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冬垣ひなたさん

時空モノガタリで活動を始め、お陰さまで4年目に入りました。今まで以上に良い作品が書けるよう頑張りたいと思いますので、これからもよろしくお願いします。エブリスタでも活動中。ツイッター:@fuyugaki_hinata プロフィール画像:糸白澪子さま作

性別 女性
将来の夢 いつまでも小説が書けるように、健康でいたいです。
座右の銘 雄弁は銀、沈黙は金

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こちらうりずん水族館

16/04/11 コンテスト(テーマ):第105回 時空モノガタリ文学賞 【 水族館 】 コメント:9件 冬垣ひなた 閲覧数:965

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 またうりずんの季節がめぐって来た。
 この時期出番が近づくと、透は何だか緊張してしまう。
 今日も立つのは、客席の一望できるステージ。
 そして沖縄の潤んだ空へ、あいつらは元気に跳ぶ!


 沖縄の海に憧れて何年だろう?三重県の水族館でアシカショーを担当していた透は、この南国の水族館への異動が決まった時有頂天だった。右も左も分からぬ観光客に混じって、透が「うりずん水族館」にやってきたのはその年の冬だ。うりずんは沖縄の言葉で、3月頃から5月の梅雨入りまでの時期を指す。何となく素敵な響き。
 何だかトドのような風体の館長は、人懐っこそうな笑みで透を迎え入れてくれた。
「君、体格いいね。泳ぎは出来る?」
「ダイビングは趣味で……」
「イルカショーに出てみる気はないかね?」
 言われて「はい!」と即答した。以前の水族館にはイルカはいなかったから諦めていたけれど、憧れのイルカと仕事が出来るなんて!
「イルカは頭がいいし思いやりもある。これ以上癒される仕事はないと思うよ」
 館長の言葉に、透は大いに夢と希望を抱いた。


 ……そう思えたのはイルカのトレーナーになってしばらくのうちだった。
「キュー、キュー」
 トレーニング中、芸を失敗させたのに、愛らしい仕種で餌をねだるバンドウイルカのリク(オス・30才)を前に透は溜息をつく。
「駄目じゃん」、仲間からは軽くブーイング。
 このイルカプールの花形であるリクはベテランで、20代の透より歳だって上だ。これはリクが失敗したのではない、透の失敗だ。
「どうして駄目なんだろう」
「単純に、お前嫌われてるんじゃない?」
 イルカの視認能力は結構凄い。潜水具をフル装備した水中でも誰だか分かる位だ。当然ながら人の選り好みもする。加えてイルカは頭がいい。透の失敗が増えれば、お気に入りのトレーナーにチェンジされる、それ位の読みはしているだろう。
 もうっ、全然癒し系違うし……!
 リクに手を焼いているのは透だけでない。これは誰もが通る道なのだ。そう言われてはいるが、友情なり愛情なり、イルカというものに寄せる期待が大きかっただけに、打ち砕かれるものも大きい。
 イルカって、こう、もっと包容力がある動物かと思っていた。
 頭はいいけれども、思いやり足りなくねぇ?


 それでもどうにか透もイルカショーに立てるようになった頃、温暖な沖縄に春が訪れた。
 雲が青空を隠し、雨粒が草木を濡らす日々が続く。
 沖縄独特の潤い初め。
 これがうりずんかぁ……。
 透がそう思ったある日の朝礼。いつもは作業着の館長がスーツ姿で現れたので驚いた。
「本日は、沖縄戦の開戦日です」
 館長の話は続いた。
 かつて、うりずんの季節に戦争があったこと。
 瑞々しいこの沖縄の自然が、長い間米国の占領下にあったこと……。
「戦争は要りません。沖縄に、この素晴らしい珊瑚の海の様な安らぎが戻る事を願い、うりずん水族館は作られました」
 館長はこうも言った。
「水族館、ここは特別な場所です。彼らは生まれた故郷から連れて来られ、造りものの海で暮らしている。だから我々は責任を持って、彼らを家族のように愛さなければならないのです」
 ……それからの透は、大水槽の前で休憩時間を過ごすようになった。館長の言葉を反芻し、見慣れた風景になりつつあったジンベイザメやマンタを眺めていると、沖縄の海に魅せられていた純粋な気持ちが蘇った。


