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夏川さん

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猫の就活

16/03/28 コンテスト(テーマ):第106回 時空モノガタリ文学賞 【 ねこ 】 コメント:6件 夏川 閲覧数:1217

時空モノガタリからの選評

「就活」のための人間との駆け引きが、具体的で生き生きとしていて楽しいお話でした。猫の生活など、気楽で羨ましく思えたりする時もありますが、考えてみれば人間同様、彼らも大変なのですね。確かに「年をとれば取るほど貰い手は少なくなる」とは、猫も人間も事情は同じかもしれません。
「思い通り」の人生が幸せとは限らない、というポジティブなメッセージにも納得です。今ある境遇を生き切るという姿勢は、やはり大事なのでしょう。ツンデレな猫パンチによる励ましも、元気になりそうで良いですね。

時空モノガタリK

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 街にはスーツを着た若者が手帳片手に忙しなく歩き回っている。就活だ。
 しかし就活に勤しんでいるのはなにも人間だけではない。
 俺はスッと立ち上がり、ニャーと一声鳴いて気合を入れる。目指すは大豪邸で三食昼寝付き! 輝かしい未来に向けて足を一歩踏み出した。


 向かったのは高級住宅街。俺はあるお屋敷から出てきたマダムに目を付けた。

『お忙しいとこ失礼いたします! 私、猫でございます。名前はまだありませんが貴女にならなんと呼ばれても構いません!』

 女性はしゃがみこみ、俺の頭を撫でた。これは好感触。

『特技はネズミ捕り、趣味は昼寝です。御宅で飼って頂けたらどんなに面倒臭くても飼い主の遊びに付き合い、愛玩動物としての責務を果たさせて頂きます!』
「人懐っこい猫ね。でもうち、フェレットを飼ってるから」
『えっ、あ、御宅ではネズミ捕りしませんから!』
「あなたが良い飼い主に巡り会えるよう祈ってるわ」

 俺の必死の声も届かず、女性はどこかへ歩いていってしまった。
 好感触だっただけにショックは大きい。とはいえ、就活はまだ始まったばかりだ。

「あー! 猫ちゃんだ!」

 声が聞こえて振り返ると、男の子がこちらに走り寄ってくるのが見えた。
 子供は無茶をやるから嫌いだ。逃げよう、そう思ったが子供の後ろにいる母親を見て俺は足を止めた。高級そうなスーツを着こなし、首には大粒の真珠ネックレスを付けている。子供は好きじゃないがあまり贅沢な事は言ってられない。

『ど、どうもお坊っちゃん。初めまして』
「見て、可愛い!」

 子供は俺に小さな手を伸ばす。しかし後ろからピシャリと声が飛んでその手を慌てて引っ込めた。

「見るだけにして! 汚いでしょう」
『き、汚いとはなんだ! 毎日毛づくろいしてるぞ』
「でもママ、お風呂入ったら綺麗になるよ? 飼っちゃダメ?」
「飼うにしてもこんな野良猫ダメよ」
『なっ、猫差別するのか!』
「さぁ行くわよ、ペットショップ寄ってあげるから」

 母親はそう言いながら名残惜しそうにこちらを見る子供の手を引いていってしまった。
 またもや失敗だ。覚悟はしていたが、やはり何回も断られるというのは気分が悪い。
 しかしへこんでいる時間はない。また歩き回ろうと立ち上がったその時、ちょうど豪邸の玄関から出て来ようとする女性と目があった。

「あっ、猫!」

 女性は短く叫び、顔を家の中に引っ込めた。家の中からバタバタと足音が聞こえる。
 餌でも貰えるのだろうか。期待しながら待っているとすぐに女性が玄関から勢い良く出てきた。手にはバケツを持ち、それを俺に向けてひっくり返す。
 バケツの中身は餌なんかじゃなかった。冷たい水だ。

「シッシッ! 保健所呼ぶわよ」

 自慢の毛から水を滴らせながら、鬼のような顔の女性の前から一目散に走り去った。





『うーっ、寒い』

 ずぶ濡れでは人からのウケも悪い。俺は日の当たるベンチで休憩がてら毛を乾かすことにした。
 ベンチに横たわり、うとうとしていたが何だか視線を感じる。薄く目を開けると、数メートル先からゆっくりこちらへ近づく若い女性を見つけた。彼女が着ているのはリクルートスーツ。同じ就活生のよしみと逃げずにいると、女性は嬉しそうに俺の隣に座って頭を撫で始めた。まだ生乾きだがそんな事は気にならないらしい。

「あー、可愛いなぁ」

 女性は大きくため息を付き、猫である俺に話しかけてきた。

「私就活生なんだけどね、まだ中小企業の内定一つしか取れてなくてね」
『俺は一つもない』
「人気なとこから埋まっていくし、早く内定取らなきゃなぁ」
『猫だって年を取れば取るほど貰い手は少なくなる』
「あーあ、猫は良いなぁ就活しなくていいんだから」
『何言ってんだ、猫だって大変なんだぞ』
「なんかにゃーにゃー言ってる」

 女性はそう言ってうふふと笑う。
 そして急に真剣な顔になり、俺をそっと抱き抱えた。

「うちのアパートペット可だったよね……」
『えっ!?』








『あーあ、思い通りとはいかなかったか』

 女性の部屋は今まで見てきた大豪邸に比べると非常に貧相だ。餌も一日二回、安いカリカリだし。

「あーあ、思い通りとはいかないなぁ。都会のでっかいオフィスで働いてみたかったのにな」

 女性はどうやら内定の出ていた企業に就職を決めたらしい。俺は彼女の座るソファへ飛び乗る。

「あ、慰めてくれるの? ありが……痛ッ!?」

 俺は猫パンチを彼女の足に食らわせながら言った。

『予定外の就職も案外悪くないモンだぜ』
「か……喝を入れてくれたのかな? ちゃんとあなたを養えるよう頑張って働くから」
『おう、早くモンプチ買えるくらい偉くなってくれや』

 そう言って俺は飼い主様の膝で丸くなった。


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このストーリーに関するコメント

16/04/17 夏川

コメントありがとうございます!

どのような生物も就活からは逃れられないんですよね。
高い目標を持つのも大事ですが、住めば都という言葉も忘れないでいたいものです!

面白いと言ってくださって嬉しいです、読んでくださってありがとうございました!

16/05/01 光石七

拝読しました。
猫の就活、なるほどです。
主人公の猫、可愛い!
理想とは違ったけれど、いい飼い主に出会えてよかったですね。
ほっこりしました。

16/05/05 夏川

コメントありがとうございます!

猫と人の出会いも一期一会ですよね。
誰がどこにどう転ぶかなど誰にも予想できません。

割と生意気な主人公猫ですが、皆様に可愛いと言っていただけて嬉しいです。
読んでくださってありがとうございました!

16/05/23 犬飼根古太

夏川さま、拝読しました。

とても面白かったです。
猫が可愛かったです。就活の必死さがユーモアを感じさせてくれて、最後まで楽しく読めました。飼い主となる女性も良かったです。

16/05/28 夏川

コメントありがとうございます!

面白かったと言っていただけて嬉しいです!
手応えありからのお祈り、学歴の壁、圧迫面接など就活あるあるを猫に変換して詰め込んでみました。
就活に必死になるのは猫も人も同じですね。

読んでくださってありがとうございました!

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