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光石七さん

光石七(みついしなな)です。 子供の頃から空想(妄想?)が好きでした。 2013年から文章化を始めました。 自分では気付かないことも多いので、ダメ出しを頂けるとありがたいです。

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What a beautiful world,but...

16/05/09 コンテスト(テーマ):第107回 時空モノガタリ文学賞 【 色彩 】 コメント:7件 光石七 閲覧数:998

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 フウの目を治したい――。それは僕が願ったことで、何よりフウ自身が望んでいたことだった。手術は成功した、はずだった。目の包帯が取れた日、フウは初めての光の刺激に戸惑いつつも、もうじきこの世界のあらゆるものの色形をはっきり捉えることができるんだと、期待に胸を膨らませていた。だが、その三日後……。僕にはわからない。何故フウがあんなことになってしまったのか。

 僕がフウと初めて出会ったのは二年前、父の代理で町はずれの小さな孤児院を訪問した時だった。フウはその孤児院で育ち、十六歳になってからはスタッフとして孤児院を支える側に回っていた。目が不自由な中、優しい笑顔で子供たちの世話をするフウに僕は惹かれた。心の清らかさがそのまま外見に滲み出たような美しさ。一目惚れに近かった。
「き、君。見えないといろいろ不便だろう? 手術を受けてみたらどうかな? ワトーにいい医者がいるんだって。費用なら僕が出すから」
いくら話しかけるきっかけが欲しかったとはいえ、緊張していたとはいえ、ひどい切り出し方だったと思う。フウは見えていない瞳をまっすぐ僕に向け、冷めた口調で言った。
「お気持ちはありがたいのですが、初対面の方にそこまで甘えるわけにはいきません。ですが、その分のお金を孤児院の援助に回してくださるならうれしいです」
金持ちのボンボンの高飛車な申し出だと感じ不快だったと、後からフウに聞いた。その後、僕は何度も孤児院に足を運び、スタッフに交じって仕事を手伝った。彼女との距離を少しでも縮めたかった。一緒に働くうちにフウの僕に対する不信感も薄らいだようで、打ち解けて話すようになった。僕はフウに自分の想いを伝え、フウもそれを受け入れてくれた。二人でいろんな場所に出かけた。でも、フウの一番のお気に入りの場所は、孤児院からほど近い、山と海が見渡せる丘だった。
「土の匂いでしょ、草の香りでしょ。潮の香が混じった少し冷たい風でしょ。いろんな自然を感じられるここが、子供の頃から好きだったの」
「わかる気がする。僕もここが好きだ。景色もきれいだし。……君にも見せてあげたい。ここの景色だけじゃなく、美しいこの世界のいろんなものを」
フウはハッとしたような顔をした。
「僕が見ているものを、君にも見て感じてほしい。ボンボンの上から目線の押し付けじゃなく、君を愛する男として言う。手術を受けてほしいんだ。君さえ嫌じゃなければ」
「嫌なわけ……ないじゃない。オト……」
フウの目から涙が零れた。
「ずっと……見える人が羨ましかった。ここも本当はどんな場所なのか、景色を想像しようとするんだけど、いつも全然わからなくて……。オトが見てるもの、私も知りたい。見てみたい……」
僕はフウを抱きしめた。
 半月後、フウの目の手術が行われた。手術は無事に終わり、二日後には包帯が取れた。最初は全てぼんやりとした影のようにしか見えないだろうが、三、四日のうちに物の色と輪郭がはっきり見えるようになると、医者は言った。僕はフウのために、窓から山と海が見える最上階の病室を確保した。
「オ、ト……?」
包帯が外れて三日目の朝、フウの視覚が初めて認識するのは自分であってほしいという僕の目論見は成功した。僕は一足先に起きて、フウの目覚めを待っていたのだ。
「そうだよ、僕だ。見えるんだね、フウ」
僕は喜びと興奮でいっぱいだった。だが、フウの顔は強張っている。――おかしいな、みんな僕をハンサムだと褒めそやすんだけど。天狗になってるつもりはなかったけれど、なんだか傷付いた。まあ、フウはずっと見えない世界にいたわけだし、基準がわからないのかもしれない。人の顔を見るのも初めてなんだし、驚いてるだけかもしれない。
「……外、見てみるかい?」
僕は気を取り直して笑顔を作り、フウの体をベッドから起こしてやった。フウは硬い表情のままは窓の外を見遣った。そして――狂ったように叫び、ベッドから飛び降りて窓ガラスを叩き割った。ガラスの破片を掴む。僕は慌てて止めようとしたが、僕の手が届く前に、フウは破片で自分の目を突き刺し、窓から飛び降りてしまった。

