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ポテトチップスさん

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Y県の壁

16/04/10 コンテスト(テーマ):第106回 時空モノガタリ文学賞 【 ねこ 】 コメント:0件 ポテトチップス 閲覧数:582

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「Y県を壁で遮って隔離します」


田中総理の命令により、Y県は他県と接する県境に、高さ10メートルの分厚い壁が永遠と、わずか1日で完成した。これにより、Y県民はこの遮断壁の中でしか行動できない自由を奪われた。
「光浦知事、我々は日本国民に見捨てられたんですよ!」Y県庁知事秘書の柿生が言った。
光浦は知事室の椅子に座りながら、湯呑の冷めたお茶を一口飲んだ。
「もう少し、様子を見るしかない。柿生君、幹部を全員、知事室に呼んでくれ」
「分かりました」柿生は速足で部屋を出て行った。
光浦はY県民の感染者データが記された書類にもう一度目を通し、ため息を吐いた。
部屋がノックされた。
「どうぞ」
「秘書の柿生を先頭に、10人の県庁幹部、それにY大学教授など有識者が部屋に入って来た。
応接ソファーに全員は座れず、座れない者はパイプ椅子に座った。
「田中総理から先ほど電話があった。いま、国は官民一体となって、全力でネコ新型インフルエンザウイルスの、特効薬の開発を急いでくれているらしい」
「知事、この伝染病ウイルスは、ネコが感染源だという根拠は曖昧です。もしネコが感染源の原因だとしたとしても、なぜY県民だけが感染しているのでしょうか? それに、Y県に遮断壁を設置して、他県との接触を遮るこの行為は、我々、Y県民の人権を無視する行為です!」Y大学生物学部教授が、拳を強く握りしめながら言った。
「総理が決断したことだから、それに従うほかない。山根君、最新の被害状況を伝えてくれ」
災害課課長の山根が、手に持っているノートパソコンを観ながら「最新の被害状況をお伝えします。正午現在、ネコ新型インフルエンザウイルスの疑いがある感染者数は、20万3千人。
内訳は15歳未満の子供の感染者が15万人。65歳以上の高齢者の感染者が4万人。その他が1万3千人です。死者の数はまだ詳しく分かっておりませんが、かなりの死者が出ている模様です」
知事室にいる誰もが大きくため息を吐いた。
有識者が知事室を出て行った後、1週間、ろくに眠る時間がなかった光浦は、強烈な睡魔に襲われ、椅子にもたれるようにして眠った。
どのくらい時間が経ったのか、携帯電話の呼び出し音で目が覚めた。
電話を切った光浦は、机に両ひじをのせ髪を掻き毟って泣いた。ウイルスに感染し、病院に入院中だった孫の拓海の死を知らせる電話だった。
涙がおさまり、覚悟を決めた光浦は首相官邸に電話をかけ、田中総理につないでもらった。
「総理、Y県は県内のすべてのネコを、焼却処分することに決めました。それと1日も早く、遮断壁を撤去してください。県民の多くが、遮断壁で隔離されていることに苦痛を感じています。これではまるで、我々が悪の根源であるかのように感じます。我々の人権を守るためにも、明日中に遮断壁を撤去してください」
田中総理は、最後まで明日中に撤去するとは言わなかった。
電話を切った光浦は、夕日が差し込む知事室の窓から、街を見下ろした。このいつもと何も変わらない光景のどこに、こんな大惨事が隠れているのだろうかと思った。
翌日、知事の権限のもとで、県内のネコは焼却処分されていった。野良猫やペットとして飼われているネコも、家主が殺さないでと泣きながら懇願したとしても、焼却処分をした。
県内からネコが一匹もいなくなった。それなのにネコインフルエンザウイルスの猛威は治まるどころか、酷くなる一方だった。
知事室の電話が鳴った。
「はい、光浦です」
「田中です」
「総理! お電話お待ちしておりました。特効薬は?」
「まだです」
光浦は落胆した。
「ただ、一つ分かったことがあります。このネコ新型ウイルスはテロの可能性があるということです」
「テロ?」
「そうです。感染したネコの死体を検査したところ、自然界では作られることがないHTB細菌が見つかりました。このHTB細菌は、新型の生物兵器だということが今の段階で分かりました」
「なぜ、東京ではなく田舎街のうちの県なんですか?」
「なぜかは分かりません。ただ、何者かのテロリストがネコを通してウイルスを広めようとしたことは間違いのない事実です。それとこの生物兵器は、空気感染はしないことが分かりました。感染するには、ネコに触れた手で食べ物を口にしたり、または感染した人間から人間にうつります。感染力は強くはありませんが、特効薬がまだ見つかっていないため、感染すると命にかかわります」

3か月後、念願の特効薬が開発された。
何者かのテロリストによる大規模な生物兵器使用は、ネコを通してY県民を苦しめた。感染者数40万人、死者の数は8万人を超えていた。
感染者は後遺症として、顔に無数のイボが見るに堪えないくらい残った。彼ら彼女らは、この顔を他県の人に見られるのが嫌で、遮断壁は取り壊さないように懇願した。


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