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れいぃさん

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敬天愛人。

16/03/12 コンテスト(テーマ):第103回 時空モノガタリ文学賞 【 同棲 】 コメント:0件 れいぃ 閲覧数:711

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 いっしょに住んでいる、と言えるのだろうか。
 俺は彼を、拘束、というか監禁している。
 外には絶対出さないし、飯は安いのしかやらないし、俺が忙しいときは話しかけられても無視している。風呂には入らせてやらないから若干くさい。服はめんどくさいから着せてやらない。
 べつに、最初からこういうことするつもりはなかった。
 俺は誰かといっしょなんて耐えられないし、男と同じ部屋なんてムサイと思うし。
 俺だって金ないのに、そいつは一円も払わないっていうしさ。
 おまけにすっげーだっさい名前。
「愛人」
 あいと、って読むんだって。
 俺がつけたのかと思われるじゃん。
「にゃぁ」
 返事してんじゃねーよ、おかげで名前変えられないんじゃん。

 愛人は、俺が勤めてる介護施設の利用者さんの猫だった。
 おばあさんが入所するんで家に置いてきたんだけど、毎日のように粗相して鳴くので、家族がとうとう耐えられなくなって施設に連れてきた。で、お金を余分に払ってくれて、まわりに人がいない個室をおばあさんの部屋にし、そこに猫も入れた。もちろん、世話はほとんど職員がするんだけど。
 俺はあんまり猫好きじゃないから、猫好きの森野さんに代わってもらっていた。
「悠くん、猫きらいなんて損よぉ。猫可愛いし、猫好きな女の子と仲良くなるきっかけになるじゃない」
 はぁ、そうですか。
 俺はもうカノジョとかどうでもいいと思ってる派だから、聞き流していた。
 そういう下心で動物好き自称すんのってイタイと思うし。
 だからなるべく、トラ猫愛人には関わらないようにしてたのに。
 おばあさんが一週間前に急に亡くなって、残された猫の行き先に困った。
 家族は「保健所にでも」というし、部屋は次の利用者のために空けるし、施設内は一応ペット禁止だし、アレルギーのひともいるし。
 職員の誰かが引き取るかってことになったけど、森野さんちはペット不可で、他の人は犬飼ってたり子どもいたりで「ノー」だった。俺ももちろん断ったけど、どういうわけかうちのアパートはボロすぎるゆえにペット可で、しまいに押し付けられてしまった。
「殺すのはかわいそうだから」って。
 でも、俺んとこ来たらやっぱ、おばあさん恋しさに鳴きまくるんじゃないんですか、そうなったら俺が追い出されちゃいますよ、いくらペット可って言ったって。
 そう反論したし、鳴きまくってくれたら断る口実になると思ったのに、うちに来たとたん、愛人はおとなしーい良い子になってしまったのだった。
 そういうわけで、しかたなく俺が自分の狭い部屋に置いてやっている。
 女の子といっしょに住んだこともないのに、初の同棲相手がトラ猫♂五歳ってどうよ……。

「ほら、おまえの好きなやつ」
 べつに可愛いと思ってるわけじゃないけど、病気したりするとめんどうだから、身体によさげでなおかつ愛人の好む餌を与えている。今んとこ、ドイツのメーカーの若干高いカリカリ。結石ができにくいんだってさ。猫のくせにいっちょまえに結石なんかできんのかよって感じだけど。
 愛人は俺をちらっと見上げて、皿に顔を突っ込み、うまそうに食っている。
 俺も腹が減ってきたから、コンビニのパンをその横でほおばる。
 会話もなく、同居「人」ですらない相手との生活。
 愛人は汚すだけ汚して片付けはいっさいしないから、俺が二倍掃除する。
 ときどき鳴いて隣の人から注意されるから、俺が代わりに謝る。
 俺は昼間いないけど愛人が暑がるからエアコンかけっぱなし、電気代はねあがる。
 友達の家の犬は不審者撃退したらしいし、先輩の家のオウムはしゃべるらしいけど、愛人はみごとになーんもしない。
 毎日食っちゃ寝食っちゃ寝、夜中に突然走り回る。
 いっしょに暮らすってどういうことだろうと考えてしまうけど、見返りを求めて誰かといるよりは、もしかしたら自然な関係なのかもしれない。
 愛人は気まぐれ野郎だけど、ときどき舐めに来たり乗ってきたりするし。
 そういうときは、猫好きじゃないはずの俺もなぜか、ほだされて頭を撫でてしまう。
 風呂に入って、ちょっとくつろいで、ベッドにもぐりこんだら、愛人も後から入ってきた。愛人とベッドに、なんてやらしー響き。
「にゃあ」
 頭を擦りつけてくる愛人の小さな耳のそばを、指二本でわしゃわしゃしてやる。
 人間の男だったらそうとう気持ち悪いけど、トラ猫♂だしまあ許す。
 俺がこの同棲相手を解放する日は、たぶんきっと永遠に来ない。


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