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たんぽぽ3085さん

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映画になった男

16/03/13 コンテスト(テーマ):第104回 時空モノガタリ文学賞 【 映画 】 コメント:0件 たんぽぽ3085 閲覧数:658

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「私を殺すと後悔するわよ」
七十がらみの小女である、
カルト教団の教祖Kはなぜか微笑んだ。
「いいから黙って金を出すんだ。
 俺は本気だからな。殺すと言ったら殺す」
Kは一向にひるむ気配がない。

「ああ、いいとも。私もこの世に飽きていたところだ。
 もうこの世界には何の未練もないね。
 人間の世界なんぞ、つまらんもんだ。魔界に比べればな」
「ええいっ、訳のわからんことを言うな。ほんとに殺すゾ!」
「愚かな男だ。だからいいと言っているだろう?
 さあ、殺したきゃ殺すがいい。そしてお前は…」

そしてKは身を乗り出すと、桐嶋に嘲笑を浴びせた。
カッとした桐嶋は思わず包丁を振り上げ、
次の瞬間、女教祖の首に振り下ろしていた。
Kの首から噴水のごとく血しぶきが飛び散る。
「う、うわっ、やっちまった…」
桐嶋の蒼白の表情を前に、Kはなおも微笑を浮かべている。

「本当に恐ろしいのは、死ぬことではないぞ。
 死の苦しみを味わいながら永遠に生き続けることこそ地獄」
女教祖は口から鮮血と言葉を滴らせながら、
やがて床に崩れ落ちるとそのまま絶命した。


桐嶋は宇宙船の中にいた。

西暦2097年、人類は火星を皮切りに、
次々と宇宙への移住を進めていた。
新たな居住地を見出し開発することは容易ではないが、
もはやそれしか人類種が存続する道はない。

オールアースのメンバーの中で、
桐嶋はUアジアの人間としてただ一人、
琴座のSU-03惑星への調査隊に抜擢された。
国連関連施設での解析の結果、
その惑星は人類が住める環境であることがわかった。
ただ、生物の痕跡らしきものがデータの中に含まれていた。
そこで国連の探査プロジェクトが
スペースシップを派遣することになったのだ。
生物の存在の真偽を確認し、
開発に向けての詳細データを収集することが任務だ。

桐嶋は密かな企みをもって乗船している。
自分が勤務する、ユニアジアのJエリアにある建設会社にとって、
新たな惑星開発・建設の受注は不可欠だった。
政治家を金で動かし、彼は調査隊に参加することに成功した。
SU-03惑星は開発可能であり安全である。
その調査結果を捏造するのが桐嶋のミッションだ。

惑星に到着し、直ちに調査が開始された。
船長がトラウマを抱えていたり、
調査隊長と看護員女性の秘密の過去が明らかになったり、
同行した科学者がうつ病を発症したり…。
様々な問題が沸き起こる中、
桐嶋は常に冷静さを装って自らの目的の遂行に集中した。

調査が終わりに近づいた頃だった。
乗組員の一人が外から持ち帰った椰子の実状のものから
世にもおぞましい怪物が出現した。
たちまち五人の乗組員が引き裂かれて死んだ。
不定形に伸縮する神出鬼没の怪物は船内を恐怖の底に突き落とした。

惑星開発を中止にはさせられない。
桐嶋は通信施設に向かおうとした科学者を殺して、
捏造した調査データを地球に送信した。
もちろん、この惑星には生物はいない。危険は皆無だ。
そういう内容のデータである。
絞殺の証拠を残さぬように、
科学者の死体は船の機関室の重力炉に放り込んだ。
うつ病の末に自殺を遂げたと誰もが思うだろう。

船長にはすでに地球に連絡がされた旨を報告した。
いずれ発覚したとしても、
精神を病んで死んだ科学者の男がミスを犯し、
不完全な調査データを送ったということになるだろう。

調査船の地球への帰還には丸二年ほどかかる。
SU-03惑星の開発は数ヶ月後にはゴーサインが出るはずだ。
開発が了承され受注さえされれば、莫大な開発支度金が会社に入る。
そうなれば自分の将来は安泰だ。
その後、開発がどうなろうが後の祭りだ。

元恋人の看護員を救おうとした調査隊長の決死の行動により、
ついに怪物は船の外に駆逐された。
しかし、全てが桐嶋の思い通りに運んだと思われた次の瞬間、
閉まりかけた船のハッチの隙間から、
怪物の触手が伸びてきて桐嶋の体を船外に引きずり出した。
獲物をいたぶるように、恐怖を煽るように、
無数の細かく鋭い歯が桐嶋の体を切り刻んでいく。
「は、早く殺してくれ…」桐嶋の口から苦悶の声が漏れる。


映画「ストレンジャーズ」は世界的なヒットとなった。
しかしこの映画、なぜか制作者も俳優たちも不詳だった。
ハリウッドのNGN映画に差出人不明で届けられた作品だったからだ。
ぜひ御社の作品として公開して欲しい。
一切の報酬は求めないし、出演者たちも了解していることだ。
そんな内容の手紙が添えられていたらしい。
公開後ビデオ化され、さらなる大ヒットを記録した。
桐嶋にとっては現実である映画「ストレンジャーズ」が
今日も世界のどこかで再生されている。
彼の恐怖と苦痛にエンドマークはない。



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