 その日は、とんでもないアクシデントがあった。
 ショーの真っ最中、イルカプールに小さなボールが投げ込まれたのだ。犯人は子供なのだろうが、イルカは何でも飲み込む習性を持っている。小さな異物でも命に関わるのだ。
 危ない!思った瞬間、透はプールに身を躍らせていた。
 水面にぷかぷか浮くボールを捕えた透に、一頭のイルカが猛スピードで近づく。リクだ!
「よけろ!」
 ぶつかれば怪我をする!
 そう思った手前で、音もなく視界に影が架った。
「あ」
 透は息を飲んだ。
 その頭上を。
 指示もなく、リクの巨体が宙を飛んだのだ!
 横っ跳びの見事な大ジャンプ!
 サッバァァーン!
 着水した水滴が、透の上へ雨のように降り注ぐ。
 お客さんは拍手喝采。他のトレーナーも手を叩いて喜んでいる。今一何が起こったのか分らない透だったが、思った。
 母ちゃん、沖縄っていってもな、うりずんの水は冷たい。
 でも、人もイルカも、あったかい……。
 リクは何事もなかったように餌をもらっている。
「キュイ、キュイ」
 よう、若いの。お前も一緒に食わんか?
 そう言われたような気がしたが?
 そんなわけないか。鳴りやまない拍手の中、透はステージまで泳いだ。


 ……いつしか透はうりずん水族館の名物トレーナーへと成長していくのだが、それはまた、別の話。


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このストーリーに関するコメント

16/04/11 冬垣ひなた

≪補足説明≫
・うりずん水族館は架空の水族館です。

・こちらの画像は「写真AC」とPixabayからお借りしたものを加工しました

≪参考資料≫
・もういちど宙へ 沖縄美ら海水族館人工尾びれをつけたイルカ フジの物語 (岩貞るみこ・著)

16/04/14 にぽっくめいきんぐ

拝読しました。

動きがあって好きです。脳内再生余裕でした(笑)

館長さんのお言葉が、現実をしっかり見ていてドキリとしました。それをきっかけに、透に変化があって……という流れが、良いと思いました。

16/04/14 冬垣ひなた

小狐丸さん、初めまして。コメントありがとうございます。

うりずんは私が生で知った初めての沖縄の言葉でした。
私自身は沖縄に行った経験のないため、
館長の話などは言葉の選択が非常に難しかったのですが、
主人公達を暖かく感じて頂けて良かったです。


にぽっくめいきんぐさん、初めまして。コメントありがとうございます。

イルカの話なので躍動感ある文章を!と意気込んでましたので、良かったです。
世間で色々言われる辺りは、水族館側も分かっているという事は
書いておきたかったので、館長さんの言葉に代えさせて頂きました。
透がいいトレーナーに成長してゆく事を、作者も信じています。

16/04/20 滝沢朱音

うりずん水族館、まるで実在するかのような説得力のある描写が素敵です。
リクはこのアクシデントで、少しは透のことを認めてくれたのかもしれませんね。
ひなたさんの前の沖縄の掌編も素敵でしたが、このお話も好きになりました。

16/04/22 冬垣ひなた

滝沢朱音さん、コメントありがとうございます。

水族館は娯楽の部分を切ったら研究所になってしまうと思うので、全体的にはエンタメ性のある話に仕上げました。テーマ「沖縄」の時、この話と拙作「ガジュマルは戦場で死んだ」はどちらを書くかとても悩んだので、
今回蔵出しの機会を得られて本当に良かったです。

16/04/22 つつい つつ

透がリクや館長、たくさんの人と触れあって沖縄にとけこんでいく様子が微笑ましかったです。 うりずん水族館、すごく行ってみたくなりました。

16/04/26 そらの珊瑚

冬垣ひなたさん、拝読しました。

水族館のイルカショーはいわば花形。
けれど実際にその仕事をする方は、
観ているだけではわからない、相手が生き物であることも含めて大変さがあるのでしょうね。
それを一つクリア出来た透のこれからを応援したくなりました。
また、平和でなければ水族館は成り立たないものでしょうし、あらためて平和を願う気持ちにもなりました。

16/06/04 冬垣ひなた

つついつつさん、コメントありがとうございます。

モデルにしたのは沖縄美ら海水族館ですが、「そうだ水族館に行ってみよう」と思えるような作品にしたかったので、楽しんでいただけて良かったです。


そらの珊瑚さん、コメントありがとうございます。

イルカ可愛いといいますが、我々は営業担当のイルカしか見ていないからそう感じるのであって、ショーに出るには癖のあるイルカたちもバックヤードにいます。
透が少しずつ馴染むしかないのですが、前向きなラストになって良かったです。
うりずんは私が通っていた診療所の名前でした。沖縄の方にとってはなじみ深い言葉なのでしょうね。

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