汐月夜空さん

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ごみ

12/09/05 コンテスト(テーマ):第十四回 時空モノガタリ文学賞【 駅 】 コメント:1件 汐月夜空 閲覧数:1682

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『ごみ』
『おまえなんかいらない』 
 私が中学二年生の時のことだ。
 母が再婚目前だった男の人と別れることになった。
 原因は隠していた私のことを知られてしまったからだった。
 その日、母は家に帰ってくるなり、血の気の引いた青ざめた表情で、けれど大きく開かれたムンクの叫びのような口からこう言った。
 その時から血の繋がった唯一の肉親の言葉に導かれるように、私は人からごみになった。
 それから三年の時が経過したが、進学することもなく何をするでもない私は、変わらずごみのままだ。
 いや、手入れのされていない薄汚れた斑模様の金髪に、毒々しく紅いルージュ、サイズの合わない黒のスウェットの長ズボンに、胸元にシルバーの十字架が描かれた同じく黒いだぼだぼのパーカーを着て、くすんだ白いクロックスをだらしなく履きこなす私は、外見だけをとっても一層ごみらしくなったのかもしれない。
 母とはその時から言葉を交わしていない。どうやら引け目を感じているのか、毎日台所の机の上に食べ残しと千円札を置いていくが、それだけの関係だ。風呂も別にたてるし、洗濯も別。
 ごみの私はごみらしく、人である母とは喋らないし、世話にもならない。それがごみのようにちっぽけな私のほこり。
 ごみはごみらしく。路上でみすぼらしく座っていれば、なおのことごみらしくなるかもしれない。そう考えて近くの大きな駅の路上に座り続けていると、あっという間に私のようなごみが集まってきた。
 なるほど、埃とはこうしてできるのか。
 なんて思いながら、気付いたときには抜け出せないほど大きくなった埃の中に居た。もう後戻りは出来なかった。
 そんな生活の中で、私は自分自身にルールを与えた。
 私はごみだ。それを認めろ。
 私は人に危害を与えてはならない。
 私は、――。


 右へ。左へ。大きく。小さく。革靴やヒールで世話しく動くもの。仲良く並列して歩くローパーの群れ。白いハイソックス。黒いニーソックス。などなど。
 複雑なアチュードを奏でる世の中に溢れる様々な足たちに思いを馳せながら、私は今日も駅の構内で存在感を消すように膝を抱えながら座っていた。
 混んでいるはずなのに、私の周りだけ空白の世界。世界から切り離された私だから、それが当然。
 ぐしっと腕の中に斑色の頭を埋め込み、目を閉じてしばらく。
 声をかけられる。
「よう」
「シゲさん」
 見上げると、くたびれてよれよれのジャージに身を包むおじさんがこちらに向かって笑みを向けていた。ホームレスのシゲさん。三年前から居る私よりも先輩。
「今日は冷えやがるな」
 隣に腰かけたシゲさんは、赤く色づいた椛を私に渡してきた。受け取って指の間でくるくる回すと、かさかさと音がする。その音とお尻から伝わる地面の冷たさが来る冬の訪れを感じさせた。
「ですね。ジャージどうしたんですか?」
「もういらねえからくれてやる、ってあいつらがな」
 以前はこげ茶色のチノパンに白いYシャツを着ていたシゲさんは、いつもより早く通りがかった男子高校生たちの方へ親指を立てて答えた。なるほど、卒業前の在庫処分といったところか。
「目が赤いのは?」
「なに。加減をミスったのかえらく強く投げ渡されてな。ちょっと目に当たっちまったのよ」
「……なるほど」 
「おうよ。温かくていい感じだぞ」
 がはは、と豪気に笑うシゲさんを呆れながら眺める私。
 その視線の先に――。
 バッと立ち上がって、駆け出した私は、視線の先の少年へと声をかけた。
「おい」
 ビクッと肩をはねさせた、十歳くらいの少年。その足元には、いましがた食べ終わったのであろう白いアイスの棒が落ちている。
 私の姿を見て驚いたのか、駆け出しかけた少年の腕を、マニキュアに染まった手で掴む。
「このごみ。お前のだろ」
 アイスの棒に向かって指を指す私、首を振る少年。私は声を苛立たせて言った。
「嘘つくな」
 またも肩を震わせる少年は、泣き出しそうな顔で頷いた。
「ごみはごみ箱に捨てろ」
 何度も頷く少年。おら、とけしかけてやると、びくびくしながらごみを拾い上げて、近くにあったごみ箱へ捨てた。
「よし。私みたいのに絡まれたくなかったら、二度と道端に捨てるな。良いな」
 頷く少年。
「ほら、行っていいぞ。お前1人か。帰り道に気をつけろよ」
 くるっと回転させてぽんと背中を叩いてやると、少年は何度か振り向きながら立ち去って行った。
「……たく、最近のガキのしつけはどうなってやがるんかねえ」
 いつの間にか後ろに来ていたしげさんの呟きに苦笑してから、私は答える。
「ごみからはごみしか生まれないんですよ、シゲさん。だから私は、人がごみに変わる瞬間を止めることにしたんです」
 人の良いしげさんはわざわざひゅうと口笛を吹いて、私の戯言に答えてくれた。


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このストーリーに関するコメント

12/09/23 汐月夜空

凪沙薫さん、コメントありがとうございます。
私も同じ意見です。彼女は決してごみではないでしょう。
気づかぬうちにごみになるヒトも居れば、決意を持ってごみでいるヒトも居る。
それぞれに事情がある、だからヒトは見た目だけで判断してはいけない。
私が普段から気をつけていることです。
もちろん、ごみという表現はこの話のための強調された表現で、普段はそんな失礼なことは思ってはいません。

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