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クナリさん

小説が出版されることになりました。 『黒手毬珈琲館に灯はともる 〜優しい雨と、オレンジ・カプチーノ〜』 マイナビ出版ファン文庫より、平成28年5月20日発売です(表紙:六七質 様)。 http://www.amazon.co.jp/dp/4839958211

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将来の夢 絵本作家
座右の銘 明日の自分がきっとがんばる。

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ウツロナルソラハカラノソラ

16/04/02 コンテスト(テーマ):第106回 時空モノガタリ文学賞 【 ねこ 】 コメント:7件 クナリ 閲覧数:898

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 よく、人から誤解される。
 私の言葉はいつも思わぬ解釈をされ、思わぬ伝播をし、気がつけば嫌われている。
 そうして、十八年間生きて来た。

 小学生の時は、中学生になれば大丈夫だと思っていた。
 中学生になると、高校へ行って環境が変わればきっと改善されると信じようとした。
 高校に入って最初のクラスの自己紹介で、全員が特技を言わされたことがあった。私は正直に、「人から嫌われることです」と答えた。私は不思議系で高校デビューを狙うキャラクタとして認知され、進学校のクラスのピラミッドの最下層に位置づけられた。
 ピラミッドと言うからには下に向かって広がっているはずであり、一番下の階層を担う人材が一番人数が多くてしかるべきなのだけど、残念ながらこのクラスでは私が一人でその役を全うすることになった。
 ひとりぼっちの最下層にかかる重圧はこたえた。
 クラスの滑らない話のオチに使われ、雑用を押し付けられ、実害はないけど心には傷が残る絶妙の悪戯が毎日続いた。
 私は心の崩壊を防ぐため、クラスのストレス解消要員としてのアイデンティティも存在する、と自分に言い聞かせていた。

 二年生になるとクラス替えがあり、意識の高い同級生が同じクラスにいた。彼女はぼっちだった私に目を留め、なぜぼっちなのかと問い、あなたは変わることが出来るし変わるべきなのよと力説してきた。
 私は、直近のエピソードを嫌われ事例として彼女に提出してみた。
「美術の時間に、水彩で絵を描いたの。そうしたらクラスメイトの皆に『ウケを狙って描いてるのが透けて見えて寒い』とか『自分では上手いと思ってる感じがにじんでて見てて腹立つ』とか言われたわ。そうした誤解をよくされるの。そんなこと思ってもいないのに」
 同級生は目を輝かせた。
「それは、絵に問題があるのではなくてあなたが嫌われているからよ。それに誤解されていると言うけど、つまりそれはあなたの意志表現が下手なんだわ。人のせいにしていても何も解決しないの、自分が変わらなくてはだめ。なぜそれが出来ないと思う? 解決の努力はした? したというなら、それは正しい方法で充分行なったと言える? 言っておくけど私、怒っているんじゃないのよ。聞いているの」
 私は、私が自分には何の問題もないと思って生活している人間なのだと思われていることに驚いた。自己評価の高い人というのは、デキる自分が最初に思いついた分かりやすい結論を疑わないものなのかもしれない。
 私は上手くしゃべれなくなって返答に詰まり、意識の高い同級生は、下層民のくせに唯々諾々と頷かない私に飽きて、別のクラスメイトに声をかけに行った。

 三年生の夏、学校からの帰り道。
 道端で生ゴミの入ったコンビニ袋に頭を突っ込んでいる、黒い野良猫を見つけた。
 多少人に慣れているのか、私が傍に立っても平気で食事にご執心だった。
 特別可愛くはない。でも、ふてぶてしくてたくましい。
 ぼうっと、その猫の食事を眺める。
 物音の乏しい住宅地で、ただ猫の咀嚼音と、ビニール袋が揺れる音だけが、強い西日と濃い影の中に響いていた。

