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あずみの白馬さん

成人済 アイコンは天乃ゆうりさん作成(無断転載を禁じます) 自分なりの優しい世界観を出せるように頑張ります。 好きな作家は飯田雪子先生です。若輩者ですが、よろしくお願いします。 Twitter:@Hakuba_Azumino

性別 男性
将来の夢 旅立つときには、ひとりでも多くの人に見送られたい。
座右の銘 「これでいいのだ」

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私を笑顔にして下さい

16/03/12 コンテスト(テーマ):第103回 時空モノガタリ文学賞 【 同棲 】 コメント:5件 あずみの白馬 閲覧数:1205

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 私と同棲していた彼氏は、浮気を問い詰めた瞬間に出て行ってしまった。

 元彼が去った、まだ幻影が残る部屋のパソコンの中には、元彼との記念写真がたくさん保存してある。
 遊園地、夜景、観光地……、その中に私と元彼が幸せそうに写っている。とても幸せな二人の表情を見るたびに切なくなる。

――裏切られた、それなのに

 写真を見ていると、交際が続いているような錯覚にとらわれる。私のそばに元彼がいるような感じさえ受けてしまう。

――現実には、とっくに元彼は逃げてしまったのに……

 私への言葉は全部嘘だった。悔しかった。悲しかった。死んでしまいたかった!

 ……、だからこの写真を見ないと生きていけなかった。空想でいい。元彼と私が未来を信じて歩いている錯覚にすがらなければ死んでしまう……
 私は教師をしている。明日の卒業式だけは、錯覚で乗り切ろう。そう思った。

――卒業式のあとで

「先生、お話があります」

 突然、卒業する生徒から告白を受けた。8歳も下のあどけなさが残る少年。
 私に褒めて欲しくて頑張っていたのは分かっていた。でも私は彼の気持ちに答えることは出来ない……、と言うのは後から考えた言い訳。その時は何も考えずに勢いのまま、心の中を生徒にぶちまけてしまった。でも彼は私の気持ちを受け止めてくれた。

 そして、立ち去ろうとする彼に、連絡先の交換をねだってしまった……

 でも、彼は大学に進む。そこには私より素敵な女の子がたくさんいる。きっとこの子も私のもとを去って行くのだろう……、でもそれまでの間だけでいい。お話を聞いてくれるだけでもすごく楽になる。

 わがままな先生を許してね。もっとも、今月で退職するけど。









 ――それから一年

「大事なお話って、なんですか?」
 卒業式の後、彼と私はLIMEのやり取りのほか、2〜3か月に一度ぐらい会ってお茶していた。その間、関係に進展は無かった。私は派遣社員として働いている。
 彼は私から立ち去る様子も無く、私はだんだんと彼を一人の男性として見るようになっていった。そして今日、自分の部屋にはじめて招いた。
「まずは上がって」
「はい……」
 いまだ彼とは敬語だ。この部屋にはまだ元彼の幻影が残っている。

「結音(ゆいと)くんは、素敵な女の子とか、見つかった?」
「急に何言うんですか? ぼくは……」
 その続きは分かっていた。私は予定通り次の行動に移す。
「じゃあ、これを見て」
 私はパソコンの前に立ち「ゴミ箱」を開いた。そこには元彼との楽しそうな写真がたくさん並んでいる。この部屋で撮ったものも入っている。
「これ、元彼との写真」
「消すんですか?」
「結音くん次第ね」
「ぼく次第、ですか?」
「私をこれ以上の笑顔に出来る?」

 事実上、私からの再告白だ。もう元彼と決別しよう。幻影を消そう。そう決めた。結音は少し考えこんだ後、突然、
「デジカメありますか?」
「コンデジならあるけど」
「それで充分です。ちょっと貸して下さい。そこを動かないでもらえますか?」
 彼は私が手渡したコンデジをテーブルの向かいに置いてセルフタイマーをセット。そして私の左横に彼は立つ。
「ちょ、いきなり!?」
「だって、笑顔にしてくれって。笑ってよ」
「ちょ!? そういう意味じゃ無くて!」
 そう言った瞬間、カメラのフラッシュが焚かれた。写真を確認すると、驚いた顔の私と作り笑顔の結音が写っている。
「あ、あの……、なんでこんなことしたの?」
「だって、ゆかりさんと付き合えるチャンスがやっと巡って来たんだ。もう一回いい?」
「結音くん、あのさ、そういうことじゃなくて」
 私はすっかり可笑しくなって……

――彼が再びシャッターを切った

 写真を見ると満面の笑顔の私が写っている。
「かわいいですよ、ゆかりさん」
 満足気な表情を浮かべながら彼は言った。そういえば元彼に振られてから今まで、こんな笑顔を浮かべたことは無かった。

――この人となら、今度こそ幸せがつかめるかも知れない

「ありがとう。結音くん。私を笑顔にしてくれて」
「じゃあ、付き合ってくれるんですね」
「もちろんよ。じゃあ1か月以内に一緒に住んでくれる?」
 私からのいきなりの申し出に彼は驚いて
「い、いきなりですか?」
「もちろん。この部屋には元彼と一緒に住んでた。その幻影を消したいの。だめ?」

 彼はしばらく沈黙して……

「ぼく、元彼さん以上の存在になって見せます!」
「ありがとうっ!」
 その決意は何よりも嬉しかった。私はゴミ箱のファイルを完全に消した。

 一ヶ月後、結音くんとの同棲が始まった。紆余曲折はあったが、いつしか、元彼の幻影は消えていった。



――数年後、私たちの指には結婚指輪がはめられていた……


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このストーリーに関するコメント

16/03/13 霜月秋介

あずみの白馬様、拝読しました。

失恋した直後というのは寂しさに慣れず、空白を埋めるために誰か側にいてくれる人を求めてしまうものなのでしょう。教師と生徒という間柄など関係無しに。
ゆかりさんの幸福をお祈りします。

16/03/13 冬垣ひなた

あずみの白馬さん、拝読しました。

テーマ『ギャンブル』の「負けるとわかっていても」の続編ですね。
元彼の写真が消せないゆかりさんの、恋の痛手が消えて良かったです。
二人のやりとりが初々しく、微笑ましかったです。

16/03/13 あずみの白馬

>霜月 秋介 さま
 確かにそうですね。私自身が失恋した時、無性に話し相手が欲しかったことを思い出して書きました。
 ゆかりさんもよろこんでおります。感想ありがとうございます!

>冬垣ひなた さま
 続編、おわかりになられたということで、両方をお読みいただきましてありがとうございます!
 8歳年下の彼氏になる結音くんが、頑張ってくれました。感想ありがとうございました!

17/02/22 のあみっと二等兵

拝読させていただきました。
どうにもならない喪失感と、何でもいいからすがりたい気持ちが、リアルに描かれていて、切なくなりました。
変な意地をはらずに素直になった結果、幸せになれたのだな……と、ほっこりしました。
素敵な作品を有り難う御座いました。

17/02/22 のあみっと二等兵

拝読させていただきました。
どうにもならない喪失感と、何かにすがりたい気持ちがリアルに描かれていて、切なくなりました。
変な意地をはらずに素直になった結果、幸せになれたのだな…と、ほっこりしました。
素敵な作品を有り難う御座いました。

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