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光石七さん

光石七(みついしなな)です。 子供の頃から空想(妄想?)が好きでした。 2013年から文章化を始めました。 自分では気付かないことも多いので、ダメ出しを頂けるとありがたいです。

性別 女性
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一妄想家のたまゆら純文学論もどき

16/02/01 コンテスト(テーマ):第100回 時空モノガタリ文学賞 【 純文学 】 コメント:10件 光石七 閲覧数:1220

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 少し肌寒い微風が黄金色のトンネルを揺らす。枝から離れた黄葉が力尽きた蝶のように舞い落ち、先に地面で眠る仲間たちの上に重なる。銀杏並木を歩きながら、ニャツミは物寂しさを秋のせいにしようと努めた。ニャオキとの結婚を控え、幸せなはずなのだ。一番辛い時に傍にいてくれたニャオキ。これからも変わらぬ愛で自分を守ると誓ってくれ、ニャツミもニャオキを信じている。なのに、何がこんなに不安なのだろう。
 前からの突風に、ニャツミは目を瞑り立ち止まった。激しい黄葉の雨、舞い上がる落ち葉。――風が落ち着き目を開けたニャツミは、向こうから歩いてくる背の高い男に気付いた。胸が震える。
「……久しぶり」
懐かしい姿、懐かしい声。言葉が出てこない。ニャツミはかつて愛した男、ニャニャ木の顔をただみつめていた――


「……何これ?」
私は思わず口走った。
「ボクにしては珍しいタッチかな。文章が詩的っていうか。急に妄想の神が降りてきてさ、一気に書いたんだ」
ナーナは喜々としている。詩的な文章、ね……。私は頭から読み返してみた。……うん、冒頭の二文とかね。シリアスな三角関係が始まる予感も、それぞれの心の機微を繊細に描いていく意図も一応感じ取れる。けど……
「このふざけたネーミング、何?」
「えっ、よくある名前じゃん」
……きょとんと素で返してくるあたり、やはり変人だと思う。保育園からの腐れ縁だけど、その思考回路は未だに理解不能だ。
 ナーナと私は阿呆鳥出版のお抱え作家と担当という関係でもある。妄想家ナーナ・レイザーストーン。これが変人の肩書とペンネームだ。彼女は私生活でもペンネームで呼ばれることを好む。というより、周りに強要する。本名で呼ぶと逆ギレされる。自己中で思い込みが激しくて、昔から色々面倒臭い人だった。社会人になってまで振り回される羽目になるとは思いもよらず。ナーナがうちのお抱え作家になったのはひとえに社長の偏好と独断のせいだけど(阿呆鳥出版自体が社長が道楽で起ち上げた超マイナー出版社だ)、こんな夜中に呼び出され、頼んでもいない原稿を読まされる我が身が泣けてくる。
 続きを読む。婚約者を大切に思いつつも、元カレへの恋情を抑えられないヒロイン。そして婚約者は、元カレは――。散りばめられた清麗な比喩と静かな筆致が切なさを際立たせる……はずなんだけど、ネーミングがね……。
「トウちゃん、懐中時計と百万盗らないでね」
「……急に何よ」
「ボクが塵川賞取った時だよ。これ、我ながら傑作だし受賞間違いなし!」
このビミョーな小説が? その自信、どこから出てくるわけ?
「……あのさ、塵川賞って何かわかってる?」
念のため聞いてみた。
「その年の一番優れた純文学の作品に贈られる賞だよね」
一応わかってるのか。……あれ?
「この小説、純文学なの?」
「芸術的でしょ?」
えーと……あ、文体とネーミングのギャップは芸術的かもね。“純文学=芸術性”だもんね、うんうん……って、いやいや。
「これさ、芸術的っていうか……」
「え、トウちゃんは娯楽性が強いと思った? まあ、芸術性と娯楽性は必ずしも相反するものじゃないからね。大衆文学に対して純文学は娯楽性より芸術性重視ってのが一応の定義だけど、実際の作品の分類は難しかったりするしね。芸術の中にも娯楽の要素があるし、娯楽にも芸術の要素が含まれてるし」
話を遮られてムッとしたけど、言ってることは意外にまともだ。
「純文学と大衆文学の違いとか境目とかよく議論になるけどさ、ナンセンスな気もするよね。書き手の出発点てさ、枝葉はあっても要は、こういう話を書きたい、こういうことを伝えたい、その心の発露でしょ? そして、書かれたものをどう評価するか、どう受け止めるかは人それぞれで、芸術性や娯楽性の感じ方も人それぞれ。極端な話、全ての小説が純文学であり大衆文学であるわけだ」
若干論理が飛躍してる気もするけど、頷けなくもない。こんな真面目なナーナを見るのは久しぶりだ。
「つまり、ボクが今まで書いた小説も全て純文学であり、塵川賞を受賞し得るんだよ」
……ん? いや、それは違う。
「ってことで、その原稿、来月号掲載でヨロシク」
どういう論理よ!? ……え、来月号?
「そんな急に言われても、もうレイアウト全部決まってるから」
「さっき社長にメールしたらOKだって。さすがボクのファンだね。これ、元データ」
USBメモリを渡された。まさかの根回し済み。社長……。今さら内容変更? うげ……。
「じゃ、疲れたからボク寝るね」
さっさと奥の部屋に引っ込むナーナ。……疲れたのはこっちよ。ホント、ゴーイングマイウェイだわ。
「帰るからね」
襖越しに声を掛け、原稿とUSBメモリを鞄にしまう。……実はああいうのが純文学的生き方だったりして。そんな馬鹿な考えがよぎり、一人苦笑した。


