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あずみの白馬さん

成人済 アイコンは天乃ゆうりさん作成(無断転載を禁じます) 自分なりの優しい世界観を出せるように頑張ります。 好きな作家は飯田雪子先生です。若輩者ですが、よろしくお願いします。 Twitter:@Hakuba_Azumino

性別 男性
将来の夢 旅立つときには、ひとりでも多くの人に見送られたい。
座右の銘 「これでいいのだ」

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トリトンブルーに全てをかけて

16/02/27 コンテスト(テーマ):第102回 時空モノガタリ文学賞 【 ギャンブル 】 コメント:0件 あずみの白馬 閲覧数:1274

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――あの名機が引退するらしい――

 私のトゥイッターラインにそんなうわさが流れてきた。
 航空大手二社のひとつ、トリトン航空のB767−300、就航からもう24年の月日が流れていた。

 ***

 あれは18年前、私がまだ中学生のころだった。
 修学旅行で乗るはじめての飛行機、春日井空港から沖縄に行くだけでもみんなわくわくしているところに、この旅客機がやってきたのだ。
 ポシェットモンスター……みんなやっていたゲームのキャラクターが機体いっぱいに描かれて、同級生たちは大歓声をあげた。
 そして私は……、彼に恋をした。完全に一目ぼれだった。
 それ以来旅客機マニアへの道をひた走る。もちろんメインは彼を追いかけること。
 キャビンアテンダント目指して必死に勉強もした。彼に乗務する日を夢見て……。

 ***

 今、私は中京競馬場にいた。引退した旅客機は、他社に売られて第二の人生を送れるものは少なく、ほとんどは廃棄処分にされてしまう。

 彼を待ち受けているのもおそらく廃棄。24年前の機体を欲しがる航空会社はおそらく無いだろう。

 となれば道はひとつしかない……。私が彼を救ってみせる。

 ***

 私は高校卒業近くに重い病にかかって、病院に長期入院することになってしまった。
 しかも手術で助かる可能性も半々だという。私は不安な日々を過ごしていた。そして手術の日……

 手術台に乗せられて麻酔で意識を失う。
「大丈夫……、大丈夫だよ」
 白い空間の中で私は彼を確かに見た。
「きっとよくなるから」

 そう言うと彼は笑ってくれた。
 そう……、私は彼と飛べるはず……!

 リハビリなどで入院から退院まで2年以上かかってしまった。
 体も弱くなり、私はキャビンアテンダントの道をあきらめるしかなかった。

 そのころの彼は海外アニメに登場するキャラクターの塗装を施されていた。
 それも非常に人気があって、本当にみんなに愛された飛行機だった。

 ***

 日曜の午後、中京競馬場はなかなかの人ごみだ。普段私は競馬場にはあまり来ないので、かなりの混雑に感じられた。

 私は命の恩人を助けるためにこの場所にいる。中古旅客機の相場は1機20億円前後。もちろん個人で買える額ではない。でも、私の命を救ってくれた彼を救わなければ……、競馬新聞に目を通す。次の11レース、チャンピオンズカップ(G1)に気になる馬がいた「トリトンレディ」と名づけられたその馬は既に7歳。前走、京都競馬場で行われたみやこステークス(G3)で3着に入ったものの、単勝は30倍をつけていた。
「運命、かな。この馬に全て託そう……」

 バッグの中の1億円を窓口に渡して全額この馬の単勝に賭けた。今度は私が彼を助けるんだ……!

 怪しいお金ではない。たまたま買ったロト6が当たったのだ。私は彼を救うためにこのお金を増やして見せると誓った……

 しかしオッズ板を見ると単勝は20倍に下がってしまった。一気に買ったためにオッズが動いてしまったのだ。でも後戻りはできない。そしてファンファーレが鳴り響く。

『体制完了! スタートしました! 横一線の綺麗なスタート、向こう正面での先行争い。押して押して6番のマサキファーストがまずは先頭、ミサキファルナがその直後につけて……、トリトンレディは中団位置、7、8番手といったところを進んでいきます』

 私は静かにレースを見守る。

『第四コーナーを回って最後の直線。マサキファーストはいっぱいか。変わって今度はキクナロイヤルが上がっていく! 連れて行くようにトリトンレディも外から来ている』
「がんばって!」
 この馬が1着に来なければ全て終わり。私は祈るような気持ちでレースを見守る。
『キクナロイヤル先頭! ミサキファルナも粘っている。その外からトリトンレディも来ているぞ! 残り200!』
「がんばれっ!」
 え……? この声は……?
『キクナロイヤル1馬身ほどのリード、ここでトリトンレディが先頭を捕らえる勢いだ、さあ残り100! キクナロイヤルか、トリトンレディか!? 2頭並んでゴールイン! さあ捕らえたか粘ったか……』

 人生全ての幸運をここで使ってもいいと思った。

 写真判定の結果は……、




 数日後、ニュースサイトにこのような記事が流れた。 

――元ポシェットジェットのトリトン航空B767−300、退役後は春日井空港で保存展示へ

 トリトンレディが1着となり、20億円を手にした私は、航空会社と空港にかけあい、費用を私が負担することを条件に、この機体を保存してもらうことに決めたのだ。
 私一人のものにするより、みんなに見てもらったほうが、彼も喜ぶから。

「ありがとう」

 羽を休めた彼は、確かにそう言ってくれた……。


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