移動してんだ。おじさんなら、それ位やって当たり前でしょ)
 2時間位の雑談の後、僕らは待合室の電気を消し、眠りについた。

 劇場版の反芻は、もう何周目か不明。新しく思い出せる要素もなくなった。
(おじさんと僕って、同じだよな)
 そんな事を、反芻の合間に考えた。
 年齢も状況も行動も、向かう方向も全く違うけど、二人とも自宅を目指している。脳髄反射で行動する所も同じ。

 早朝、始発より30分程早く起きた僕は、まどろみ状態のおじさんに別れを告げた。
「気をつけて行けよ。むにゃむにゃ」
「おじさんも」
 2枚目の18切符で改札をくぐり、少しレトロ調な電車に乗った。

 そして、僕の3割の反芻と、3割の銀河の歴史と、3割の仮眠と、ほんの少しの「旅を支えてくれた人への感謝」を乗せることになる列車が、北に向かってゆっくりと動き出した。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

16/05/23 あずみの白馬

黒磯駅のおじさんとすごした夜、いい思い出……、かな?
おじさんの言うことは本当か嘘かわからないけど、こういう出会いがあるのも旅の醍醐味ですね。

16/05/23 にぽっくめいきんぐ

あずみの白馬さん、お読みくださりありがとうございます。

時間が経つと記憶は美化されますが、それでも女の子成分が無いと物語性が出にくいですね(笑)
しょうがないです。中学時代の実話ですから。

おじさんの話はけっこう荒唐無稽ですが、その時は素直に信じました。「なんで次の警察も1000円渡してるんだ?」って疑問を持ちつつも。

現地で出くわす謎展開が、いつも面白いです。

16/05/28 クナリ

淡々として語られる文章の行間から漂う主人公の切なさを、もっとじっくり味わいたくなる作品でした。
いろいろなことを便利に楽しくしてくれる現代の文明は大好きですが(昔はよかった、みたいなことをあまり思わないたちなので……)、不自由さやもがきが生む詩情もありますよね。

16/06/21 にぽっくめいきんぐ

クナリさん、コメントありがとうございます。

レス漏れ、大変失礼しました。申し訳ないです(><)

多分、全部を書かずに、淡々と短く書いて、行と行との間を想像して頂く、読者の方に協力して頂く、というのが、オイラ本来の文体のようです。

ネタに走るのが大好きですが、ネタじゃなくて素で書くとそうなる模様。

生活の便利さはどんどん改善していって欲しいです(^^)
スマホがあれば、きっと、もっと楽に旅できました!

ログイン