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あずみの白馬さん

成人済 アイコンは天乃ゆうりさん作成(無断転載を禁じます) 自分なりの優しい世界観を出せるように頑張ります。 好きな作家は飯田雪子先生です。若輩者ですが、よろしくお願いします。 Twitter:@Hakuba_Azumino

性別 男性
将来の夢 旅立つときには、ひとりでも多くの人に見送られたい。
座右の銘 「これでいいのだ」

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特別な空間

16/03/27 コンテスト(テーマ):第104回 時空モノガタリ文学賞 【 映画 】 コメント:3件 あずみの白馬 閲覧数:1520

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 僕は映画は好きなのに映画館には全然行かない。
 どうせ数ヶ月後にはDVDやBDも出る、それをレンタルで見た方が安いし家でゆっくり見られるからだ。

 去年の初冬のある日、会社でも一目置かれている綺麗な先輩が私を映画に誘ってきた。
「今度の土曜日、映画の公開日なんだけど、旦那が急に行けなくなっちゃって……、チケット出すから一緒に行かない?」
 僕は現金にも首を縦に振った。先輩とデートなんてめったに無いチャンス。でも結婚してるんだけど、もしかして……!? いけない妄想が頭をよぎる。

 そして土曜日の夕方。
「今日は待ちに待った『宇宙親子喧嘩』の続編だからね〜。楽しみ!」
 先輩は早くもテンションが上がり気味だ。私もこの作品はDVDで見て確かに面白いとは思っている。けれどもそれほど早く見たい作品なのかな?
 辺りを見渡してみると登場キャラクターになり切った一団がいる。旧作からのファンなのだろう。だからと言ってここまで熱くならなくても……。

 売店に行って2人で飲み物とポップコーンを買った。とてもカップが大きいけど、これが定番らしい。ほどなく開場の時間になり、先輩と一緒に場内に入る。前方ステージ上には司会者らしき男性がマイクの前に立ち、

「本日は『宇宙親子喧嘩』エピソード7の劇場初公開に御来館いただきましてありがとうございます」

 うわー、と場内から大歓声が沸き上がった。僕も思わず歓声をあげる。

「前作から10年、さらなる進化を遂げたこの作品、どうぞごゆっくりお楽しみください!」

 待ってましたとばかりにスタンディングオベーションまで入った。思わず僕も立ち上がって拍手を送る。この高揚感、これがみんなを映画館まで足を運ばせる要因なのだろうか?

 場内が暗転し、予告編とマナー向上のVTRが流れると急に静かになった。そして……

 テーマソングが響き渡ると同時に場内再び大歓声! 先輩も職場では絶対見せないこの瞬間を待っていたと言わんばかりの笑顔を見せる。僕もつられて笑顔になっていた。

 本編が始まった。さっきまでの喧騒が嘘のように静まり返り、観客はいきなりの戦闘シーンを固唾を飲んで見守る。俳優たちの一挙一動を見逃すまいということなのだろうか?
 先輩も夢中になって画面を見つめている。映画の音以外全く聞こえないかのようだ。

 過去作で出てきた宇宙船が出て、名優がスクリーンに映し出されるとまたも歓声があがり、僕も思わず一緒に歓声をあげた。
 中盤以降も懐かしいキャラクターが次々に出て来て、新世代の主役たちもそれに負けない存在感を示す。気がつけば僕も周りの観客と一緒に歓声を上げたり拍手を送ったりしていた。

 そして映画はラスト近く。ショッキングなシーンに僕と先輩は「わぁーっ」と悲鳴に近い声をあげる。劇場全体からも悲鳴が聞こえてくる。

 あっという間にエンドロール。僕と先輩は一緒に惜しみない拍手を送った。
 映画作品に対して場内全体が一体となって、一つの空間を作り上げる。この一体感は映画館でしか味わえない。
 みんな安くはないお金を払って映画を見るのはこのためか……、なんて思いながら先輩と一緒にスクリーンを出る。

「面白かったね」
 先輩の感想にぼくはうなづく、見れば顔が紅潮しているのがわかった。
「このあとなんだけど……」
 ん? と思った。もしかして二人でお食事? 僕の期待が思わず膨らむ。

「次の回で旦那が見に来るから、悪いけどここでお別れね。ごめんね」
 ああ、そうだよね〜……。僕はがっくりとうなだれる、と同時にひとつの疑問がわいてきた。
「先輩。もしかしてまたこの映画見るんですか?」
「もちろん。だってまだまだ見逃してるとことかありそうだし、あの感動をまた味わいたいもの」
 なるほど。と思った。あれだけの観客とともに感動を共有したい。と思う人は思うのだろう。

 僕が先輩と別れると、旦那さんらしき人とすれ違った。

「あのねー」
「ネタバレ禁止! 俺はまだ見てないんだから!」

 幸せそうな2人の声を聞きながら、映画館を後にした。

 僕は映画の余韻に浸りつつ、次は彼女を見つけて一緒に来られたらいいなと思った。
 高揚感を持つ特別な空間で味わう映画は、きっと心を盛り上げてくれるだろうから……。


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このストーリーに関するコメント

16/03/31 冬垣ひなた

あずみの白馬さん、拝読しました。

見知らぬ観客と感動を共有できるというのは、映画館の醍醐味だと思います。
でも映画館を出たら現実に返る先輩の姿に、主人公が何だか可哀想になってしましました。
『宇宙親子喧嘩』エピソード8は、恋人と劇場で見られるとといいですね。

16/04/01 にぽっくめいきんぐ

拝読しました。面白いです!

映画の良さってこれだと思います!
周りの反応も含めて楽しむのが映画。

あと、「僕」がせつない。次までに頑張れ! 僕さん!

最後に、「宇宙親子喧嘩」は壮大です(笑)
フォー・・げふんげふん。理性と共にあるのですから、
話し合いで解決するべきです(笑)

16/04/09 あずみの白馬

>冬垣ひなた 様
 コメントありがとうございます。
 映画の醍醐味は本当にそこにあると思います。私もそれに感動しました。
 私も主人公の次の恋がうまく行って欲しいと思います。

> にぽっくめいきんぐ 様

まさに映画の良さはこれですよね。
部屋で1人で見るのとは違った楽しさだと思います。

僕さん、次はうまく行くといいのですが……

「宇宙親子喧嘩」の元ネタの壮大さは心を動かされますね。
作者も次が楽しみです。

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