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文字通りギャンブル

16/02/29 コンテスト(テーマ):第102回 時空モノガタリ文学賞 【 ギャンブル 】 コメント:0件 ケイジロウ 閲覧数:689

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 僕がパチンコで生計を立てていることがわかると、「じゃぁ、今からカジノ行こうよ。」と彼が提案してきた。
 ホステルのドミトリーで1時間前に会ったばかりの青年である。ここは海外だというのに、日本語で「日本人ですか?」といきなり聞いてきた。日本人に会えて僕も正直嬉しかったが、一応ポーカーフェースで気取っておいた。僕はこの宿に前日着いた。だから僕は彼の先輩である。だから僕は彼より偉いのである。
 しかし、先輩の僕に対して彼はズカズカと質問攻めしてきた。「どこ出身ですか?」「何歳っすか?えっ?タメなんだ。」「カジノ行ったことある?」彼の丁寧語はいつの間にか体育会系語に変化し、タメ語になり、やがて下の名前で呼び捨てになっていった。海外で日本人と会うと、初対面でも距離が急速に縮まる。日本だったら半年くらいかかるプロセスが、半日くらいで済んでしまう。ただ、1時間というのは新記録だ。彼は、強引かつ天然かつ犬的要素を人より多くもっている感じがする。一応、先輩としてポーカーフェースは崩さなかったが、心の中では、友達ができたことを喜んでいる。
 僕はその時、非常に暇だったので、彼とカジノに行くことにした。
 彼はギャンブルの素人である。僕はギャンブルの玄人である。玄人は素人にレクチャーする義務がある。中に入ると一緒にどんなゲームがあるか見て回った。彼には言わなかったが、実は僕もカジノデビューである。カジノというと、上の方からマジックミラー越しに、サングラスかけた怖い人たちが葉巻を吸っている印象があるが、そんなことはなかった。そもそも天井が低かった。面積も、僕が通っているパチンコ屋の方が広いのではないだろうか。なので10分もしないうちに視察は終わった。
 「結論から言うとね。こりゃ勝てないね。」玄人が言った。
 「え?まだ賭けてないじゃん。」素人が言った。
 「いや、よーく見るとね。すべて勝率が50%未満だ。50%に見えるようなゲームもあるけど、結局ディーラーが有利になってるから、厳密には50%ではない。もうこうなると勝てないよ。」
 「よくわかんないな。やってみなくちゃわかんないでしょ?」
 「いや、負ける。勝率が51%だったら、そこにずーっと座っていたら勝てるよ。でも、勝率が49%のゲームはやり続けても勝てるわけないんだよ。僕らにできることは、一回の賭けで、すべての有り金をつぎ込んで、勝っても負けてもそれでおしまい、って作戦くらい。文字通りギャンブルだけどね。」
 僕と彼はそこで別行動をとることにした。僕はルーレットを選んだ。有り金すべてを一瞬で使い果たす。やることもないのであたりを見回すと、ブラックジャックをやっている彼が目に入った。近づいてみてみると、予想に反して勝ち続けていた。チップの量からではなく、足を組んで“ハリウッド映画”を気取っているところあたりを見て、勝っていることの想像がついた。けっ!カードを要求するときの指のつき方とかなんなんだ。素人のくせして、玄人の言うことを全く聞いておらん。つまらん。先に部屋にもどろう。
 彼に先に帰ることを告げに近づこうとしたとき、若い女の子が元のノロマなディーラーとかわった。中華系だろうか?すらっとしていて、上品な印象である。とても別嬪である。しかし、表情は全くなかった。しなやかな長い指がとてつもなく速く動いている。彼の姿勢が正されたのが視界の隅の方に入ってきた。
 彼が席を立つまでに5分もかからなかったか。モチロン、チップはなくなっていた。彼は放心状態で、何が起こったのかまだ把握できていない様子だった。
 カジノを出るとあたりはすでに暗くなっていた。生暖かい風が吹いている。有り金すべてすってしまったが別に対して悔しくはなかった。
 「どうせ負けんだからさ、最初っからいっきに賭ければよかったのに。」
 僕の言葉には少し嫌味が含まれていたかもしれない。
 「そうかもしれないな。でもさ、『こりゃいけるぞ』って時は、何というのか、楽しかったよ。ディーラーがいきなり変わったでしょ。しかもかわいい子。手の動きがすんごい速くてさ。こっちは考える暇なんてありゃしない。なんかヒステリックな女の子に『早くレストラン決めろ!』って言われている感じがしてさ、あわててテキトーな答えを出しちゃうんだよね。カッコつけて。もう完全に飲まれちゃったよ。『こりゃヤバい。』って思った時はもう遅かったね。いつの間にかチップがなくなってた。でもそんな駆け引きも楽しかったよ。うまく言えないけど、勝った負けたは僕にとってどうでもよかったのかもしれない。あっ、そうだ、でっかいハンバーガー食わせる店があるらしいんだけど、今から行かない。僕、奢るよ。」

 この負け犬が。わけのわからんこと言いやがって。
 でも、あのディーラー、可愛かったなぁ。


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