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高橋螢参郎さん

何でもいいから金と機会おくれ

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その花を君は見たか

16/02/14 コンテスト(テーマ):第101回 時空モノガタリ文学賞 【 お茶 】 コメント:2件 高橋螢参郎 閲覧数:1259

時空モノガタリからの選評

「茶に慣れ親しんだ日本人のうち、その花を見た事のある者が果たしてどれほどいるだろうか」という視点が新鮮でした。「高品質の茶葉を一秒でも早く、一枚でも多く出荷する」という人間の欲を満たすために犠牲になっているものに焦点を当てたところが良いですね。
 現実の茶の生産現場で、花は養分を奪うものとして摘まれてしまう事実は知りませんでした。おそらく実際の生産現場では、それぞれ熱心に取り組まれているのでしょうが、生産効率上「益体のないもの」は排除せざるを得ないところはあるのでしょう。人間の“おいしいお茶を飲みたい”という欲求を満たすために、他の生物の生存欲求を犠牲にするというのは、ほとんどの経済活動に当てはまることでしょうが、やはり矛盾といえば矛盾ですね。未来においてはさらに無人化、効率化は進むかもしれません。 
 最後「産まれて初めて」「何もしていなかった」というMX-P04Aと、「花」とが「青空の下」に並んで横たわる姿は、異質な取り合わせでありながら美しく、無用の美とでもいうべきものを漂わせ、印象深い光景でした。お茶の生産現場から排除された「花」の「誰にも請われる事なく、誰にも阿る事なく。ただ、そこに在る」というあり方や、MX-P04Aの姿は、皮肉にも、禅から派生した茶の湯の本来的な在り方に、むしろ近いようにも思え、心に響くものがありました。

時空モノガタリK

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 全自動茶摘機の独立ユニット、個体識別コードMX-P04Aは光学センサーで茶畑に白い着蕾が見られたのを認識すると、すぐに生育状況レポートを作成し本部へとネットワークを介して送信した。整然と並んだ茶畑の畝の間に敷かれたレール上を一日に何往復も行き来し、茶の栽培、収穫にあたるのが彼ら独立ユニットに求められた職能だった。
 本部、とは言ったものの、そこにも誰一人として人間はいなかった。かつては茶摘み歌に歌われたこの地域も、今や無人管理型プランテーションとして黙々と茶を生産するだけのシステムと成り果てていた。
 改めて指令を受けたMX-P04Aは、多目的マニピュレータに備え付けられた鋏で茶の花の可愛らしい蕾を枝ごとばつんと切り落とした。植物に花が咲く理由とはつまるところ子孫を残す為だが、その必要があるという事は即ち、個体としての死期が迫っている証拠に他ならないのだ。剪枝の後、栄養状態の改善が急務であるとの診断を本部のマザーコンピュータは下し、MX-P04Aはそれに従った。
 ゆえにMX-P04Aは茶畑にいながらにして、茶の花というものをまだ一度も認めた事がなかった。無論栽培対象の生態データとしてのインプットは持ち合わせていたが、益体のないものは存在しないものとして扱わなければならなかった。
 高品質の茶葉を一秒でも早く、一枚でも多く出荷する。
 これは人間の決めたスローガンなどといった生易しいものではなく、規定事項だ。MX-P04Aも機械である以上、易々と反するわけにはいかなかった。蕾が芽吹くその都度、無慈悲に枝を切り落としていった。
 時には株ごと間引く事すらあった。本来持つ生物としての寿命とは関係なく、生産効率が落ちたという理由だけで廃棄されていく。作業を冷徹に実行するモーターの駆動音だけが、茶摘み歌の代わりに茶畑を満たしていた。
 MX-P04Aは他の独立ユニットとともに、日々職務を遂行した。誰からも褒められるでもなく、そうである事が当たり前であるかのように働き続けた。日没が日の出の尻尾を食み、できた環はぐるぐると回ってこそいたが、車輪として用を為しているのか、よしんば進んでいたとしてもどこへ向かっているのか、当人たちには知る由もなかった。

 ある時を境に、MX-P04Aは蕾を見落とす事が多くなった。
 本部は小さな異変に即刻気付いたが、センサーを始めとするハードウェア面、及びプログラムを担うソフトウェア面を含め、異常は一切見られなかった。独立ユニットをまるまる一台新調するにもコストがかかる。しばらくは経過観察との判断を下したが、どこも錆びていないのに動作不良を繰り返した為、遂に茶の花がひとつ咲いてしまった。
 これを受けてどこか遠くでバカンスをしながらモニターで監視していた茶畑の主が、これまたどこか遠くでプランテーションの管理を請け負っていたメーカーに電話で怒鳴り散らした。メーカー担当者はぺこぺこと電話の前で頭を下げながら、下請け会社の担当者を足蹴にした。
 そういう事が延々と連なって、MX-P04Aは廃棄処分される運びとなった。
 実物を目の前にしての最終機能確認も、本来ならば義務だったのだが実施されなかった。ここにも何かしらのコストはついて回るのだ。ただでさえ廃棄に余分な手間がかかっているというのに。
 MX-P04Aは回収業者の若者に足蹴にされても何も言わなかった。そのような機能も権限も、最初から賦与されていなかった。
 ただ、基盤の陰でずっと想っていた。
 定められた0と1との小さな隙間で、白い花の事だけをずっと想っていた。決して表に出す事はなかったが、確かに懸想していたのだ。
 それがどういう理屈なのかは誰にも説明できなかった。というよりも、誰も端から理解しようとしないだろう。もしMX-P04Aに恋する気持ちが宿ったと知っても、きっとバグか電気回路の故障といった心ない一言で片付けられてしまうに違いなかった。機械が恋をしたところで、何の役にも立ちはしないからだ。
 茶に慣れ親しんだ日本人のうち、その花を見た事のある者が果たしてどれほどいるだろうか。
 同じ事だった。

 MX-P04Aは裏山へとぞんざいに投棄され、あとは内蔵された非常用バッテリーの充電が切れるのをその場で待つのみだった。
 産まれて初めて、彼は何もしていなかった。レールの上を忙しなく動き回っていたのがまるで嘘のように、今は青空の下、静かに横たわっていた。
 その間、彼の瞳は目前の茶の花を捉え続けていた。プランテーションから逸出したものがいつしか山の斜面に根付き、今では俯きがちな白い花を誰にも憚らず、一面に咲かせていた。
 誰にも請われる事なく、誰にも阿る事なく。ただ、そこに在る。
 そんな茶の花に、彼はずっと憧れていた。


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このストーリーに関するコメント

16/02/25 光石七

拝読しました。
雑念も余計な思考や行動も無いロボットである分、茶の花への純粋な憧れと彼の末路が切余計にないですね……
でも、その姿は美しく、ある意味羨ましくもあります。
子供の頃、我が家もわずかながらお茶を栽培していて、茶摘みを手伝ったことがありますが、お茶の花は見た記憶が無いです。
素敵なお話をありがとうございます!

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