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前田沙耶子さん

性別 女性
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イチコとニコ

16/02/22 コンテスト(テーマ):第103回 時空モノガタリ文学賞 【 同棲 】 コメント:1件 前田沙耶子 閲覧数:683

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双子の姉であるイチコが死んだのは4ヶ月前のことだった。私の目の前で車に轢かれて呆気なく逝ってしまった。お葬式を終えてイチコが焼かれ、案外すぐに日常は戻った。

それでも私はそれを、イチコの死を真実だとは思えなかった。いつも私の味方をしてくれたイチコ。いつも姉らしく私を助けてくれたイチコ。鏡を見ればそこにいる。イチコはいつも私の右側にいた。昔一緒の布団で寝ていたときも、手を繋いで歩いたときも、もう手を繋がないで歩くようになってからも。二人で撮った写真を見ると、必ずイチコが右で私が左にいる。だから、私の右半身に住み着いたのだ。

朝、鏡に私と姉が映る。

「おはようイチコ」
「おはよう、ニコ」

右耳にイチコのピアス、左耳に私のピアス。髪の毛は真ん中から右側は黒、左側は濃い茶色だ。何故そんな風に染めたのかと問われても、イチコが黒髪だったからとしか言えない。私達は一心同体で、イチコの肉体が無くなったから私の肉体の半分をあげた。それだけのことなのだ。

でもそれは、両親にも同級生にも理解できないらしい。父はもうそんなことはやめてくれと言う。母はずっと泣いている。クラスメイトは私達から距離を置き始めた。イチコも私もここにいるのに変だと思う 。

「ねえニコ」

イチコが話し掛けてくる。

「もう私のフリなんてしなくていいよ」
「どうして?」
「私はもう、死んだんだよ」
「あのねイチコ」

私は諭すように、宥めるように、言った。

「別に私はイチコのフリなんてしてないよ。現にイチコはここにいる。だって私達は双子で、一心同体だから。イチコの肉体が無くなったからって、いなくなったわけじゃないの」
「……ニコ」

イチコも、変。


だから私は大好きなイチコの為にそれを実行することに決めたのだ。

「ニコ、ニコやめて」

イチコが悲しそうに言う。

「大丈夫だよ、怖がらないで。これはイチコのためなんだから」

屋上から飛び降りなんかしたら二人とも死んじゃう。だから私は3階の空き教室を選んで、窓を跨いだのだ。左耳のピアスを外して落とす。見下ろす地面には花壇。たぶん、大丈夫。
私は躊躇いなく窓枠を蹴った。

「ニコ、ニコ」
「大丈夫だよ、イチコ」

何のために左向きに落ちたと思ってるの。
それは永遠のような気がした。ああ今、とっても幸せかもしれない。イチコと二人で飛んでいるのだ。

「ねえイチコ」
「……なあに、ニコ」
「そのピアス可愛いよね」
「……ありがとう。ニコのも可愛いよ」
「そういえばお揃いって持ってないよね」
「あ、たしかにそうかも」
「今度買ってよ」
「ニコ、……」

けれどもその幸せな時間は意外とすぐに終わってしまって、物凄い衝撃が走った後、徐々に何もわからなくなった。グラウンドにいた生徒達が叫ぶ声が遠くで響く。最後にきらりと光るものが見えた。あれはきっと、……のピアスだ。


目が覚めると真っ白な場所だった。すぐに病院だと気付き体を起こそうとすると激痛が走る。動くのは無理みたいだ。……ナースコールとか、押すべきなのかな。まごついていると、部屋のドアが開いて看護師さんらしい人が入ってきた。私が目を開けているのを見て驚いたような表情を浮かべ、渡辺さんが目を覚ましました、と叫んだ。
両親は泣いていた。よかった、よかった、あなたまで居なくなったらどうしようと思った。一通り話をした後、ひとまず休息を、ということで私は一人に、……否、二人きりにされる。


そっと右耳を触ると、ちゃんとピアスが付いていた。私は小さな声で呟く。

「ニコ……」

まだ左半身はうまく動かないらしい。それでも口の端をなんとか少しだけ持ち上げて、ニコは笑った。

「やっぱり主導権はイチコが持っててくれなきゃ。私のお姉ちゃんなんだから」

私はため息を吐いて、……それからふっと笑ってしまう。

「どうしたの、イチコ」
「……ううん。今度ニコのピアス買いに行かなきゃね、無くなっちゃったし」
「うん。それにお揃いもほしいよ」
「ああ、そうだった。選ぶの楽しみだね」
「どんなのがいいかなあ」
「退院したら一緒に買いに行こうね」

ニコと私。
ずっと一緒だ。


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このストーリーに関するコメント

16/02/26 霜月秋介

前田沙夜耶子様、拝読しました。
肉体は滅んでも魂は死なず…ですね。
まわりから見ればニコはイチゴの死を受け入れられてないように見えるかと思いますが、まわりからどう見られようと、イチコはまだ生きている。肉体が無くなっただけと、ニコがそれで納得しているのならそれでいいのかもしれませんね。

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