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犬飼根古太さん

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将来の夢 どれだけ掛かっても作家になることです。
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僕らの水族館の壁が流された日のこと

16/04/11 コンテスト(テーマ):第105回 時空モノガタリ文学賞 【 水族館 】 コメント:7件 犬飼根古太 閲覧数:1277

時空モノガタリからの選評

子供たちの「秘密水族館」というアイデアが光っていますね。浜辺の街に住むという実体験からくるのでしょうか、ひとつひとつの描写が具体的でリアリティがあり、あたらしい体験への興奮と浜辺の情景が直に伝わってきます。ことさらいい話≠ノする感じでもなく、ていねいな作業の描写の積み重ねによって、密やかな連帯感のようなものが描かれ、シンプルながらも鮮烈な印象が残りました。

時空モノガタリK

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「俺らで秘密基地、作らへん?」
「秘密基地? でも二人しかいないよ?」
「いいやん。別に。……俺らを除け者にした奴らが羨ましがるぐらいごっつい秘密基地作ったろうぜ」
 父の転勤の都合で、愛知県名古屋市のベッドタウンに当たる海辺の片田舎に引っ越してきた小学五年生の僕は、同級生のタッちゃんと遊びの相談をする。
 タッちゃんは、いつもホッペを赤くして青洟を垂らし、靴底に泥をべったりと貼り付け、――そして、磯臭い香りをまとっている子供だった。
 年がら年中かなり薄着で過ごし、穴の空いた靴を履いている。彼の家は貧乏だった。
 端的に言えばタッちゃんは仲間外れにされていたし、転校生の僕も上手く周りに溶け込めずにいた。
 正直えば五年生という高学年に上がったのに秘密基地遊びなんかしたくない。返事を渋る僕に、
「基地の隣に水族館を作ろうぜ。秘密水族館≠セ」
 タッちゃんがそう提案し、俄然興味が湧く。
「水族館なんて作れるの?」
「作れる」
 タッちゃんは頼もしく頷く。
 浜辺に流木で描きながら彼が説明するところによると、透明のゴミ袋やビニールなどを使って磯の一部を囲い、取ってきた小さな魚をそこに放つのだそうだ。
 水族館というより生け簀というべきだろうが、僕は自分達で作る水族館≠ニいうイメージに興奮した。
 それに、以前は内陸部に住んでいたので、海で遊ぶのは物珍しく楽しかった。意外なことに漁村に住むのに、浜で遊ぶのをダサイ≠ニか考える子供が多い。なのでその日、狭い浜辺は僕らだけのものだった。
 僕とタッちゃんは早速、僕らの水族館≠フ仕切りとなるビニールを集めに自宅や商店街などを回る。材料は簡単に揃った。
 ただし、作るのは想像を遙かに超えて大変だった。
 まず第一に、なまなかな囲いを作ろうものなら、たちまち波によって壊される。波の力というのは見た目よりもずっと強く、しかも押してくるだけでなく、引いてもいく。この引く力というのも馬鹿にならない。
 ビニールに通した紐が徐々に解け始めるのも時間の問題だったし、ガムテープなどの補強なぞ水気や波の飛沫で粘着力がぐんぐん落ちていき、ペロンと剥がれてしまう。
 それでも磯に大きな石を運んで堤を築き、例のビニールを補強に補強を重ね、どうにか完成した。
「おっしゃ! 完成や!」
「やったー!」
 この時ばかりは僕も子供っぽく声を上げてしまった。
 秋の澄んだ日差しの中、きらきらと輝く僕らの水族館=B
 その水中を泳ぐ小さな魚の群れ。水底を歩く赤い蟹。
 まぁ……冷静に見れば金魚掬いの半分程度の規模なのだが、それでも達成感は大きかった。
 しかし、喜んだのもつかの間。
 いきなり高い波が押し寄せてきた。稀にこういう波が来ることがある。
 その高い波は、水族館の外壁であるビニールを破壊し、それだけでは飽きたらず引く時にその外壁を掻っ攫っていってしまう。
「ウギャー!」
 タッちゃんが絶叫しながら引き千切られたビニール目掛けて走り出す。歯を食い縛って僕も全力で駆け出す。
 冷静に考えれば、新しいビニールで補強すれば良かったのだが、僕らの目には僕らの水族館の外壁≠ニして映っていたのだ。
 結局僕らの水族館の外壁≠取り戻すことはできなかった。
 膝まで濡らしただけですごすごと浜辺に引き返した僕らは、とりあえず靴と靴下を乾かすことにした。一向に乾かない靴下に痺れを切らしたタッちゃんが木切れを集めて、焚き火を始め、そこに細長い流木に刺した靴下や靴を近づけて乾かし始める。
 何だかとても面白そうに見えて、僕もそれに倣う。
 靴下が乾いた頃。化繊の入った僕らの靴下は、すっかり縮んでしまって履けなくなってしまった。
 笑いながら手に持つ靴下からは、プゥンとタッちゃんと同じ磯の香りがした。


