1. トップページ
  2. N氏のネコは

Nyaokさん

性別
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

4

N氏のネコは

16/03/03 コンテスト(テーマ):第103回 時空モノガタリ文学賞 【 同棲 】 コメント:3件 Nyaok 閲覧数:815

この作品を評価する



 拾った猫が地球外生命体だと僕たち家族が気づいたのは、ミケがひげを垂らして神妙に語り出した時だった。
「――というわけで、お世話になりましたニャ。母星に帰っても皆さんのことは忘れニャいです。多分」
 多分なんだ、と僕は思ったが口には出さなかった。
「ミケ、元気でな」
 父さんがミケの頭に手を乗せて、ちょっと乱暴に撫でる。じいちゃんも父さんも妹も泣いていたけれど、ぼろぼろに泣きくずれていたのはミケを飼うときに一番反対した母さんだった。
 夏休みもそろそろ終わりだなと思っていたら、ミケとこんなことになってしまった。深夜にミケをバスケットに入れて、父さんの車で裏山の頂上あたりまでやってきたところだ。車中ではみんな黙りこくっていた。
 地球外生命体だろうとなんだろうと、今や家族の一員であるミケと別れるのは辛い。母さんが「動物を飼うと別れるときに哀しいから」、と言っていたのを思い出す。そのときの言葉の本当の意味が、何年も経ってようやく僕の胸に迫ってくる。
「ミケ、MK22星雲に帰っても、わたしのこと忘れないでね、絶対だよ!」
 小さな妹がミケに抱き着く。バレエの発表会が今週の土曜日なのに、なんで来てくれないのとずっと駄々をこねていた。どっちにしてもネコだからいけないけど。

「皆さん、さようならですニャ……」
 ミケの言葉を合図にしたように、林の中に雑に隠してあった宇宙船が七色に輝いて――――――輝いて光を失ってしまった。
「ど、どうしたのミケ? 宇宙船壊れたの??」
「うーん。そろそろ眠いし、皆さん明日にしませんかニャ?」
 僕たちは喜んで、ミケをまた車に乗せて帰った。ウソみたいだ。一緒に過ごせる時間が一日増えたのだ。明日は何をしよう。ミケを自転車のカゴに乗せて魚釣りに行こうか。みんなでミケの大好きな煮干しタワーを作ろうか。縁側で昼寝だっていいかもしれない。


「ミケ、急いで。父さんが車のエンジンかけて外で待ってるよ」
「んー…でも眠いのでもう少しゴロゴロしてから帰っちゃだめですかニャあ」


「寂しいな。やっぱり明日は帰っちゃうんだよね……」
「うニャ?」
「あれ、帰らないの?!」
「おかあさんがたくさん猫缶買っちゃったですからニャあ。全部食べないともったいないニャ?」
「確かあれ、おみやげだったと思うけど……」


「ねえ結局いつ帰るのさ?」
「そのうちですかニャ」


 光陰矢の如し。時代は流れた。
 あの頃とはすっかり何もかも変わってしまった。結婚して子育ても終わった。両親も看取った。今や猫缶の中身だって分子分解した生ごみから作れてしまうご時世。変わらないのはうちのミケくらいだ。こんなに長い間、同じ動物を飼っているうちは他にはないだろうな。
 今日は僕の孫たちが遊びに来ると知って、災難はごめん被るとばかりのミケは、昔、実家からもらい受けたお気に入りの古箪笥(ふるだんす)の上で丸くなっているようだった。見上げると、しっぽが垂れているので気が付いた。
 僕は椅子にもたれて、火星から送られてきたホログラムを眺めていた。デスクの上では白髪交じりになっても美しく、細い手足にしなやかさを保ったままの妹が、華やかな舞台の上で踊り続けている。
「そういやミケさぁ、昔、宇宙に帰るとか言ってなかったっけ」
「ま、そのうちですかニャ」
「……そっか。ありがとな」
 ミケはしっぽを振るだけだ。

 で、ミケと僕の付き合いはそろそろ半世紀になる。父さん、母さん、今でも僕ら楽しくやってるよ。




                     おわり



コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

16/03/11 あずみの白馬

ミケちゃん? がかわいいと思いました。
最後のオチも意表をついていて面白かったです。

16/03/12 Nyaok

>志水さん
 ご感想ありがとうございます。
なんで帰らなかったのか理由はあえて書きませんでした。
主人公のN氏の視点では答えが出ていますが、
ミケの答えはまた別かもしれませんね。

>あずみの白馬さん
 ご感想ありがとうございます。
「ミケちゃん」にハテナがついているのがいいですね(笑)
 今回はコメディーSF風に仕上げてみました。
楽しんでいただけてよかったです。

ログイン