W・アーム・スープレックスさん

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将来の夢
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行列

16/04/21 コンテスト(テーマ):第79回 【 自由投稿スペース 】 コメント:0件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:494

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長い行列ができていた。太一は興味にかられてたちどまった。
いったいどこまで続いているのか、その先を目で追っていくと途中から、ぼやっとカスミがかかった風で、確かめるにもこの位置からではわからないぐらい長かった。あたりには建物がたちならび、食べ物をあつかう店も多く、太一はまっさきに、これはラーメンをまっている連中ではないかと思った。ラーメン屋と行列はいまでは不即不離の関係で、これだけの列を作るぐらいなら、よほどうまいにちがいない。太一は念のため、列の一番後ろにならぶ女性にたずねた。
「これはなんの行列ですか」
「さあ。私にもわからないの。でも、これだけながいんだから、きっと、待つだけのことはあるとおもって、いっしょにならぶことにしたの」
すると彼女のまえにならんでいた中年男性もまた、
「じつは私も、その口なんですよ」
するとそのまえの婦人も、そのまたまえの青年も、さらにそのまえの誰かも、みな一様になんの行列かはわからないまま、とにかくならんでみたとの答がかえってきた。
太一は最後尾から30人まで一人一人、きいてみたが結局みな、これがなんの行列かはわからないものの、希望に胸ふくらませて並んでいることがわかった。
太一が行列に加わったのは、第一に暇だったのと、それにやはりみんなからひしひしと伝わってくる、大きな期待感がいつのまにか彼にも感染したからにほかならなかった。これがもし、本当にラーメン屋の行列だとしたら、それはとてつもなくうまいラーメンにちがいなかった。ラーメン屋の味は、行列の長さによってきまるというのは本当で、いついってもすんなりはいれて、すぐ食べれるラーメンになど、誰が魅力をおぼえるだろう。
だが、それから三十分ほどして、いつのまにか列の両側に出現したラーメン屋の屋台をみて、彼の憶測はもろくも潰えた。あきらかに、それらの屋台は、行列している者たちの空腹を見込んでやってきたものらしく、げんに行列を作っている連中たちが、立ったままラーメンをすすっている光景があちこちでみうけられた。常識からみて、ラーメンを食べたい者の行列めあてにラーメン屋が集まってきたりはしないだろう。太一は、考えをあらためる必要に迫られた。
それにしても、行列の進み具合のこの遅々とした遅さはどうだ。太一がならんではやくも一時間近くがたとうというのに、周囲の光景はほとんど変化していなかった。にもかかわらず、誰ひとりとして行列から離れる者はなく、太一の後方にはさらに何人もが列をなしていた。
太一にしても、この行列のもつ強烈な吸引力にからめとられたもようで、どんなに時間がかかっても行列の尽きるところにあるものにたどりつくまではなにがあってもあきらめないぞと、意気込みをあらたにした。
「やあ」
ふいにした声のほうをみると、太一の知り合いの常木がたっていた。彼は手に、ドローンとおもわれる機材をかかえていた。職業がエンジニアで、きけば休日のきょう、試作機の飛行練習をこの向こうの河川敷でやってきたのだという。
「常木、ドローンってのは、とんでいったさきの光景をみることができるんだね」
「うん、このモニター画面にうつしだされるよ」
と常木は首からさげたコントローラと、タブレットを目で指した。
「それじゃひとつ、たのみがあるんだ。この行列がどこまでつづいているかを、それをつかってたしかめてくれないかい」
常木は、自分の技術が役に立つ機会をえて、喜び勇んだ。
「おやすいごようだ」
とはやくもドローンを地面に置いて、コントローラーのジョイスティックを握った。軽やかな風音をたてて、ドローンが空中に舞い上がっていくのをみて太一は、常木と一緒に10インチのタブレット画面をのぞきこんだ。
画面には、一本の紐のように、どこまでつづく人間たちの列が、真上からうつしだされていた。ときおりその光景が拡大したりまた小さくなったりして、ドローンが風に乗って上下にゆるやかに波打っているのがわかった。
行列は、どこまでいっても尽きる様子はなかった。
「このまま日本の果てまでいって、レミングじゃないが、次々と海に飛び込みだすんじゃないだろうな」
冗談を言う常木が、ふとなにかに気づいたように、
「太一、これをみろ」
太一もすでにそのことには気づいていた。どこまでも一列にのびる列のあるところまでくると、しだいに人々が、微妙に、角度をかえはじめたのだ。おそらくそれは数ミリ単位ほどのものだったが、何十人という人間が数ミリずつ、時計まわりに確かに回転しているのがわかった。一ミリ、一ミリ、のずれが重なって行き、やがて列はいつしか真逆になって、あまりに僅少すぎて本人たちは気がつかないうちに、綱引きさながら、向かい合っているのだった。
「常木、このことを、行列をつくっている人々に告げるべきだろうか」
「いってもかれらは、信じないだろう。それに、こんな不思議な現象が現実におこることじたい稀有だから、この行列をいま解散させるのは、いかがなものか」
「こういうのを、なんとか言わなかったかな」
「メビウスの輪。ちょっと形態は異なるが、近いね」
「人間というのは、本当に不可解な生き物だな」
「だからこそ、面白いんじゃないか」
常木と太一は顔をみあわせ、屈託なく笑いはじめた。


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