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このストーリーに関するコメント

16/04/17 たま

犬飼さん、拝読しました♪

あ、いいですね。
とてもリアルな描写ですが、無理のないストーリーだと思います。
最後の一行もいいですね。
愛知県の知多半島のあたりでしょうか。
ひとつ気になるのは化繊は縮むでしょうか?
縮むのはウール(純毛)だと思うのですが。
細かいことですがしっかり検証してみてくださいね。


16/04/17 犬飼根古太

たま様、ありがとうございます。
化繊の靴下をキャンプファイヤーで乾かして縮んだ経験を元に書きました。

『絹 専門店のきごころ屋』の「燃やす」の項目に以下のように書かれています。
引用URL:http://kigokoro.morikiya.com/1silk3.html

「化学繊維は、石油等から出来ており、ビニールに似た燃え方をします。」

ビニールは縮むように溶けます。靴下も化繊の部分が溶けた結果、靴下全体が縮んだようになった記憶があります。もう随分昔の話なので勘違いかもしれませんが、一応、見た目の描写としては「縮む」でも問題ないと考えております。
ご指摘・ご感想ありがとうございます。

16/04/30 滝沢朱音

「僕らの秘密水族館」。このわくわくした響き、いいですね!
この掌編はたぶん1500字くらいでしょうか、この無駄のない短さの中に、
少年期特有のきらきらした冒険譚が、ギュッとつめ込まれているようで。
とても惹きつけられました。

16/04/30 犬飼根古太

滝沢朱音さま、コメント頂きありがとうございます。

>「僕らの秘密水族館」。このわくわくした響き、いいですね!
ご感想を頂き初めて気づきましたが、そちらの方がタイトルに相応しいと感じました。言葉を選ぶセンスを見習いたいと思いました。

>この無駄のない短さの中に、少年期特有のきらきらした冒険譚が、ギュッとつめ込まれている
ありがとうございます。少年期を実際に海辺の町で過ごしたので上手く掌編に収めることができたように思います。
ご感想ありがとうございます。

16/05/01 光石七

拝読しました。
学校では疎外感を持つ二人だけど、秘密水族館を作る興奮や流された壁を取り戻そうとする懸命さ、焚き火で縮んだ靴下と笑顔、すごく輝いていると感じました。
仄かなノスタルジーも相まって、とても惹きつけられます。
素敵なお話をありがとうございます!

16/05/07 犬飼根古太

光石七さま、コメント頂きありがとうございます。

おっしゃる通り「学校では疎外感を持つ二人」だからこそ、興奮や笑顔がより一層輝くのでしょうね。
また、大人になってこんな風に遊んだりしなくなったためか、こういうことに郷愁を覚えます。
こちらこそ読んで頂き、ありがとうございます。

16/05/09 犬飼根古太

時空モノガタリKさま、コメント頂きありがとうございます。

>「秘密水族館」というアイデアが光っていますね。
ありがとうございます。おっしゃる通り浜辺の街に住むという実体験のおかげでリアリティのある文章が書けたように思います。

>いい話
つい意識し過ぎて失敗することがありますが、今回は上手くいったようで良かったです。これからも丁寧な描写などを意識して、印象的な作品に仕上げるように努力致します。
他の方のコメントもそうでしたが、とても参考になりました。ありがとうございます。

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