 そこには定期的にゴミが捨てられるらしく、黒猫は次の日もそこにいた。
 次の日も、その次の日も。毎日、私は道端に立って猫を眺めた。
 ある日、いつも通りに猫を見に行くと、あの意識の高い同級生が二人の男子とともに猫をつま先でつついていた。
 私は思わず、「やめなよ」と声をかけた。
 私ごとき下層民に咎められて彼らのプライドが傷ついたのか、男子二人は私の腰やお腹にそこそこ鋭いひざ蹴りを何発も入れて来た。
 直接的な暴力の痛みは私をたやすく打ちのめし、猫のために注意などしたのを心から後悔した。
 その時、夕立が降り出した。
 同級生達は慌てて帰路を走り出した。私はいい角度で入ったみぞおちへのダメージが特にこたえて、道端にしゃがみ込んでしまった。
 雨が、急激に私の体を濡らした。雨水に負けないくらい、私の顔は涙で濡れた。
 この世から消えたかった。誰かに、私の体の水分を吸い取れるだけ吸い取ってもらって、カサカサの灰になって、風に巻かれて空に消えてしまいたかった。
 けれど、重たい水分が服に染み込み、私の体にかかる重力を増幅させる。
 黒猫はどこかへ消えていた。冷たい奴だ。こんな時、雨で冷えた私の手を温めるくらいしてくれてもいいのに。
 でも、きっとあの猫は明日もここへ来るだろう。
 その姿が、見たいと思う。
 明日が来るのが待ち遠しいと思える、言い訳のような理由が、少なくともひとつはあるのなら。
 きっと私は、まだ生きていたいのだろう。

 ふと前を見ると、黒猫が雨に濡れないように、物陰からこっちを見ていた。
 私を食べてみるかい。
 きっとまずいよ。
 私はまだ、ゴミじゃないからサ。


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このストーリーに関するコメント

16/04/02 霜月秋介

クナリ様、拝読しました。
主人公の心の中に降る雨は、いつか止むのでしょうか。
意識の高い同級生の言葉が、深く印象に残りました。まわりを変えるよりもまずは自分から変わらないといけないのでしょうね。

16/04/03 クナリ

霜月秋介さん>
意識の高い同級生は、分かりやすく嫌な奴として登場してもらいました。
「言ってることは立派だけど、それを言ったところで何の解決にもならないのに何で言うの?」系です。
大人でも、こういう人いますよね。
問題解決よりも自己陶酔を優先する人なのかなと、冷たい目で見てしまいます(←ひどい)。

篠川晶さん>
意識の高い人と、意識高い系を気取ってる人とで明確な差がありますよね。
今回登場しているのは、後者なわけですけども。
掌編の中ではなかなか救われきるところまで人物描写が難しいこともありますが、その萌芽だけでも伝わっていれば嬉しいです。

16/04/19 キャプリス

クナリ様、拝読しました。
重い題材を短い文中にうまく表現されていると感じました。
最後がちょっと救いかな。

16/04/20 クナリ

キャプリスさん>
一応、暗いだけで終わるのはちょっとな〜…と思って主人公を選んでいるので(たまにそうでもないこともありますが…)、意味のある物語になっていればうれしいです。
自分、少年少女が苦しむ話(おい)が得意なんですよ、たぶん…。

16/05/09 にぽっくめいきんぐ

拝読しました。

自分は、人と話があわなくていつも困ってます(笑)
なので、冒頭の3行が少しシンクロしました。

水分についての希望と現実の対比とか、うまいなあと思いました。

あと、「ねこ」はあと2作品で83件全読了なんですが、
「猫」は人を温める系の使われ方が多かったように思います(それが一般的解釈?)
で、そこの描写が、ストレートに一般的解釈に飛びつかない形になってて、凄いなあと思いました。

16/05/09 クナリ

にぽっくめいきんぐさん>
猫の温かさはこの世の素晴らしいものランキングでもトップクラスなので、ぜひラストはこのねこに主人公を温めてもらおうとおもったのですが、どうあがいても全然温めに来てくれませんでした……ッ。
書いてるクナリ自身、「あ、温めてくれんのかい!」と突っ込んだほどです。。。
もともと、動物と人間の交流というものが理解できてないのかもしれません。冷たいですね(他人事)。
コメント、ありがとうございました!

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