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林一さん

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猫の真似っこ

16/04/01 コンテスト(テーマ):第106回 時空モノガタリ文学賞 【 ねこ 】 コメント:1件 林一 閲覧数:755

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 ピン芸人の日本一を決める大会『P-1グランプリ』で、私は見事優勝を果たした。その際に披露したのが、犬のモノマネ芸である。
 一般的な犬のモノマネというと、ワンワンと鳴き声の真似をする姿を思い浮かべると思うが、私のモノマネは一味違う。私のモノマネは、鳴き声はもちろんのこと、犬の立ち振る舞いから表情まで全てを完コピするという、非常に難易度の高い、素人では到底真似出来ない究極の芸なのだ。私はこの芸を身に付けるのに、丸三年もかかった。
 しかし、世間というものは冷たいもので、私が大会で優勝してからまだ一年も経っていないというのに、
「もう飽きた」
「他の芸は出来ないのか」
 などと、勝手なことを言うのだ。
 世間だけではない。プロデューサーも同じだ。優勝したばかりの頃はあんなに優しくしてくれていたのに、今ではすっかり番組にも呼ばれなくなってしまった。このままでは、この一年で貯めたお金もいずれは底を尽き、生活が出来なくなってしまうだろう。
 そこで私は、新たなモノマネ作りにとりかかった。その題材に選んだのが、猫である。
 私はつい先日、猫は散歩の必要がなく犬と比べて世話に手間がかからないため人気が上昇しており、あと数年で犬の人気を追い抜くだろうというニュースを見た。
 私は犬のモノマネを身に付けるのに三年かかったため、猫のモノマネを身に付けるのにも三年かかるとすると、猫のモノマネ芸が完成する頃には、猫が一番人気のある動物になっており、この猫人気に便乗して猫のモノマネ芸を披露すれば、きっと世間に受けると考えたのだ。
 猫のモノマネ練習を始めた一年目は、ひたすら猫を観察することに専念した。そのおかげか、毎晩夢の中にまで猫が登場するようになった。そして二年目になると、実際に猫と同じ動きをしながら、四六時中猫になりきっての生活を送った。そのため、夢の中でまで私は猫になっていた。そして三年目、身に付けた猫の動きや鳴き声をネタとして構成していき、人様に笑っていただけるような形へと仕上げていった。
 こうして私は、完璧な猫のモノマネ芸をついに完成させた。
 さらに私には追い風が吹いていた。三年前の予想通り、この年空前の猫ブームが起きていたのだ。よし、この芸をひっさげて再びP-1グランプリに出場して、史上初の二度目の優勝で華々しく再ブレイクしてやるぞ。

 二年後。
 私は今、営業の仕事をしている。営業と言っても、モノマネの営業ではない。普通のサラリーマンの営業職である。
 二年前に参加したP-1グランプリで、私はなんと一回戦で敗退してしまったのだ。納得のいかなかった私が審査員に詰め寄ると、
「昔やってた犬のモノマネを猫に変えただけじゃないか。もう飽きたよその手のネタは」
 こうバッサリと言い捨てられてしまったのだ。その言葉は、私のこれまでの芸人人生そのものを否定されたも同然であった。こうして、私は芸人を辞めることを決意した。
 芸人の夢を諦めた今の私の生活を、世間は惨めだと思うかもしれない。でも案外、この営業の仕事は私に向いていた。負け惜しみで言っている訳ではない。本心だ。
 今日も私は、自社の商品カタログ片手に、一般家庭への飛び込み営業をしていた。
「このように様々な商品を幅広く取り揃えております。当社の会員に入ってはいただけないでしょうか?」
「でもねぇ、会員費がちょっと高くて」
「奥様、失礼ですがママ友達などはいらっしゃいますか?」
「ええ。たくさんいますけど?」
「そのお友達を我が社の会員に誘っていただけますと、その会員費の半分が紹介者の収入になるんです。つまりですよ、二人のお友達を会員に誘っていただくだけで、奥様の会員費はただになるんですよ」
「えー! それいいわね」
「もちろん、もっとたくさんのお友達を紹介していただければ、その分奥様の収入も増えていく訳です。悪いお話ではないと思うのですが……」
「入ります。ぜひ会員にしてください」
「奥様、ありがとうございます。では、こちらの書類にサインの方をお願いします」


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このストーリーに関するコメント

16/05/08 にぽっくめいきんぐ

拝読しました。

落語みたいで面白いです!

オチに使った「猫ならでは」を明示的に書かずに、
しれっと〆に入って、読者に気づかせる書き方が、
オイラはとても好きです。

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