 フウに何が起きたのか、僕にはわからない。今日も僕は彼女のお気に入りだった丘に登り、一人佇む。
「こんなに世界は美しいのに、どうして……」
いつも通り、どす黒い茶色の空には濃い鼠色がかった青い太陽がジクジクと鈍い輝きを放っていて、海では赤黒い波がネトネトとうねり、山はぬめるように艶めく紫紺と真っ黄色の木々のコントラストがギトギトと映える。
「こんなに世界は美しいのに……」
涙で視界がぼやけていく。僕の茶紫と黄緑のまだら模様の肌を、冷たい風がそっと撫でていった。


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このストーリーに関するコメント

16/05/09 クナリ

掌編ならではのギミックによる急展開、面白かったです。
色なき世界で、聴覚によって静かに時をかけて紡がれていくストーリーが、視覚といういちどきに大量の情報を認識できる感覚によって転回するのが見事でした。

16/05/15 光石七

>クナリさん
コメントありがとうございます。
以前モノと色の組み合わせがちぐはぐという似非ポエム(苦笑)を書いたことがありまして、これを話のオチに持ってきたらどうかと思い立って書いてみました。
色彩そのものだけでなく美的感覚も通常とは異なる感じになってしまい、テーマから若干ズレているような気も無きにしも非ずですし、不快な色彩を表現するのに擬態語に頼ってしまったのもちょっと卑怯かなあと思いますが、楽しんでいただければ何よりです。

16/05/18 冬垣ひなた

光石七さん、拝読しました。

積み上げていくストーリーが色づいたとき、
まったく別の世界が現れる手法が素晴らしいと思いました。
美しいものを美しいという気持ちに変わりはないのに、感覚の違いが切ないです。

16/05/22 光石七

>冬垣ひなたさん
コメントありがとうございます。
オチ(?)だけは早い段階からイメージがあったものの、話の始まりやキャラクター、展開がなかなか見えてこず、とってつけたように書いてしまいましたが、一応形にはなっていたでしょうか。
作中の世界に住む大多数の人々にとってはそれが当たり前で美しい色彩、でも彼女には……ということが伝わっていればうれしいです。彼女の感覚は、我々に近い感じですね。

16/05/24 泡沫恋歌

光石七 様、拝読しました。

前半の美しい恋愛ドラマから、まさかのオチに驚きました。
たぶん、フウが想像していた世界とはきっと違っていたのでしょう。

いっそ、見なければ良かった現実の世界でしたね。
面白く読ませていただきました。

16/05/25 石蕗亮

拝読致しました。
ラストの色彩の表現と死の理由がマッチしていてずっしりきました。
パンチの効いた作品でした。

16/05/28 光石七

>泡沫恋歌さん
コメントありがとうございます。
仰る通り、作中の世界はフウが期待していたものは違っていたわけで…… 「いっそ、見なければ良かった」、まさにフウの気持ちですね。
面白かったとのお言葉、うれしいです。

>石蕗亮さん
コメントありがとうございます。
オチの描写に不快感を覚えていただけるか、フウの死の理由につなげて受け止めていただけるか、不安でしたが、伝わったようでホッとしました。
楽しんでいただけたなら、幸いです。

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