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このストーリーに関するコメント

16/02/03 泡沫恋歌

光石七 様、拝読しました。

ナーナ・レイザーストーン様、素敵な作家でいらっしゃる。
何といっても、自分の作品に絶対的な自信を持ってるのが羨ましい。
何かで読んだことがあるけど、大成する作家は「自分の書くものが一番好き」な人らしい。
人に何と言われようが、酷評されても、自分が一番だと信じる強さが読者の気持ちを掴むのだと思う。

この作品を読んで、いろいろ考えさせられた。
面白くて、勉強になりました。感謝ですO┓ペコリ

16/02/04 冬垣ひなた

光石七さん、拝読しました。

小説は擬人化した猫さんに脳内変換させて、美味しくいただきました!
そして小説家……いや、妄想家のナーナさんの文学論には一部頷きました。
芸術性なんて物差しで測れないものだから、ある程度根拠のない自信なんていうのも必要かなと思いました。面白かったです。

16/02/05 たま

七さま、拝読しました♪

ニーナ・レイザーストーン、素敵なネームですね♪
純文学的な生き方、憧れます^^
でも、なるべく楽しく生きたいから、ぼくは詩を書いてます。小説はしんどいです。

このお作は楽しめますから、七さんの純文学的な生き方はいいなぁと思ったりします。
ときにはハメを外して書きたいですね^^

16/02/06 光石七

>泡沫恋歌さん
コメントありがとうございます。
まさかナーナ・レイザーストーンを素敵な作家とおっしゃっていただけるとは思いませんでした。ナーナ・レイザーストーンは、光石七の壊れた部分と密かな(?)憧れ・願望をミックスして強調した感じでしょうか。「光石七って一体どういう人間なんだ?」と突っ込まれそうですが(苦笑)
大した中身がない話なのですが…… “いろいろ考えさせられた”“勉強になった”とのお言葉、恐縮です。
恋歌さんのコメントこそ、勉強になります。

>冬垣ひなたさん
コメントありがとうございます。
冒頭のビミョーな部分をそのように読んでくださいましたか。“美味しく”……後から消化不良を起こしませんでしたか?(笑)
ナーナの論理は強引だし「結局何が言いたかったの?」という感じですが、部分的には私が純文学というものについて調べながら思ったことが含まれています。素人の勝手な見方にすぎませんが。
楽しんでいただけたようで、よかったです。

