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吉岡 幸一さん

性別 男性
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算数のテストとばりうま棒

16/02/14 コンテスト(テーマ):第102回 時空モノガタリ文学賞 【 ギャンブル 】 コメント:0件 吉岡 幸一 閲覧数:730

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 算数のテスト中に大輔が何度もくしゃみをするものだから、小太はそのたびに頭の中でまとまりかけた数字を粉々にしてしまっていた。
 テストで良い点を取ったほうが「ばりうま棒」を十本奢るという賭けをしていた。ばりうま棒というのは一本十円のトウモロコシを原料とした細長い竹輪のような形をした駄菓子のことである。
「おまえ、わざとくしゃみしただろう。うるさくて集中できなかったじゃないか」
 と、小太がテストの後で詰め寄ると「花粉症なんだから仕方ないだろう」と、大輔は半分申し訳なそうに笑った。
 春には共に六年生になる。同じマンションに暮し、同じ幼稚園に通い、同じ小学校に通っている幼馴染のふたりである。学校から帰るとランドセルを放り投げ、また学校へとかけていく。運動場でキャッチボールをしたり、他の友達とドッジボールをしたり、遊具で遊んだりするためだ。
 遊んだ帰りにふたりはよく駄菓子屋に寄っていた。駄菓子目的というのもあったが、夕方からは大学生くらいのお姉さんが店番をしていたからでもあった。午前中や昼間は白髪の気難しそうなお爺さんが店番をしていたので、なるべくふたりは夕方前には行かないようにしていた。
 お姉さんがいる日は長居して、たまにお爺さんがいる日は十円程度の駄菓子を買ってすぐに店をでた。
「こんど、ばりうま棒を十本買いに来るから。こいつが奢ってくれるってさ」
 大輔は小太を指さしながら運よくこの日店番をしていたお姉さんに話しかけた。学校帰り、左手には野球のグローブをしたままだ。
「いや、ばりうま棒を奢ってくれるのは大輔のほうだよ。俺のほうがテストの点上だし」
 小太は一個十五円のガムを買い、すぐに口に放り込んでムシャムシャ噛んでいる。
「俺のほうが上だよ。自信あるから」
「算数、得意だもん。この前だって俺のほうが良かったし」
「なになに」と、好奇心を隠すことなくお姉さんは聞いてくる。茶髪の短い髪に大きな瞳が輝いている。
 お姉さんはふたりから事情を聞くと笑顔になった。
「そうね、じゃあ、いい点取ったほうに私が奢ってあげるわよ」
「え、いいの」「やったあ」
 ふたりが飛びあがって喜ぶ姿を見ながらお姉さんは「仕方がないわね」と、嬉しそうにつぶやいた。
 テストが戻ってきた日、さっそくふたりは答案用紙を見せあった。共に六十点、どちらが勝ちでもなく引き分けだった。予想外の結果に苦笑いをするしかなかったが、駄菓子屋に報告しに行かないわけにはいかない。ばりうま棒は奢ってもらえなくなってしまったが、お姉さんには会いたかったし。
 夕方になって駄菓子屋に行ったが、この日はお姉さんではなくお爺さんのほうが店の奥に座っていた。
 ふたりが顔を見合わせて帰ろうとすると、お爺さんが緩く手招きをした。
「テストの結果はどうだったんじゃ。孫からおまえらの話は聞いとる」
 逃げる勇気もなくふたりは店の奥に入っていった。大輔が両手でバツをすると、小太も真似してバツをした。
「同点、六十点、引き分け」
 大輔が怒鳴るように言うと、お爺さんは白髪を撫でながら立ちあがって、ばりうま棒のあるところに向かった。
 両手いっぱいにばりうま棒をすくうと、天井からぶら下がっている茶色の紙袋を千切り取って中に入れた。
「ほれ、全部やるから。賭けは孫の勝ちじゃ。あの子はな、きっとおまえらは同じ点数だろうって言ったんだ。そんな馬鹿なことはないって、わしは言って、どちらが正しいか賭けてみようということになったんじゃ。まさかあの子の言う通りになるとはな」
「どうして、俺らが同じ点になるってわかったんだろう」
 大輔が言うと、小太も同意するように頷いた。お爺さんはにやりと笑った。
「ふたりは仲良しだから、だと。理由はただそれだけじゃ。まったく呆れた理由じゃ」
 駄菓子屋を出ると大輔は大きなくしゃみをした。続けて小太もくしゃみをした。
「俺も花粉症になってしまったよ」
 小太がもう一度くしゃみをすると、大輔ももう一度くしゃみをした。
 道の先からお姉さんが手を振っている。ふたりはばりうま棒を抱えてとび跳ねた。 


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