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クナリさん

小説が出版されることになりました。 『黒手毬珈琲館に灯はともる 〜優しい雨と、オレンジ・カプチーノ〜』 マイナビ出版ファン文庫より、平成28年5月20日発売です(表紙:六七質 様)。 http://www.amazon.co.jp/dp/4839958211

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将来の夢 絵本作家
座右の銘 明日の自分がきっとがんばる。

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孤児意地墜落インパティエンス

16/03/04 コンテスト(テーマ):第104回 時空モノガタリ文学賞 【 映画 】 コメント:8件 クナリ 閲覧数:1196

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 薄暗い部屋の中で、私はお腹が空いて膝をついた。
 眩暈がして、地面の方が揺れているのではないかとさえ思える。
 すぐ横には、私と同じ小学生くらいの知らない少女がいた。
 上下左右を木の板で囲まれた、一辺が七〜八メートルくらいの立方体の部屋の中に、私達はいた。窓はなく、裸電球が上方に吊るされている。
  部屋の一辺には木製の階段がついていた。上端は部屋の外まで続いていて、天井にはそこだけ、五十センチ四方くらいの穴が空いている。
 私達がなぜここにいるのか分からないけど、穴の向こうには下生えの草と樹木が見えた。ここは、山か森の中の地下室なのだろうか。
 あの階段を上れば、すぐにでもここから逃げ出せるのに。
 壁に張り紙があった。「出口はひとつ。階段を使わねば出られない」。
 階段の下には、脚をその場につながれた狼が三頭いて、よだれを垂らしていた。

 更に空腹が悪化した頃、少女が話しかけて来た。
「あたしら、このままじゃ飢え死によ」
「……あの階段を上るのは無理ですよ。一人がおびき寄せようにも、狼が三頭ともあそこにつながれてるんですし」
 その時、天井の穴のすぐ外を、人の足が通り過ぎて行くのが見えたので私達は仰天した。
 よく見てみると、時折人が頭上の穴を通り過ぎて行く。あの穴は、登山道か何か、人が通る道に空いているのだ。
 私達は空腹で力の入らない声で、必死に助けを求めた。しかし穴の中で声がこもってしまうのか、足を止める人はいない。
 しかし、自力であそこまで上がれればほぼ確実にここから逃げられる。
「ねえ。あんた、親いる? どんな?」
「… …いますけど。別に普通の」
「じゃ、やっぱりあたしがやるか」
 空腹で突っ伏していた少女が立ち上がった。
「あの狼三頭とも引き受けるから、あんたは階段を駆け上がって助けを求めて、大急ぎであたしを助けに来る。いいね」
 少女が狼に向かって駆け出した。そのまま、一頭の口に右手、もう一頭の口に左手、最後の一頭の口には頭を突っ込む。
「何を――!」
「早く! あたしが死んじゃうでしょうが!」
 私はその声に突き動かされるように床を蹴った。牙が塞がれている三頭の脇をすり抜け、階段を駆け上がる。
 その瞬間、背後から少女の絶叫が響いた。私の目に、一気に涙が溢れる。それでも、私は振り返らずに、一気に最上段に到着した。
 すると、いきなり天井の穴が消滅した。
 伸ばした私の指が、ただの硬い天井板に触れる。
 何が起きたのか分からなかった。頭の中に、混乱が満ちた。
「まだそこにいるの!? もういいからあんた一人で逃げなさい!」
 少女は下を向いた状態で噛みつかれていて、こっちは見えないようだ。
 ーー違う。違うのだ。出口が、なぜかたった今消滅してしまって。
 そんなことを、とても我が身を犠牲にしている少女に言えはしない。
 ふと、足元で何かが光った。よく見ると、階段の最上段に何かが埋め込まれている。
 ようやく気づく。
 この出口は、映像なのだ。最上段に仕込まれた映写機によって、天井に外の風景が映し出されている。さっきは私の体で映像が遮られて、出口が消えたように見えたのだ。
 ばかな。では、最初からここは完全な密室なのか。出口は、階段を使って出るはずではないのか。
 絶望と共に下を見た。少女は、もう声も出せなくなっている。
 その足元の板が――少し、ずれているように思えた。
 閃きが走った。階段は、上がるだけではない。
 私は最上段からジャンプして、狼と少女のいる床に全体重をかけて着地した。
 床板が壊れて外れ、私達と三頭の狼は虚空に投げ出された。
 ここだ。こっちが、本当の出口だったんだ。
 けれどそこは、地下ではなく空中だった。数十メートル下に広場があり、大勢の人々がこちらを見上げて歓声を上げている。彼らの横には巨大な屋外モニタがあり、私達のいた部屋の中が映し出されていた。
 地下室だと思ったのは、巨大なクレーンで吊られた箱だった。私達はリアルタイムであのモニタに映し出され、見世物の映画になっていたのだ。そして、この墜落がクライマックス。
 私は、自由落下によって徐々に速度を増しながら、同じように隣で落ちていく少女と狼を見た。そして、眼下で楽しそうに快哉を上げている群衆を見た。
 誰も彼もが、可哀想なのだと思った。
 全身が真っ赤に染まった少女は、身動きしなかった。両腕はちぎれかけ、欠けた頭蓋骨からは中身がこぼれている。もう怖い思いをしないで済むなら、それもいい。
 こんなことなら、嘘などつくんじゃなかった。私に、親がいるなんて。
 ――でもなぜか、いないって言えなかったんだ。ごめん。