>たまさん
コメントありがとうございます。
「レイザー…光線」「ストーン=石」「七を伸ばして発音」というネーミングだったりします(笑) キャラクターとしては、光石七の壊れた部分を強調し、強引さと空気読まなさをプラスした感じかと。
えっ、ナーナは純文学的生き方でしょうか? ……そもそも私は純文学というものがよくわかっていないのですが。
詩を書けるなんて、羨ましいです。私は詩というよりネガティブなシャウトになってしまいます。
たまに思いきり馬鹿馬鹿しい話を書きたくなりますね。技量が足りないから中途半端な馬鹿馬鹿しさで終わってしまうんですけど(苦笑)
楽しんでいただけてうれしいです。

16/02/07 つつい つつ

ニャツミ? ニャオキ? これは変じゃないか? 変と思っていいのかって、最初とまどいましたが、ふざけたネーミングと思って良かったので安心しました(笑)
大衆文学と純文学の違いは本当に難しいと思います。明治くらいの文豪だって、どう考えても大衆文学書こうとしてたんだろうしと思ってしまいます。

16/02/08 光石七

>つつい つつさん
コメントありがとうございます。
冒頭、反応に悩ませてしまってすみません。文章は純文学っぽいのに登場人物の名前がギャグという笑いの方向を目指したのですが、純文学っぽい詩的な文章が書けないうえネーミングも微妙で…… 変と思っていただけて安心しました。
純文学っぽい文章と言いつつ、純文学というものをよくわかっていないのですが(苦笑)
自分が「こういうジャンルを書くぞ!」と意識して書いたことが無く、テーマから無理やりひねり出して書いたものだとしても核となる出発点は「こういう話を書きたい」なので、ナーナの文学論もどきにそこを入れてみました。
少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。

16/02/13 滝沢朱音

レイザーストーン!またまたの登場ですね!笑
そしてニャツミとニャオキで、キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!となりました。
阿呆鳥出版の本のラインナップが知りたい!迷作ぞろいなのかも。
私もそこの作家に加わらせてもらえますかっ?!笑

それにしても純文学って、難しくて曖昧な定義ですよね。
あらためて考えさせられました…

16/02/13 光石七

>朱音さん
コメントありがとうございます。
ナーナ・レイザーストーンを覚えていてくださいましたか。まさかの再登場です(苦笑)
ちなみに語り手の名前は「城戸井津川塔子(きといつかわとうこ)」で通称「トーコ」なのですが、ナーナだけは「トウちゃん」と呼ぶという、どうでもいい細かい設定があったりします(苦笑)
実を言うと、他サイトでのおふざけから生まれたキャラたちでして。ニャツミとニャオキも然り。
今回純文学について一応調べてみたもののイマイチわからず、せめて思ったことを少しでも面白おかしく書けないかと、己の脳内妄想世界の住人を引っ張り出した次第です(苦笑)
あ、阿呆鳥出版への売り込みですが、社長の好みに合えばOKのようなので、アタックしてみては?(笑)
楽しんでいただけたなら、うれしいです。

16/02/16 そらの珊瑚

光石七さん、拝読しました。
なんとも楽しい出版社ですね!
面白さの中に、純文学へのおもいを、誰しも知っている賞に
照らし合わせながら言わせているところ、なるほどと思いました。
ジャンルはさておき、読者としては面白ければただそれだけでいい気がします。

16/02/17 光石七

>そらの珊瑚さん
コメントありがとうございます。
阿呆鳥出版、楽しそうと思っていただけてよかったです。振り回されてばかりの主人公はたまったものじゃないでしょうが(笑)
ナーナの文学論もどきには、純文学というものをイマイチ掴めない自分の勝手な感想・意見が反映されてます。ナーナほど自信過剰ではないし(どちらかというと自己卑下的です)、そこまでKYではないつもりですが(苦笑)
読み手としては面白ければ何でもいいし、書く際も私はあまりジャンルを意識したことが無いですね。
少しでも楽しんでいただけたなら、幸いです。

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