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終わり

16/04/11 コンテスト(テーマ):第105回 時空モノガタリ文学賞 【 水族館 】 コメント:0件 kanza 閲覧数:405

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堤防の先に座り、沈んでいく朝日≠見ていた。
ふと視界の端の古びたコクリートに気付き、小さかった頃を思いだした。
イルカショーなどで華やいでいたあそこも、イルカもいなくなったというから、もうすぐ終わる(潰れる)のだろう。
終わり、その言葉がちくりと胸に刺さった。
私は……終わってる。
水泳も学校もやめ、逃げ込んだ夜の街。そこでも、ただ彷徨っているだけ、そんな気がする。
「あれ? どこの誰かと思えば」
そんな声が聞こえ、振り返ると制服姿の高校生が立っている。
美佐? 彼女と会うのは2年ぶりだが、まったく変わっていない。水泳部のはずだけど、相変わらずのぽっちゃりちゃん。
「た、大変です! おまわりさーん、暗い顔したケバいお化けを発見しました」
美佐は誰もいない堤防の手前に向かって、おどけた調子で叫んでいる。
私は厚化粧した自分の顔を思い浮かべ、鼻で笑った。
美佐が飛び跳ねるように横に腰を下ろした。「あのさあ、松岡のこと覚えてる? あいつがさあ――」
きっと私の事は噂か何かで聞いているだろう。それでも彼女は何も聞かずに、中学生だったあの頃のように話しだした。
中学の頃、私も美佐も水泳部で、クラスも一緒だった。といっても田舎なので2クラスしかなく、違うクラスの子もみんな知っている。そんな感じだ。
「ちょっと見て」
美佐は立ち上がり、リズムを口ずさみ始めた。一本指が空へと向かっている。
「どう? いけてる? 今度、文化祭で踊るんだよね。水泳部でシンクロ、ほら、男子のシンクロって流行ったでしょ。あれを男女混合でやるのよ。それの丘ダンスを今から練習してんのよ」
にこにこ笑顔でランニングマンを踊る姿がいつしか曇って見えていた。
私もここにいたら……みんなと楽しく泳げていたのに。
小さい頃から泳ぐことが大好きだった。だからなのか、タイムはのびていき、中学3年の頃には全国レベルになっていた。そうなれば県外の強豪校に行くのは自然の流れだった。でも、高1の夏、練習中に靭帯を損傷し、流れは止まった。完治はしても、以前のタイムはでなかった。ただただ苦しい日々が続き、泳ぐことが大嫌いになっていた。
「おいおい、どうした?」
しゃがみ込み、優しい声をかけてくれる姿を前に、私は泣きじゃくりながら、言葉を漏らしていた。「戻りたい。泳ぐのが楽しかった……大好きだった……あの頃に」
私の泣き声と波音が潮風とともに流れていく。それを全て吸い込むように、美佐が鼻水をすすり上げた。手の平でぐりぐりと目をこすり、真っ赤な目を私に向け、にやりと微笑んだ。
と次の瞬間、背中が押され――「ぶっはあ。ちょ、ちょっと、なに!」
海面から叫んだ私の声は、続いた大きな水音と、しぶきに飲み込まれた。
浮き上がってきた美佐は抱きついてきたかと思ったら、私の首へと腕を巻き、手を私の顔へ。
「っちょ、なっ――」
文句を言おうにも、海水で濡れた手でごしごし擦られ、言えたもんじゃない。
「よっし」そう言うと彼女は、首から腕を放し、にっこり微笑んだ。「あれ? 誰かと思えばアキちゃんじゃありませんか。どうもどうも」
そのとぼけた言い方がおかしくて、思わず笑ってしまった。
「ねぇ、覚えてる? アキが県大会で優勝した時、『おめでとう』って言いながらみんなでアキをここに投げ入れたこと」
「覚えてるよ。その後、美佐がみんなも投げ入れて、最後に『バンザイ』って言いながら、足まで広げて飛び込んできたことも」
「そうそう。懐かしいね」美佐は真直ぐな瞳を私に向けた。「ねえ、アキ。一緒に踊ろうよ。みんなとシンクロしよっ。ねっ」

――文化祭が一週間後に迫った日、堤防に腰掛ける二人の姿があった――
「マジで、あの石頭校長むかつく。なにが部外者が参加するなら学校のプールは使わせないよ!」
「しょうがないよ。昔にみたいに一緒に練習できただけで楽しかったし、それで充分だよ」
そう、充分。でも、美佐の膝の上に固く握られた拳があるのを見ると、つい涙が……。
美佐は言葉にならない叫び声を海にぶつけ、潤んだ瞳でじっと海を見つめている。
と突然、腕が引っ張られた。そして、私は美佐に引きずられるように堤防を後にしていた。
     ☆
潮風がプール裏にまで大きな拍手を運んでくる。
軽快な曲が流れ始めると、輪の中心にいる美佐が雄叫びを上げ、走りだした。私たちも声を上げながら続く。そして、勢いそのままにプールに飛び込んだ。
曲に合わせて、泳ぎ舞う。
歓声と時に笑いが溢れる中、美佐の言葉を思い浮かべていた――学校がだめならイルカにでもなってやる!
私たちは丘(プールサイド)へとあがり、一本指を突き立てた。
ランニングマンのステップを踏み始めると、いつしか観覧席の老若男女も指を突き立てて、大歓声が溢れていた。
――終わってなんかない。ここも私も。


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