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たんぽぽ3085さん

コピーライター&デザイナーとしてうん10年。とにかく書くことと描くことが好き。

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将来の夢 悠々自適
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シロかクロか

16/04/20 コンテスト(テーマ):第107回 時空モノガタリ文学賞 【 色彩 】 コメント:2件 たんぽぽ3085 閲覧数:763

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津崎は神妙な顔つきで席についた。会社の帰りに入った居酒屋だ。
一人でもよく来る、ぼくには馴染みの店だ。
今夜、デザイナーの津崎を誘ったことには理由がある。
昼間、彼女がミスをして、ぼくは久しぶりに大声をあげて叱りつけた。
落ち込んだまま捨て置けば、萎縮して次の仕事にも影響する。
反省してくれればそれでいい。前向きになってもらうためのフォローのつもりだった。

「ま、そんなに落ち込むな。ミスはだれにでもある。これからは気をつけてくれ」
それからしばらくは、ぼくは敢えて仕事以外の、
津崎の家族のことや学校時代のことなどを話題にして和やかな雰囲気になった。
二人とも中ジョッキを三杯空けて、津崎の顔にもようやく明るさが戻って来た。
「あのぉ〜、ウニと中トロ。お刺身、頼んでいいですかぁ?」
 うっ、普段は頼まない高価格帯のメニューだ。
「あ、ああ、いいよ」
「店員さぁ〜ん、それとこれもね。あと大生おかわり!」
「おまえ、飲み過ぎんなよ」
「平気ですよ、安井さん。これきしでわたし、酔いませんから」
若干、目が据わっているようにも見えるが…。
今日はそろそろ切り上げたほうが良さそうだ。
「あ、おまえ…」 言いながら、ぼくは津崎の胸元を指差す。
胸の開いたTシャツから、肌が露出し過ぎているのだ。
「出すんじゃない。しまっておけ」
すると津崎は左手の指で胸元を整えながら、大ジョッキを傾ける。
プッハァ〜!
「出してるんじゃありませんよ。出ちゃうんです。おっきいから」
「そ、そうか…。でも気をつけろな」
「それよりわたしって、仕事が遅いですよねぇ?」
「ここ半年くらいで、けっこう速くなったと思うがなぁ」
「うそ!この間、安井さん、言ったじゃないですかぁ。
 ドジでノロマなカメって。わたしすごく傷つきました」
「あれはジョークだ。本気じゃない」
しかし、彼女は『スチュワーデス物語』を知る年代じゃないか。
あれはマズかったかな。
「教官ったら、ひ、ひどいわっ!」
な、な、なんだ、知ってんじゃないねえかよ!
「わたしは二十四歳。プレミアム年齢なのよ。わかってる?」
「ぷれみあむねんれい?なんだ、それ?」
♪と〜き〜ぃ〜の〜な〜がれ〜にぃぃ〜身ぃ〜をむあ〜かせぇぇ〜♫
いきなり歌い出した。津崎はたまにこうなる。素面でも。
って、テレサテン?昭和ど真ん中!こいつほんとに平成生まれなのか?
♫だからお願いぃぃ〜〜 ソバにイカ天〜♪ギャハハハハァァァ〜。
いかん!このままでは、ぼくの脳髄が破壊される!
「津崎、そろそろお開きにしようか」
「だめ!まだお刺身いっぱい残ってるしぃぃ〜」
ま、まさかこいつは…。ぼくはある噂を思い出して不安になる。
政府が極秘で進めているというプロジェクトの噂だ。
げっ、また出してる!
「お、おい、津崎、胸、出てるぞ。出し過ぎてるぞ」
周りを気にして小声で告げた。
「やだっ、安井さん、見たのね。セクハラポイント200万点追加!」
見せてるのはおまえだろうがっ!それに、セクハラポイントってなんなんだ?
「見せられても見ない。それって現代の男の常識ですよ。それじゃ、管理職失格ね」
何…?も、もしやこいつは…!
「な、津崎、もう帰ろう。終電が近いし…」
「だめよぉぉ〜、だめだめ」
だれか助けて。
待てよ。今の仕草、ギャグのパロディーにしてもウマすぎる!
これはもう『管理能力査定ロイド』に違いない。
昼間のうちに本物の津崎とロイドが入れ替わっていたのだろう。
ちっとも気づかなかった。だが、それが判った以上、もう対応できる。
ぼくは穏やかな微笑みを浮かべて津崎を見つめた。
「疲れてるんだな、津崎。無理もない。最近忙しかったもんな」
すると 津崎の目が疑い深そうにぼくを見る。
「あなた、安井さんじゃないわね。もしかしてロイドなの?
『従順に飼い慣らされた社員養成ロイド』なのね、違う?」
新ロイド法成立により、第7世代HAIを搭載した精巧なアンンドロイドの
民間へのレンタル及び販売が解禁になってから、各企業がこぞって導入に踏み切った。
それ以来、サラリーマンやOLの間には疑心暗鬼が蔓延している。
自分がいつ監視されたり査定されたり、会社の意のままに洗脳されるか、
もはや分かったもんじゃないからだ。
「違うよ、ぼくはロイドじゃない。安心しろ」
どうやら津崎はシロのようだ。ぼくは胸を撫で下ろした。
「♪あの蟹をぉぉ〜 慣らすのはあなぁぁぁぁ〜〜たぁぁぁ〜♫
って、ちっちっち、わたしを飼い慣らすことはできませんよ!」
「だから、違うっつうの!」





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このストーリーに関するコメント

16/04/20 霜月秋介

たんぽぽ3085さま、拝読しました。

上司と部下のやりとりから恋へと発展…かと思いきや、機械と人間のやりとりでしたか!いや、そうだとははっきりからないんでしたね(笑)
小型のロボットが出始めてる今日、この掌編はどこか現実味がありますね。

16/04/20 たんぽぽ3085

霜月 秋介さん、拙文をお読みいただき、コメントありがとうございました。
囲碁の世界でもAIが人間の最高峰に勝利したり、
進歩の加速には目を見張るものがありますね。ちょっと怖いです(汗)

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