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あずみの白馬さん

成人済 アイコンは天乃ゆうりさん作成(無断転載を禁じます) 自分なりの優しい世界観を出せるように頑張ります。 好きな作家は飯田雪子先生です。若輩者ですが、よろしくお願いします。 Twitter:@Hakuba_Azumino

性別 男性
将来の夢 旅立つときには、ひとりでも多くの人に見送られたい。
座右の銘 「これでいいのだ」

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イルカショーのお姉さん

16/04/09 コンテスト(テーマ):第105回 時空モノガタリ文学賞 【 水族館 】 コメント:3件 あずみの白馬 閲覧数:1841

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「水族館って懐かしいわね」
「あの時以来ですよね」

 30代ぐらいの女性と、20代ぐらいの男性が、東京近郊の水族館を2人で回っている。どちらからとも無く感慨深げに思い出話を始めた。

***

 10年前、2人の地元の地方都市の水族館。
「イルカのショーへようこそ!」
 お姉さんの掛け声とともに、イルカたちが水しぶきをあげて飛び跳ねる。
 会場から歓声が上がる中、1人の少年はお姉さんの方を見ている。それに気付いたお姉さんは、
「(また、あの子来てる)」
 水族館に何度も通う人はたまにいるが、大概は水生生物が好きな人たちだ。しかし少年はお姉さんが御目当てに見える。
「(ま、一時的なものでしょ)」
 子供のやることだと思い、お姉さんは再びイルカたちを巧みに操る。いつものようにショーが終わると少年はお姉さんを一瞥して帰って行く。そんな日が週一度ほど続いた。

 ある年の3月、少年はいつものようにイルカのショーを見に来ていた。
 そしてそれが終わると、少年はお姉さんを一瞥、のはずがお姉さんに近づいて来た。
「お姉さん……」
「ん? 何かしら?」
「ぼく、あの……」
 一瞬驚いたが、たどたどしい言葉の先をお姉さんは瞬時に理解した。
「私のことが好きなの?」
 少年はこくんとうなづきながら、上目がちにお姉さんを見る。
 少し間を置いて、お姉さんは子供を諭すかのごとく答えた。
「ごめんね。私、もうすぐ結婚するの」
「そうですか……」
「ここでショーをするのも今日が最後なの」
 少年はものすごく残念そうな表情を見せた。それを見てお姉さんはフォローを入れる。
「おまじない教えてあげる。お姉さんの幸せを祈ってて欲しいの。そしたら、きっと素敵な娘が、君の目の前に現れるから」
「はい」
 少年は素直にお姉さんの言うことに耳を傾けていた。

―――

 それから5年、少年は東京の大学に進んだ。
「(あれから、ずっと幸せ祈ってるけど、お姉さんより素敵な娘は現れないな……、一目でいいからお姉さんに逢いたい。今どうしてるんだろう)」

――春近い終電間近のある駅
『まもなく最終列車が発車します。ご乗車になってお待ち下さい』
 駅員が早口のアナウンスで乗車を急かすホームで、男女二人組が何やら口論している。

「あなた奥さんいたの!? 信じられない!」
「バレちゃ仕方ない。じゃあな!」

 男の人は怒鳴りながら去っていった。女の人は少年、いや、青年には見覚えのあるお姉さん。
 青年はやや怒り気味にお姉さんに話しかけた。
「お姉さん、久しぶりです。いまのは!?」
 いきなり話しかけられたお姉さんは驚きながら返事をする
「それは、さっき婚活パーティーで、って、あなた確か水族館によく来てた……」
 その「婚活」と言う言葉に青年は声を荒げます。
「婚活パーティー!? お姉さんは結婚したんじゃなかったんですか?」
 お姉さんの方はしどろもどろになりながら、
「あの、こ、今度ゆっくりお話しましょ!」
 電車の中に逃げ込もうとするところを、青年はお姉さんの手をつかんで離さない。そこに発車ベルが鳴り響き、駅員がお姉さんに尋ねる。
『お客さーん? 乗るのー? 乗らないの?』
「の、乗ります!」
「乗りません、この人乗りません!」
『オーライです。間も無くドアが閉まります!』
「あ、ちょっと、ドア閉めな」
 非情にもドアは閉まり、電車は夜の闇へ消えた。
「ちょ、ちょっと、どういうつもりなの?」
「詳しく話を聞かせて下さい! お姉さんの幸せずっと祈ってたのに!」
「あ、あ……」
「とりあえず落ち着いてお話しませんか?」
「わ、わかったわ……」

 お姉さんは、大学院に行って水生生物の研究をするために上京したこと。あの時の告白は本気にしておらず、諦めさせるために嘘をついたということを話した。

「ごめんなさいね」
「そうだったんですか。今でも本気で好きなんです。僕も、もう大人です。今度こそつきあって下さい!」
「お友達からでもいい?」
「今はいいですけど、あきらめませんから」

***

 何度かのメッセージのやりとりの後、初デートの約束をして、やって来たのが東京近郊の水族館。

『間も無くイルカショーが始まります。御観覧のお客様はステージまでお越しください』
 ショーを2人で見に行こうと言うことになった。若いトレーナーが笛とエサを片手に巧みにイルカを操り、場内から拍手が起きる。
「もう、私、そんなに若くないよ」
「でも、今でも綺麗ですよ」
 ショーが進む間にいつの間にか2人は手を繋いでいた。
「キミ、水族館でデートすると盛り上がるってインターネットで調べたでしょ」
「ど、どうしてそれを!?」
「お姉さんにはお見通しだもん」
 そう言いながらも、彼女は年上の余裕とは違う笑顔を見せた。


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このストーリーに関するコメント

16/04/14 にぽっくめいきんぐ

拝読しました。
優しい世界観ですね。
時間を経て関係が変わる姿が美しいです。
この二人のその後がとても気になります。

16/04/16 霜月秋介

あずみの白馬さま、拝読しました。

水族館のイルカショーで、イルカではなくトレーナーのお姉さんに目がいく人も少なくないですよね(笑)
少年…もとい、青年の5年ごしの恋が実ってよかったです。いいお話を有難うございます。

16/04/28 あずみの白馬

> にぽっくめいきんぐ さま
ありがとうございます。
二人のその後……私も気になります。描いてみようかなと思いました。

> 霜月 秋介 さま
数年越しの恋を実らせる。どうしても描きたくなってしまいます。
こちらこそありがとうございました。

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