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つつい つつさん

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芽吹かない季節にとどまる

16/03/09 コンテスト(テーマ):第104回 時空モノガタリ文学賞 【 映画 】 コメント:0件 つつい つつ 閲覧数:787

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 電車に二時間揺られて東京のはずれにある小さい映画館に来た。原作の大ファンだったユウキに俺達が生まれるずっと前に映画化されたこの作品を大きなスクリーンで観たいって懇願するような目で頼まれたからだ。
 今日は格別に冷え込んでいた。ダウンジャケットにマフラー、手袋にカイロと完全装備にしてるけど、それでも寒かった。映画館の前には三十人くらいの客が待っていたけど、誰もが寒そうにして、じっとしてらんないって身体を揺すりながら開演を待っていた。
「女の人ばっかりだね」
 ユウキが寒さで真っ青になった顔を近づけ、周りを気にしながら囁いた。俺は急に顔が近づいてきたもんだから、なんだかドキッとして鼓動が早くなるのがわかった。
「気にすんなよっ!」
 ユウキにはそう言ったけど、内心気になっていた。並んでいるのは女の人ばかりで、あとは彼女と一緒の男の人が二人程いるだけで、男同士で並んでいるのは俺達だけだった。正直、こんな恥ずかしいシチュエイションはなかったけど俺はユウキの前で動揺しているのを知られたくなくていつも以上に胸を張った。
「タクミが一緒で良かった。僕ひとりだったら、こんな遠くまで来られなかったよ」
 行きの電車でそんな風にユウキが言ってくれた。ユウキは中学生の割には小柄で幼く小学生に間違えられるくらいだから一人で映画館に行くと「一人なの?」って必ず聞かれるからムカつくんだってよく怒っていた。だから俺みたいな映画好きの友達が出来て心底喜んでるみたいだった。
 映画が始まるとユウキは目を輝かせ、夢中で観ていた。俺も「赤毛のアン」はユウキの影響で原作は読んでいたけど、映画も素晴らしかった。プリンス・エドワード島の景色は想像以上に綺麗で、ため息が出るくらい美しく出演者もみんなイメージ通りで素直に映画の世界に入り込めた。映画が終わると自然に拍手が巻き起こっていた。ユウキは案の定泣きすぎて真っ赤になった目を潤ませ手を叩いていた。
 帰りの電車の中でユウキは「僕もマシューおじさんみたいになりたい。あんな優しい人になるんだ」って、顔を上気させながら力説する。お前はじゅうぶん優しいよって言いそうになるけど、そんなことストレートに言えるわけないから「なれるか?」なんて茶化してみる。寒い中、往復四時間もかけてちょっとした旅行みたいだったけど、ユウキが喜んでる姿が見れて本当に嬉しかった。
 家に帰ると派手な格好をした母さんが出かけるところだった。「ご飯、キッチンにあるから」って言うと、いそいそと出掛けていった。母さんは寄り合いだ、パーティーだってなにかにつけて用事を作り家にいようとしない。弁護士の父さんも仕事かなにか知らないけど、めったに家に寄りつくこともない。だけど俺も親と顔なんて合わせたくないから、これはこれでうまくいってるのかもしれない。
 中学に入ってからの俺はイライラしっぱなしで、ますます人間嫌いになり、親とも先生とも同級生とだって話すのが嫌になり、いつもひとりだった。教室の中では授業中も休み時間も弁当の時間もいつもひとりで教室の窓を睨みつけていた。ユウキとは中二のクラス替えで初めて同じクラスになったけど、最初は他の奴同様どうでもいい人間だった。というか寧ろ嫌いなタイプだったのかもしれない。ユウキは明るく愛らしくていつも周りに人が集まる俺とは正反対のタイプだった。だから夏までは一言も話したことはなかった。だけど、ある休み時間にユウキが読んでいた古い映画雑誌につい反応してしまい、いつのまにかユウキとつるむようになった。中学校に入ってからは朝、教室に入り夕方教室を出るまで誰とも話さないのが普通になっていた。毎日授業の終了を告げるチャイム、休み時間の終わりを知らせるチャイムを待ちわびているだけの日常だったのに、まさか自分がチャイムが鳴るのに気付かないくらい夢中で誰かと話すなんて思ってもみなかった。
 ベットに入り楽しかった今日について考えた。人間嫌いで、ひとりで生きていけるなんてこの間まで本気で思っていたのに、今は自信がない。俺の居場所はもうユウキの隣にしかない気がする。
 春になり、ユウキと同じクラスになれなかったら、どうしよう。ユウキは俺に会いに来てくれるんだろうか。俺はユウキに会いに行けるんだろうか。もし、会いに行ってユウキが他の誰かと楽しそうに笑っていたら……。
 俺は寒いのがすごく苦手だ。毎年冬が来る度に早く暖かくなれ、春になれって願っていたのに、今年の冬はそんな気になれない。このまま寒くてもいい。もっと寒くなってずっと震えてたって構わない。だから、春になんてならないでくれ。なにかが変わるなら春なんて来なくていいって、ふとんの中に潜り込んだままずっと祈っていた。


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