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ポテトチップスさん

20代の頃、小説家を目指していました。 ですが実力がないと自覚し、小説家の夢を諦めました。ですが最近になって、やっぱり小説家の夢を追い求めたい自分がいることに気づきました。久方ぶりに、時空モノガタリ文学賞に参加させて頂きます。 ブログで小説を書いてます。http://www.potetoykk.com

性別 男性
将来の夢 太宰治賞もしくは北日本文学賞で最終選考に残ることです。
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才能が欲しかった男

16/02/29 コンテスト(テーマ):第104回 時空モノガタリ文学賞 【 映画 】 コメント:0件 ポテトチップス 閲覧数:694

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賢太は茶封筒を大事に抱え、エレベーターで4階に上がった。ドアに(株)サミューズとプレートが掛かっているドアを開けて中に入ると、パソコンに向かって仕事をしている数人の女性が賢太に顔を向けた。
「あのう、すいません。オリジナルのシナリオを書いたんですが、読んで頂けないでしょうか?」
1人の女性社員が椅子から立ち上がって「うち、そういうのお断りしてるんです」と言った。
「読むだけでいいんで、読んでもらえないでしょうか?」
女性は面倒くさいような表情を浮かべると、奥から「どうしたの?」と、短髪の髪を七三分けしている若い男が言った。
賢太の持っているシナリオを見て「オリジナルのシナリオ? 悪いけど、ほかあたってくれる」
落ち込みながらビルから通り出た。賢太はバイトをしながらシナリオを書き始めて8年が経つが、まったく賢太のシナリオを採用してくれる会社はなかった。
千代田区の神保町を歩いていると、通路で手書きのシナリオを売っている20歳そこそこに見える青年と出くわした。賢太は、路上で売られているシナリオの一冊を手に取り、ページ捲った。
読みながら面白いと思った。斬新なストーリーで、起承転結がハッキリしていて魅了された。あっという間に最後まで読み切った。
「このシナリオ、君が書いたの?」
「そうです」
「シナリオライター目指してるの?」
「いえ、趣味で書いてるだけです」
賢太は、手に持っている『初恋』と手書きで書かれたシナリオを、1000円で購入した。

街路樹のイチョウ並木の葉が真っ赤に染まり、道路が赤く染まった葉で埋まりかけた頃、バイトが終わり自宅アパートに帰りつくと、ポストに封筒が入っていた。
中を開けると、第21回 函館港イルミナシオン映画祭 シナリオ大賞グランプリのお知らせだった。賢太は喜びと同時に、頭の頭痛を感じた。
グランプリに選ばれた作品は、夏に神保町の路上で青年から1000円で買った『初恋』だったからだ。
どうしようか迷ったが、もうすぐ30歳を迎える自分には、これが最後のチャンスかもしれないと思い、ありがたく賞をもらおうと決めた。
12月4日、函館にある会場で、受賞式が行われた。
夥しい数のカメラのフラッシュを浴びていると、賢太は自分に酔いしれていった。
「受賞作のシナリオを書こうと思ったのは、どういった経緯からなんでしょうか?」記者が質問した。
「ちょうど僕は、受賞作の『初恋』を書く少し前に、中学の同窓会に出席しまして、そこで初恋だった女性と再会を期待していたのですが、その女性は24歳の時に、交通事故で亡くなられていました。彼女との思い出が一生僕の心から色あせないように、シナリオとして残そうと思ったのが、『初恋』を書こうと思ったきっかけです」

受賞から10年が経った。あご髭を生やした賢太は40歳になろうとしていた。
待ち合わせの喫茶店のドアを開けて中に入ると、モロタがコーヒーを飲んでいた。
「待たせた?」
「いえ、俺もちょっと前に来た所です」
「そう。ちょっと僕、忙しくて、すぐ店を出ないといけないんだ。シナリオくれる」
モロタはカバンの中から茶封筒に入ったシナリオを賢太に渡した。賢太は中を確認せずにジャケットの内ポケットから封筒を抜き取り、モロタに渡した。
「30万円あるから、あとで確認して。じゃあ、僕、別用があるから行くね」
「あっ、賢太さん。これが最後にしてください」
「えっ? 何、最後って」
「賢太さんのゴーストライターやるの今日が最後にしてください」
「なんでだよ! 金か?」
「違います。俺、自分の名義でシナリオライターをやろうと決めたんです」
「モロタ君、君には今までずいぶん世話してやったじゃないか」
「もう、決めましたので。それと、賢太さんのゴーストライターをやっていたこと、しばらくしたらマスコミに喋ろうと考えています」
「ふざけるな!」賢太は、シナリオの入っている茶封筒を床に叩きつけた。床にシナリオが散乱した。
「ふざけてるのは賢太さんの方ですよ」モロタは賢太を睨みつけながら言った。「才能もないくせに雑誌の取材で自分には才能があるように答えていて。それに俺、何も知らないとでも思ってるんですか?」
モロタに睨まれ、賢太はへっぴり腰になった。「何がだよ?」
「賢太さん、俺の嫁と浮気してますよね!」
「いや……、違うんだよ」
賢太の顔面に拳が当たり、賢太は床に崩れおちた。
「賢太さん、あんたの映画界での信用はもう終わりだ。それじゃ、さようなら」
賢太は鼻を右手でおさえながら「まってくれ! まってくれ!」と言った。
ドアが勢いよく音を立てて閉まった。
賢太は、俺の人生は終わったと思い、可笑しくもないのに笑えてきた。店内に響きわたるくらいの大きさで笑い続けた。他の客と店員が不気味な目を向けてきていた。


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