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ケイジロウさん

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飼育員のおねぇさん

16/04/11 コンテスト(テーマ):第105回 時空モノガタリ文学賞 【 水族館 】 コメント:1件 ケイジロウ 閲覧数:652

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 ここは天国に違いない。
 なんか水が穏やかだ。そして、きれいだ。
 餌が簡単に手に入る。昨日山田君に教わったんだけど、あの餌は飼育員と呼ばれる人間が、決まった時間に決まった量の餌を僕たちに届けてくれているらしい。お腹がすいたと思ったら、上からヒラヒラと餌が降ってくるので、おかしいなと思っていたんだけど、そういうことらしい。だから狩りの心配も空腹に苦しむ必要もなくなったんだ。
 そしてなんといっても、天敵のサメに出くわしていない。前までは毎日のように、僕たちの前に現れ、仲間を次々の飲み込んでいったんだけど、ここ天国に来てからは一度も出くわしていない。ただ、リーダーの命令で、今まで通りフォーメーションを組む練習は毎日欠かさず行っているんだけどね。
 因みに、山田君はフォーメーションの練習には加わらないんだ。「意味がない」って言ってた。これも昨日教わったんだけど、ここは天国ではないらしい。ここは水族館と呼ばれるところで、サメもいるけど、僕たちがいる海には入ってこられないんだって。なんか理由を言っていたけど、僕にはよく理解できなかった。でも、山田君は頭がいいし、今まで間違ったこと言ったことないから、僕は信じているんだ。
 天国、いや、水族館に来てからもうすぐ一か月が過ぎようとしている。どうやら山田君が言っていたことは本当だったようで、サメにまだ一度も出くわしていない。そして、相変わらず、決まった時間に餌が上からヒラヒラと落ちてくる。今では、みんなバタバタすることなく、自分のところに落ちてくるのをだまって待っいる。
 今、僕はなんだってできる。自由だ!制約されるものなど何一つない。好きな時に寝て、好きな時に本を読んで、フォーメーションの練習も気が向いた時だけでる。「練習に参加するもの、今なら餌倍増」キャンペーンを、青年部がやっているけど、あまり効果はないようだね。
 自由だ!
 でもね、何か違和感があるんだよね。うーん。
 まず、昔のように仲間を意識することが減ってきた。仲間同士の会話も減ってきた。フォーメーションの練習への参加率もだんだん落ちてきている。練習中、お局が一人いて、身だしなみだとか、あいさつだとか、美しさだとか、よくわからないことをギャーギャーと言ってくるから、みんな厭になっちゃったんだろうね。僕も正直、あのお局にサメが見えているか聞いてみたい。たぶん、あのお局は水の外で、あほ面をしている人間たちしか見えていないんだろうね。
 そして、ここに来てから、みんな泳ぎがへたくそになってきているように感じる。もちろん、僕も例外ではない。体重が増えたのか、やたらと体が重いんだ。そもそもここにいれば速く泳ぐ必要なんてないしね。だって誰も追ってこないんだし。強いて言うならば、いつも餌をくれる飼育員のおねぇさんの存在が、唯一の速く泳ごうとする理由になりうるかな。
 あと、ちょっと哲学的になってしまうけど、自分自身についての新たな発見がめっきりなくなってしまった。予期してない出来事が起こり、それに無我夢中で対処をする。その過程の中でいろいろな発見があったんだけど、今はない。意外と勇敢な僕。卑怯な僕。自己中心的な僕。キャピキャピ女子魚の前では、無駄に速く泳ぐ僕。そして、弱い僕・・・。自分のことが厭になっちゃうこともよくあったけど、今思えば、それはそれで生きてるって感じがするんだよね。
 そうだ、やっぱり海にもどりたい。あの広大な海に。いろんな価値観を持った、いろんな種類の魚がいる、あの海に。すべての種類の魚たちと仲良しになれるわけではないけど、中には仲良くなれる種もいる。例えば、鯛とか鰹とか。初めて会った時はエラソーだったけど、しゃべってみると意外と優しかった。ただ、シャイなだけなんだよね。
 やっぱり海にもどりたい。僕の仲間の命をたくさん奪っていった、あの憎きサメがいても構わない。今度こそ絶対うまく逃げて見せる。仲間といっぱいフォーメーションを組む練習をするんだ。仲間と知恵を出し合って、どんどん改善改良させていく。もしかしたら、仲間を失うかもしれない。僕が食べられてしまうかもしれない。でも、危険を感じて生きていきたい。そもそも生きていること自体が危険なことなんだから。
 そしていつの日か、サメを脅かす存在になってやるんだ。サメのことを追いかけてやるんだ。想像しただけでも愉快になる。サメの奴のことを食べたいなんて思ったことなんかないけど、いつかやっつけてやる。サメなんかに負けてたまるか。
 そんな努力を、そんな挑戦を、僕はしたいんだ。

 あっ、飼育員のおねぇさんだ。今日の夕食は何かなぁ?


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このストーリーに関するコメント

16/04/14 にぽっくめいきんぐ

拝読しました。

わかります! 外敵がいないと緩むんですよね。
そして、すごく人間っぽくてかわいい主人公でした。
面白かったです。

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