 今わの際に、せめて親の顔を思い出そうとした。
 見たこともないものを思い出せないまま、私は地面に激突した。


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このストーリーに関するコメント

16/03/05 睦月 希結

拝読しました。何度も読み返していると空腹の眩暈と空中に部屋が吊り下げられているので、初めから全体が揺れている伏線に気づきました(遅いって)
子供にすればエラク馬鹿丁寧な話し方の少年と、ちょっと蓮っ葉な女の子の対比も中々でしたし、部屋のカラクリに気づいてからのラストがまた引き込まれていきました。短い字数制限の中ここまで物語の顛末を描き切れる文才に脱帽です(被って無いけど)刺激を戴きました。精進します。

16/03/06 クナリ

睦月 希結さん>
コメントありがとうございます。
主人公は一応女の子の設定です、あんまそう思えないかもですが(^^;)。
サスペンスが好きで、自分でも書きたいのですが、密室から脱出する系とかサバイバル系とかは文字数の関係でよく諦めるので、「ああ、思ったよりもああいう話って適格な状況説明を短く行うのが難しいものなんだなあ…」と思います。
短い字数だからこそテンポの良い展開をすることで、こうした作品をもっと増やしていきたいんですけどね。

16/03/06 霜月秋介

クナリ様、拝読しました。
観客からすればさぞ、目が離せないスリル満天のホラー映画でしたでしょう。なにせ登場人物の恐怖、怯え、負傷も演技ではなく本物なのですから。実際にいま起きている猟奇犯罪にも同じことが言えるかもしれません。残虐な事件ほど、人々の興味をひきやすいのでしょう。

16/03/07 クナリ

霜月秋介さん>
我ながら、後味の悪いものを書いたなあと思います(^^;)。
と同時に、コワいもの、陰惨なもの、悲痛なものに、目を覆った指の隙間から覗かざるを得ないような引力があるのも確かです。
我ながら、納得いかないものもあるんですけどね。なんでそんなものを、書いたり読んだりしたくなるんだろうと。。。

16/03/28 クナリ

小狐丸さん>
短い字数の中で、目まぐるしく展開するサスペンスが好きだったりします。
謎解きのカタルシスも好きなのですが、今回は解いたのにヒドイことでした( ^^;) 。
ホラーは謎が解かれてしまうと怖さが半減してしまうことがありますが、カタルシスとの兼ね合いが難しいですよね。

16/04/01 冬垣ひなた

クナリさん、拝読しました。

見ただけでクナリさんと分かる秀逸なタイトルと、テンポのある展開で引きつけられました。
娯楽の為の殺人を映したスナッフフィルムぽい物は昔からホラー映画にありますが、
実際に見世物として行われたとしたらやはり弱い者が犠牲になっていくのでしょうか。
その中での人間ドラマは、観客には知る由もない事なのでしょうけれど……。

16/04/01 クナリ

冬垣ひなたさん>
タイトルは毎回ウンウン唸りながら少しでもかっこいいものを……と思っているものですから、そう言って頂けて嬉しいです!
あまりに救いが無さすぎる話ですが、これでとってつけたような救済があるのもどうなのか……ということで、こうした展開になりました。
記号としてとらえようとすれば簡単にできてしまう「他人」たち。
心と生命というものに、もっと思い馳せなくてはなあと思います。

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