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霜月秋介さん

しもつきしゅうすけです。 日々の暮らしの中からモノガタリを見つけ出し、テーマに沿って書いていきます。

性別 男性
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森林同棲。

16/03/06 コンテスト(テーマ):第103回 時空モノガタリ文学賞 【 同棲 】 コメント:2件 霜月秋介 閲覧数:819

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 セイは、自分に自信が無かった。意気地が無かった。だから人に好かれているという実感が持てなかった。
 つきあっている彼女の前ではいつも、必死に強い自分を演じていたが、いつかその化けの皮が剥がれ、ありのままの自分をさらけ出すのが、嫌われるのが恐かった。彼女の方から告白されたので、とりあえず承諾して付き合ってはいるものの、その次のステップに進むのを躊躇している。自分は彼女を大切に思っているのか、自分は本当に彼女に好かれているのか、この先彼女と結婚したとして、彼女を不幸にさせやしないかという不安が彼に襲い掛かる。だから彼女との間には、とても分厚い壁がある。うわべだけで、お互いの肝心なことをまだ知らない。惰性でデートをしていた。この状態がいつまで続くのか、毎日不安だった。そしてとうとう、彼女は別れを告げて去っていった。いままで貯まっていたセイへの不満を彼女は思いきりぶつけ、彼女の言葉ひとつひとつがセイの心を容赦なく痛めつけた。
 セイの両親は既に他界。内向的な性格が災いしたのだろう、親友と呼べる人間は一人もいない。誰からも必要とされていない気がした。弱い自分が嫌になった。
 ある日、セイは三日の有給をとり、気晴らしに森林浴へと出かけた。森林にテントをはり、そこで三日間過ごすつもりで。
 どのくらい森の中を歩いただろうか。セイは歩き疲れて草の上に寝そべった。そしてそのまま眠ってしまった。するとそこに、ひとりの女性が近づき、眠るセイの顔をじぃっと眺めた。
 目を覚ましたセイは、その女性を見ると驚いた。そして会話を始めた。その女性はミドリと名乗った。ミドリの左手首に何本もの赤く細い傷があった。歳は二十二歳。偶然だがセイと同い年だった。彼女が何をしにこの森へ来たのか、セイは聞こうとしたが、やめた。なんとなく彼にはわかっていた。
 ミドリは人付き合いが苦手だった。学校生活ではクラスになじめず、そして就職してからも会社になじめなかった。常にいじめ、嫌がらせの的だった。そうした辛い過去を、ミドリはセイに語った。そしてセイも、自分が内向的性格で人付き合いが苦手であることを打ち明けた。いじめこそ無かったが、誰にも無関心、誰からも無関心で寂しい思いをしてきたことを、ミドリに打ち明けた。ありのままの自分を、ミドリにさらけ出した。
「そう…。似てるのね。アンタと私…」
 そういうとミドリは、セイに寄り添った。だんだんとあたりが暗くなってきた。ざわめく木々。冷たい風が二人の体を冷やそうとする。セイもミドリも、死への恐怖など無いはずだった。しかし寄り添いあい、二人の温度を確かめ合ううちに、生への執着心が生まれつつあった。
 翌朝、目が覚めると鳥の鳴き声が鳴り響いた。どこからか聞こえてくる川のせせらぎ。近くに川があるようだった。テントの中で二人は互いに「おはよう」と言った。
 テントを出ると、まわりには無数のブナが生い茂っていた。二人は思い切り空気を吸い、伸びをした。そして木の枝を集めて、リュックから新聞紙とライターを取り出して火をつけ、それに川から汲んできた水が入ったヤカンをのせて温め、そのお湯でインスタントコーヒーを淹れ、それと一緒にパンをミドリと分けて食べた。
「おいしい…」

 それから数日間、セイのリュックの中の食料が尽きるまで二人で、森林の中で暮らした。川で釣りをしたり、サルとイチジクの奪い合いをしたりしているうちに、ミドリの表情もセイの表情も、出会ったときの暗い表情と比べてとてもいきいきしていた。まるで悩みなど何もない、くったくのない笑顔。いつのまにかミドリは森林に来た目的など忘れていた。セイには知り合ったばかりのはずのミドリが、まるで以前から共に暮らしている女房のような存在に思えていた。
 

 


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このストーリーに関するコメント

16/03/16 冬垣ひなた

霜月秋介さん、拝読しました。

森林浴は本当に清々しくて心洗われるようですね。
家も、電気も、ガスも何もない森林の中、
都会で傷ついた男女が知り合い癒されていく……。
このまま二人が幸せになれますようにと思います。

16/03/31 滝沢朱音

森の中の同棲…!神秘的でいいですね。
「セイ」が緑の中でミドリと出会い、「生」への執着心が生まれてくる。
運命の出会いって、そういう化学変化みたいなものかもしれませんね。

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