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みやさん

写真と物語の融合、写真物語家を夢見ています。 マイペースで更新中。Twitter➪@miya_ayim

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Mr.ブルーバードを探して

16/03/01 コンテスト(テーマ):第103回 時空モノガタリ文学賞 【 同棲 】 コメント:0件 みや 閲覧数:652

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朝目覚めて洗面所に行くと、昨日まで一緒に暮らしていた男の歯ブラシがまだ残っていて、こういうところが嫌なのよ、とウンザリしながら彼女はその歯ブラシをゴミ箱に投げ捨てた。

身仕度を整えてリビングに戻るとノートパソコンがブルーバード社からのメッセージを受信していて、そのタイトルを見て彼女は小さく溜息を零した。ブルーバード社には昨日まで一緒に暮らしていた男との同棲の解消を昨夜の間にメールで報告済みだった。タイトルには”マッチング男性のご紹介”の文字が表示されていた。

「何人目だったっけ?」
ランチのサラダをつつきながら彼女の同僚が目を丸くしながら聞く。
「五人目…」
彼女の返事を聞いて彼女の同僚はますます目を丸くした。
「今回はかなり気に入ってたみたいなのに、何が原因だったの?」
「DVDをね、一緒に観ていて…”レオン”。”レオン”を観てそれから”ショーシャンクの空に”を観ようという事になったんだけど、あの人ったら観終わった”レオン”のDVDを”ショーシャンクの空に”のケースに入れたのよ。信じられる?あり得ない」
「…私もそのタイプだけどね」

ランチを食べているカフェには、ブルーバード社のプロモーションビデオが流れている。”貴方に遺伝子的にも性格的にも最適なパートナーをご紹介致します。出会いから同棲まで、貴方に幸せな未来を”

ブルーバード社は政府認定の企業で、紹介される異性は信頼出来る人物ばかりであり、出会いが無い、恋愛する暇がない、寂して忙しい彼女の様な人間には正に好都合な企業である。自分とマッチングした異性と何度かデートを重ねて、相手の事をもっと深く知りたいと双方の希望がマッチすると、同棲のステップに進む事となる。同棲がふしだらな事だと認識されていたのは遠い過去の事で、現在では結婚を踏まえた同棲は必要不可欠な事項となっている。
同棲は双方どちらかの家で行われるが、殆どのケースが女性宅での場合が多い。試合に挑むにはアウェイよりもホームの方が断然有利である。女性が性的関係に進む事に躊躇する場合は、男性をリビング等に寝泊まりさせて自分の寝室には厳重に鍵を掛けておけば良いのだから。

彼女が一番目にマッチングした男は同棲のステップに進む迄に至らなかった。二番目の男は同棲に無事に至ったが、潔癖過ぎる性格が気に入らなかった。三番目の男は性的欲求が薄く、彼女には物足りなかった。四番目の男は極度のマザコンが発覚して一気に熱が冷めた。五番目の男は、ルックスもそこそこ、趣味も合い、身体の相性も最高に良く、性格も潔癖過ぎる事もなくマザコンでもなかったが、DVD事件で少しいい加減な印象を受けて彼女は怒りすら覚えた。

「完璧だったのに…」
デザートのフォンダンショコラを持て余しながら彼女は残念そうだった。
「完璧だと疲れるでしょ」
彼女の同僚はラズベリーのムースを頬張る。
「疲れる?何故?」
「相手が完璧だと、自分も完璧な自分でいないといけなくなるからね。完璧じゃなくても良いんじゃない?」

ランチを終えてオフィスに戻りながら、すれ違う若い恋人同士や年配の夫婦の事が彼女には自分とはかけ離れた存在の様に思えた。

貴方達もブルーバード社のマッチングで出逢ったの?そして同棲を経て結婚したの?
同棲すらも長続しない彼女にとって結婚というものは、自分では到底到達する事の出来ない大きな山の様に思えて仕方がない。

社内の自分のデスクに戻ると、デスクトップのパソコンがまたブルーバード社からのメッセージを受信していた。タイトルは勿論”マッチング男性のご紹介”だ。

「今度はどんな男かしらね」
カプチーノを飲みながら楽しそうに彼女の同僚がデスクトップパソコンを覗きこんで来る。彼女がウンザリして自分のデスクに戻ってよ、と同僚を追いやると新しいメッセージをデスクトップのパソコンが受信した。

送信相手は五番目の男だった。タイトルは”こんにちは”。何がこんにちはよ、昨日同棲を解消したばかりなのに、呑気なものだわ。と彼女はイラつきながらもメッセージを開封した。

”歯ブラシを置き忘れたので、今夜お宅に取りにお邪魔してもよろしいですか?”

これは計画的な犯行なのか?或いは本当に持ち帰るのを忘れた歯ブラシを返して欲しいだけなのか?そんなはずはないだろう。

”もちろん構いませんよ。お待ちしています。”

そう返信して彼女は歯ブラシがもうゴミ箱行きになっている事を知った男がどんな顔をするのか想像してみる。ひどいなぁと言いながらゴミ箱から拾って、洗えば大丈夫だからと使うかもしれない。信じられない!信じられないけれど…五番目の男らしいと思えた。


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