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ケイジロウさん

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コタツの中で考えたこと

16/02/01 コンテスト(テーマ):第100回 時空モノガタリ文学賞 【 純文学 】 コメント:0件 ケイジロウ 閲覧数:774

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 気が付いたらあたりは真っ暗で、パソコンの画面が僕の部屋で唯一の光源となっていた。
 どれくらい僕はパソコンに向かっていたのだろうか。寒い。コタツに下半身は入っているがコタツの電源は入っていなかった。コンセントすら入っていない。コンセントを入れるには一度コタツをでなくてはならず、それも面倒臭いのであきらめた。疲れているかもしれない。目を3秒ほど閉じると、一瞬平衡感覚がなくなった。やっぱり疲れているんだ。僕は、仰向けに寝転んで、しばらく天井を眺めた。足が冷え切っている。疲れは感じるが目は冴えきっている。誰かコタツを点けてくれないかな。
 純文学か・・・
 そもそも、「純」なんてものは未だこの世に存在しているのだろうか。「純」は淘汰されつくされ、今は「不純」だらけではないか。「純」は生物学的に生き残れないんだ、僕はそう信じている。逃げなきゃだめだ。生き残るためには「不純」にならなくてはダメなんだ。「純」を貫くために逃げないでいると、結局その種は絶滅していくのではなかろうか。人の悪口は言わない、相手を見て私見を変えない、へらへらペコペコしない。そう人がいるならば、とてもすごいと思うが、悲しいかな、そういう種はどんどん減っていく運命なんだ。そして、僕のようなズルイ種が生き残ってくんだ。
 なんで不純な僕が純文学なんかに手を出してしまったのだろう。出版社主催のよくわからない新人賞を、写真をバシバシ取られながら受賞する姿によだれを垂らしながら妄想している時点で純文学なんて書けないんだ。そんなことわかっている。音楽も似た部分があると思うけど、人生経験が「純」を邪魔していることはしばしばみられる。経験を積んだから、いい文章を書けるのか。人の心をグシャっと鷲づかみする文章を書けるのか。僕もすでに45歳。「その子の透き通った手を、僕の手で暖かく包み込む」ことを、緊迫感を持たせ生々しく描写することなどもう到底無理だ。
 なにはともあれコタツを点けなくっちゃ。寒い。でも動きたくない。そうだ、まずタバコを吸おう。それからコタツを点けよう。いやいや、まずコタツを点けよう。そして、そのご褒美としてタバコを吸おう。でも待てよ、タバコ、まだあったっけ。僕はいきなりパニックに襲われ、バッと体を起こした。テーブルの上にあるパッケージを慌てて開け確認すると、中には何も入っていなかった。どうしようどうしよう。落ち着け。何かいい案があるはずだ。パソコンの画面が目に入った。主人公の男が、初デートで女の子の手を握ろうと勇気を振り絞っているところだった。
 ダメだ。畜生。僕はバタンっと仰向けに倒れこんだ。僕はダメな奴だ。タバコもないし、コタツを点けるために動く行動力や勇気もないし、純文学を書く「純」もないし。もう書くのをやめようかな。
 それにしてもこの主人公の男は何をまごついているのか。さっさと手を握ってしまえばいい。設定を冬にすればそれだけ彼のハードルも下がるかもしれないが、今は夏だ。花火大会に来てるんだ。そこで手をつながなくてはならないんだ。でも、そもそも何で手なんか握らなくてはならないんだ。暑いし、花火を観ているわけでしょ。鑑賞に集中するべきではないだろうか。
 まったくいやになっちゃうなぁ。結末が見えちゃうんだよな。たぶん、この男は結局、手を握れないんだよ。かわいそうに。そして、その子と会うことは二度とないんだ。そして、月日は流れ、45歳になってしまうんだろうな。手を握っておけばよかった、という後悔をしながら。
 んんん、難しいな。ただ、手を握ろうか握るまいかの葛藤には、なんか「純」を感じてしまう。言葉でうまく言い表せられないけど、なんかいい。そこらへんに人生の本質が詰まっているような錯覚を起こしてしまう。
 
 僕ならすぐに手を握るけどね。それにしても寒いなぁ。


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