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犬飼根古太さん

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性別 男性
将来の夢 どれだけ掛かっても作家になることです。
座右の銘 井の中の蛙 大海を知らず されど、空の深さを知る

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ワシはネットアイドルである

16/04/21 コンテスト(テーマ):第106回 時空モノガタリ文学賞 【 ねこ 】 コメント:5件 犬飼根古太 閲覧数:921

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 『吾輩は猫である』で一世を風靡した猫界のオピニオンリーダーがいらっしゃったが、ワシはもうそれは古いと思う。何も内容についてどうこういうのではない。媒体が問題なのだ。
 猫界でも若猫の活字離れは深刻で、かつては胡座をかく一家の大黒柱の膝の上で、それとなく新聞を一緒に読んでいたものだが、最近の猫はもっぱらテレビにばかり感心を示している。
 まぁ、気持ちはわかる。テレビ、面白いもんな。かく言うワシだって紀行番組で、美味しそうな海鮮料理なぞ流れようものなら、生唾をごくりと鳴らすこともしばしばある。ただ、たいてい旅館を映すと美味そうな刺身などだけでなく、温泉なぞという熱い水溜まりを映すのが玉に瑕だ。ワシのマネージャー≠烽謔ュお風呂なぞに入れようとしてくる。ネットアイドル≠ナあるワシが身だしなみに気をつけるのは大事なのは重々承知している。だから毎日の毛繕いを欠かしたことはただの一度もない。にも関わらずマネージャーはさらに、時々お風呂で洗おうとしてくるのだ。
 そう。マネージャーについていろいろと言いたいことがある。かつては一方的にワシが飼われる側だった。だが今では違う。『ニャーニャー動画』というプロ・アマを問わず素人が動画を投稿したり、生放送を流したりできるサイトが存在する。ワシはそこでちょっとしたアイドルとなり、元御主人様であり現マネージャーである友田君に少なくない収入を与えているのだ。
 え? そんな動画の投稿をした程度で金になるのか、って?
 お主、全然わかっとらんのう。「ユーチューバー」とかで検索してみろ。目ん玉飛び出るぞ。
 さて。最初の話になるが、つまり時代は動画なのだ。ワシの愛らしさ、美声、大人のワイルドな動作を表現するのは、少なくとも友田君の文才では足りぬ。いや。ワシほどの美猫の美しさとなると、おそらく作家ならば夏目漱石、画家ならばピカソ、彫刻家ならばロダン、詩人ならばゲーテなどのごく一部の天才にしか表現不可能だろう。ワシの美とはそれほどのものなのだ。
 さて。話を戻すが、ワシは最近マネージャーである友田君について言いたいことがある。人間界に「四十にして惑わず」、不惑という言葉がある。つい最近満六歳の誕生日を迎えたワシは、人間の年齢でいえば、その四十歳。割といい年なのである、大人なのである。
 なのに、可愛い被り物を被せられたり、スケボーの上に載せられてフローリングを滑らされたりとお笑い芸人のような扱いなのだ。
 なんでやねん!
 とツッコミを入れてやりたい。なぜこんな仕事を選ぶ。ワシはもう四十歳なのだ。いくらネットアイドルとはいえ、もうちょっと仕事を選んでもらいたい。
 例えばタンスの上にワシがいると、カメラを回しながら封を開けた猫缶を、タンスの横のサイドボードの上に置いたりする。明らかにすぐ跳んで見せろ、撮影してやるから。そう考えているのが見え見えである。
 無論、跳んでやるのはやぶさかではないが、猫のジャンプ力を舐めてもらっちゃ困る。
 確かに段差もあるし、距離もある。とはいえワシなら余裕で届く。
 だが、ここでネットアイドルのプロ≠ナあるワシはこう考えるのだ。
 果たしてただ跳んだだけで視聴者は喜ぶのか? とな。もっと言えば、友田君というマネージャーにいっぱいご飯を食べさせてあげられるのか、と。
 そこでワシはわざと助走少なめにして跳ぶ。当然ながら、サイドボードの端っこギリギリになる。
 両方の前脚の爪を出し、思いきり引っかける。前脚に力を入れて、ぐいぐいと這い上がる。
 サイドボードと激闘を演じること一分弱。ようやくワシは載ることができ、猫缶にありつくことができた。
 サイドボードの傷だらけの端っこを見ながら、友田君が一言。
「あー、海は相変わらず、不器用だなー」
 誰に物言うてんねんワレ。
 ワシの名演技なくして、お前の動画の再生数なぞあり得んのやぞ。
 心の中でそうツッコミつつも猫缶をむしゃむしゃしておると、ぽつりと言いおった。
「いいなー、猫は気楽で」
 ……どうだろうか? ワシがマネージャーに言いたいというのはこういうことだ。
「親の心子知らず」という言葉が人間界にはあるそうだが、「猫の心飼い主知らず」という言葉も辞書に追加すべきだろう。時代は変わるのだ。


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このストーリーに関するコメント

16/05/07 犬飼根古太

海月漂さま、コメント頂きありがとうございます。

>猫動画に癒される
癒されますよね。手でピストルを作ると仰向けに倒れる名優のような猫や、ただご飯を頬張っているだけなのに愛らしい猫など。視聴者と同じくらい猫も楽しんでくれていると良いですよね。

16/05/10 希咲 海

拝読いたしました。
着眼点が素晴らしいですね、コミカルに描かれ読みやすかったです。
ありがとうございました。

16/05/10 光石七

拝読しました。
主人公の猫のプロ意識に脱帽です。
「猫の心飼い主知らず」……ちょっと身につまされます(苦笑)
楽しませていただきました。

16/05/12 犬飼根古太

希咲 海さま、コメント頂きありがとうございます。

>着眼点が素晴らしい
ありがとうございます。猫動画と『吾輩は猫である』を絡めてみました。

>コミカルに描かれ読みやすかったです。
あまり経験のない書き方だったのでそういって頂けて嬉しいです。


光石七さま、コメント頂きありがとうございます。

>猫のプロ意識
猫というとなんとなくプロ意識とかプライドが高いとか連想します。

>「猫の心飼い主知らず」……ちょっと身につまされます(苦笑)
ホントのトコ、猫に限らず動物が考えていることなんて、ほとんど分からないですよね(笑)

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