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森氏蛙夢吐さん

手紙には、その裏面に書かれていない人生があると思います。それを描く事により、書き手の想いや愛憎を想像していただければと思います。

性別 男性
将来の夢
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地獄の門でね

16/03/01 コンテスト(テーマ):第102回 時空モノガタリ文学賞 【 ギャンブル 】 コメント:0件 森氏蛙夢吐 閲覧数:502

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鬼の又吉は丘の上で大八車の上に大きな鳥籠を載せた火の車を停めていた。
又吉がまだ肩で息をしていると鳥籠の中から声がした。
「あのう、ここはどこですか?」
「ああ、地獄までの途中にある追分だよ」
「さあ、お前もここで一休みしろ」
そう言いながら、又吉は女を降ろした。
「所で、お前とは会ったことがあるような気がするが、どうにも思い出せない」
又吉は刺青が入った女の顔をマジマジと覗き込んだ。
「まあ、こっちに来て生きていた頃の話を聞かせてくれないか」
女もこの鬼を知っているような気がするのだが、鬼の顔には見覚えがなかった。
「私の夫は重い病気を患っていたの。病は悪くなる一方で、最後には痛みに耐えかねて殺してくれと言うばかりだったわ。私も精も魂も尽き果てて、思い余って夫を殺してしまったのよ。夫が死んだ後、私も溜まった疲れについ変な男に引っかかり、お金と命を取られてしまったのよ」
そう言うと女は黙り込んだ。
「俺も人間だったことがあるんだが、どうにも思い出せない。門名主が言うには俺は賭場でサイコロを振っていたんだ。胴元は賢い人で荒稼ぎはしない。そういう生温い遣り方を嫌う奴もいて、ある日その胴元が殺された。そして、俺が犯人になっていて、直ぐに処刑された。だからもう金輪際、賭けはしねえと決めたんだよ」
女は黙って聞いていたが、何を思ったのか
「ねえ、彼処で二股に分かれているけど、どこへ行くの」
「右は地獄へ行く道だ」
「それじゃ、左は」
「左はよく知らねえ」
それを聞いて女が
「ねえ、相談なんだけど。いいかな」
「なんだい、いきなり」
「私、運が悪いまま地獄には行きたくないのよ」
「だからと言って、どうする積りだい」
「だから、賭けをしてくれないかい」
「賭けか。賭けはできねえよ」
「でも私はどうしてもこのままでは行きたくないのよ」
そう言って両手を合わせて頼み込んできた。
今まで沢山運んだが、拝まれたのは初めてだった。
鬼の又吉は暫く考えていたが、どういう訳か賭けをする気になった。
「よし、判った。遣り方は俺が決める」
そう言うと、地面から白黒の石を拾い上げて
「この石の裏表で勝負だ。それでお前は何が望みだ」
「勝ったら、あの左の道を行きたいの」
「左の方か?あっちは先がどうなっているか分からないぞ。それでもいいのか」
「ええ、きっと良い事が待っていると思うわ」
「それで、お前が負けたら、どうする?」
「あんたの女房ってのは如何かしら?」
「俺は鬼だぞ。もしかしたら、お前を食ってしまうかもしれないぞ」
「ええ、良いわよ」
「ふーん、まあ、良かろう。それじゃ」
と言うなり、小石を上に放って、落ちてきたのを受け止めた。
「さあ、どっちだ?」
「白よ。シロでいいわ」
「勝負っ」
そう言って、手の甲を開けた。石は白を見せていた。
「あんたの勝ちだ」
「嗚呼、私の勝ちよね」
「そうだ、あんたの勝ちだ。さっさと行きな」
「又吉さん。どうもありがとう」
そう言い残して追分の左の道を歩いていった。

又吉は掌から二つの小石をポンと投げ捨てた。
又吉は、とぼとぼと空の火の車を引いて行った。
やがて地獄の大門の前に着いた。
すると、大門脇の木戸が開いて、小鬼の門名主が言った。
「おい、又吉。罪人はどこだ」
「逃げられました」
「又吉。お前は大罪を犯したのだ。お前は今限り鬼の勤めを解任する」
小鬼が宣言すると又吉の頭に付いていた角がポロと落ちた。
そして、鬼の形相も人間の顔に変わった途端に卒倒した。
「さあ、又吉を火の車に乗せるんだ」

その時、遠くから声が聞こえてきた。
「待って下さい」
暗がりの中から人間の女が現れた。
「お前は何者だ。ここは人間が来られる所ではないのだ」
「はい、私がその火の車に乗っていた者です。私が乗りますので、どうか又吉さんの罪を赦してやってください」
「えっ、お前が、しかし、刺青がないが。まあ良いか。捕まえろ」
小鬼の手下達は女を拘束し鳥籠に押し込んだ。
「えっ、話が違いますよ。又吉さんを解放してください」
「何を誤解しているんだ。俺は又吉を解放するなんて言っていない。さあ、大門を開けろっ」
ガクンと火の車は動き出した。
「又吉さん、大丈夫?」
又吉はゆっくりと目を開けた。
「ああ、お前は・・・どうして逃げなかったんだ」
女は、その声に聞き覚えがあった。
「もういいのよ。今度は私が又吉さんを助ける番だと思ったのよ」

やがて、地獄の大門がゆっくりと開きだした。
中から清冽な光が外に漏れ出してきた。
「さあ、明るい所では又吉さんの顔を見せてください」
サッと光が二人を包んだ。
その瞬間、二人は声を上げた。
地獄の清らかな光に二人は意識がはっきりと戻った。
生前、二人はあの夫婦だった。


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