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水色羽子さん

水色羽子と書いて、 みずいろのはねのこ…と読みます。 よろしくお願いします。

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主人公

16/03/24 コンテスト(テーマ):第104回 時空モノガタリ文学賞 【 映画 】 コメント:0件 水色羽子 閲覧数:619

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「ほら立て!」
主人公は、ヨロヨロの足取りで歩かされた。厳つい顔の悪人が屋上へ連れていく。
汚れきった顔の主人公、端に立たされて脅される。
「言え、俺をサツに売った奴は誰なんだ!」
主人公は、ペッと血を吐き出すと、目がキラキラするような目付きで見返した。
「誰かなんて教えても、疑ってるのはオレなんだろ。それなら、殺されるだけじゃないか」
悪人の腕を振りほどき、ニヤッと艶のある笑顔を見せると、ビルの端から自ら飛んだ。

……

「あっ死んじゃう!」
レンタルの映画なのに、薫は悲鳴をあげる。
「嫌だ!嫌だ!」
涙までためてる。
作り物の映像に、女の子はそこまで思い入れを持てるものなのか。
それとも、主人公役の俳優に肩入れしているからか。

……

屋上から下を見ると、荷台に段ボール箱をのせたトラックが止まっていて、主人公が手を振っていた。

……

「ほら、主人公は死なないのさ」
僕の言葉にあきれ顔の薫。
「わかんないでしょ!人生なんてどうなるか〜」
「[人生]ときましたか。今は映画の話だよ」
「亨こそ、そんな目で見ていて、楽しいの? ハラハラドキドキしてるの?」
「してますよ、僕だって」

少し嘘をついた。
ハラハラドキドキ……の訳は、映画じゃなくて、見終わった後で、いいタイミングで初キッスが出来るかどうかだ。口元がゆるんでしまう。

それを見抜いたのか、薫は立ち上がって、映画も途中なのに、帰り支度を始めた。
「え? いいの? 見たいって言うから借りてきたのに〜」
「もう何回も見てるから、内容知ってるしぃ」
嘘だろっ心の中で叫んでた。
映画なんて1回見れば済むじゃないか。何回も見て、さっきみたいに泣けるのか?
そもそも助かるって知っているのに「死んじゃう!」って言ってなかったか?

頭がクラクラしてきた。
「じゃ、バイバイ」
ふざけるように手をひらひらさせると、プンと顔を背けて出ていった。

「好きです」
って告白してきたのは、そっちだろ。付き合って1週間ぐらいで、僕の方が振られるのか?
嫌々…僕はまだ彼女に「好き」なんて言ったことがないぞ。

こんな恋愛映画の主人公が僕だったら、このまま見送るよりも、追いかけた方がストーリーは続くはずだ。
走りながら「待って!」って叫ぶのは、ちょっと恥ずかしいかも。それとも、別の言い方はないかな。

……

「待ってくれ!」
悪人が狼狽している。
主人公は、悪人を電柱と塀の隙間に追い込んだ。
「お前がモグラだったのか」
「ようやく気がついたのか。オレは警察の人間だ」
「くそぉ」
拳銃を取り出して主人公に向ける。弾が顔のすれすれを飛んでいく。
すかさず悪人の腕を叩き、手錠をかける。
そして、晴れ晴れとした顔の主人公の笑顔で、エンドロール。

……

つい、映画を見てしまった。これじゃ、追いかけてももうムリじゃないか。
それに、弾が顔のすれすれ…なんて、あるわけがない。映画の中の主人公は、優遇されてるんだ。
普通の人生なんて、そんなに上手くはいかないんだから。

……

エンドロールが終わると、主人公が素に戻ってこちらに向かって指をさす。
「君の人生の主人公は君さ。諦めるより、チャレンジ!」

……

自分に言われた気がした。
そうさ、駅で電車を待っているかもしれない。まだ間に合うかも。
慌ててドアを開けると、そこに薫がいた。
「やっときた。本当に帰ろうかと思ったわよ」

もしかして、エンドロールを見たら出てくるって思ってたのか?
もしかして、試されたのか?
何を?

ハッと気がつくと、顔が赤くなってきた。
彼女は、僕の気持ちを確かめたかったのかも。

「早く映画見ようよぉ」
薫は素知らぬ風。
「続きから?」
「亨が嫌じゃないなら、最初から」
「はいはい…」
僕らは部屋に戻って、また映画を見始めた。
今度は彼女と手をつなぎながら。


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