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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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コンビニゴースト

12/09/10 コンテスト(テーマ):【 コンビニ 】 コメント:2件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1781

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 夜の八時に、わざわざつきあってくれる相手といえば、やっぱりはん子のほかにだれもいなかった。総合格闘技のジムに通いだしてから、すでに3か月になる彼女は、ひとまわり逞しくみえた。
 まずは腹ごしらえとばかり、二人は蕎麦屋に入った。
「どうだい、こちらのほうは」
 と僕は、テーブルの向こうのはん子に、ファイティングポーズをとってみせた。
「楽しくって、しょうがないわ」
「ところで、へんなこときくけど、幽霊はすきか?」
「格闘技となんの関係があるのよ」
「事情を説明するよ」
 ―――そのコンビニは、この店からすぐのところにあった。ある夕方、時間つぶしにふらりと僕はその店に立寄った。客は数人いた。僕の目は、一番奥の、コスメ商品の棚の前にたつ一人の女性にとまった。全身白ずくめで、僕はなんだか薄気味わるいものを感じた。その女性が、ふとこちらに顔をあげた。分かれた髪のあいだから、生きた人間のものとは思えない、真っ青な肌がのぞいた。僕はぞっとなってその場にたちつくした。
「たしかにあれは、幽霊だった」
 確信ありげにいうぼくを、はん子は蕎麦をすすりながら、
「それであなた、私を呼んだ理由は―――?」
「きみにも、その目でみてもらいたいんだ」
「正直におっしゃい。一人じゃ、恐いんでしょ」
「正直にいうよ。そのとおり」
「幽霊に、ナックルパンチは有効かしら」
 僕は、彼女が幽霊をひとつも恐れてないのをみて、ほっとした。
 はん子と僕が件のコンビニの前までやってきたのは、それからまもなくのことだった。
「いるいる。幽霊はきょうもいるぞ」
 例の、髪のながい、白い服を着た女を、僕はすぐにみつけた。明るい照明の下でさえ、その姿は薄暗く映った。
「ほかの客たちは、気づいているのかしら」
「気づいていたら、いっしょにおれないだろ」
「どうする。あの幽霊、つかまえる?」
「よせよ。とりつかれたら、どうするんだ」
 二人が店の外でいいあっていると、はたして幽霊が、いかにもおどろおどろしく、顔をあげた。
「なによ、私にしがみついたりして」
 怯える僕を、しばらくじっとみつめていたはん子が、いきなり声をあげて笑いだした。
「なにがおかしい」
「もう隠しきれないわ」
「なにを?」
「あの幽霊ね。このちかくの演劇学校の生徒なのよ」
「なんだって!」
 なんでも以前、生徒の一人がいたずら半分で、幽霊の扮装をしてコンビニに入りこみ、客の反応を確かめた。客たちはすぐ、幽霊の正体を見ぬいた。というのもここには演劇学校の生徒たちがよく訪れたからだが、そのこともあって店長は彼女の行為にたいして寛大だった。どころか、幽霊がでるという話がネットで評判になり、客数が増大したくらいだった。それ以来、生徒たちは演技力を磨くためにも、幽霊に扮して、ときおり現れるようになった。
「ということなの。有名な話よ」
「きみはそれを知っていて、僕についてきたのか」
「ほんとに怖がってるんだもの、おかしくって」
 またはん子が笑いだそうとしたとき、なにものかが二人の間をすりぬけた。
「冷たい」
 水滴が僕とはん子の顔や手にあたった。雨はふっていない。僕たちは、怪訝な顔で、いま自分たちのあいだを通り抜けていった男の後ろ姿を見送った。
 男は、コンビニに入ると、店員に包丁をつきつけた。
「強盗よ、あの男!」
 僕はすぐ携帯で警察に電話した。パトカーがくるまでの間、はん子と僕は店内の様子を固唾をのんでうかがった。
 男性店員が震える手で、レジの金をさしだそうとしていた。例の幽霊は、向こう側からじっとその様子を見まもっている。
 ぼくは再び、レジに視線をもどした。と、どこにも強盗の姿が見当たらない。
「逃げたのかしら」
 その口調から、はん子もまた一時、強盗から目をはなしていたらしかった。
 僕たちは店内に入ると、いままで強盗に包丁をつきつけられていた店員に声をかけた。
「強盗は、どうしたのです?」
「それが、お金をさしだしたとたん………」
 最後までいわずに店員は、茫然と床に目をおとした。みるとそこには、数枚の札と、点々ととびちる水のあとが残っている。
 そこへ、幽霊に扮した女性がやってきた。
「あれ、本物よ」
 一年前、この店に強盗がはいった。そのときのバイトが大学の空手部の主将で、強盗は反撃をくらって逃げだしたあげく、橋から川に転落して溺死したと彼女は語った。
「まえにも一度、この店にあらわれたらしいけど。さすがに本物だけあって、迫力満点ね。勉強になったわ」
 僕は、半信半疑だった。あれも、演劇学校の生徒の仕業じゃないのか。
「藻の匂いがする」
 はん子が、手を鼻にあてて、いった。
 僕はそのとき、床でなにかが動いているのに気がついた。みると、千円札の下から小魚が、身をくねらせながらとびだしてきた。
 


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このストーリーに関するコメント

12/09/13 汐月夜空

拝読しました。
強盗が幽霊というのは面白いですね。幽霊に扮した演劇部員もその場に居合わせるというのが絵的に良いなあと思います。
強盗がどうして橋から転落したのか、などの不思議な点は残りますが、テンポよく読み進められる、文に流れがあるのが良いですね。

12/09/13 W・アーム・スープレックス

こんにちは。汐月夜空さん。コメント、ありがとうございます。
ご指摘の、強盗が橋から落ちるところは、追手ともみあったはずみに―――ぐらいの説明があったほうがよかったかもしれませんね。いつも制限字数ぎりぎりで書いていますので、気持ちの中でつい端折ってしまった感は否めません。文の流れ、テンポ、よくはわかりませんが、これは意識して出るものではないように思います。

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