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アシタバさん

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誰かが淹れてくれたお茶

16/01/31 コンテスト(テーマ):第101回 時空モノガタリ文学賞 【 お茶 】 コメント:6件 アシタバ 閲覧数:1318

時空モノガタリからの選評

「お茶を美味しく淹れることは飲む相手を思いやること」。おそらく何らかのきっかけで希望を失っていたのであろう「男」にそそがれる暖かいお茶……。お茶の淹れ方一つで、淹れる側の様々な感情、メッセージが込められるのですね。お茶を淹れてくれた相手との関係性は多くは語られなくても、日々変わるお茶から、異世界からの様々な気づかい、二人の関係性を読み取ることができますね。
 お茶がもたらしたものによって、「訪れることをずっと拒んでいた場所」に彼が訪れることができたのは、受け入れがたい事実を受け入れる力を「お茶」がもたらしてくれたのでしょうね。「相手を思いやる」というお茶のコミュニケーションツールとしてのあり方がうまく使われているなと感じました。

時空モノガタリK

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 男は首をかしげた。
 寝室から起きてくるとダイニングキッチンのテーブルにお茶が用意されていたからだ。一人で住むには広すぎるこの家に住人は彼だけなのに一体誰がこれを用意したというのだろうか? 人が忍び込んだ形跡もない。湯呑の緑茶からは湯気がたっており、どうやら淹れたてらしい。普通に考えればこのお茶は不気味に思える。
 しかし、この男は何を思ったのか椅子に座りゆっくりと時間をかけて飲みだした。最後の一滴まで飲み終えた時、男の心は久しぶりに安らぎにつつまれていた。こんな気持ちはいつ以来だろう。あたたかくてほっとする味だ。お茶は丁寧に淹れると味に変化が出てくるが、このお茶はそれだと感じた。男にとってこのお茶の味はどこか懐かしくもの思いにふけった。
 人が住むにはふさわしくないゴミだらけの家で身を清めることも放棄した男がむかえる久しぶりの穏やかなひと時だった。

 男はまた首をかしげた。
 得体の知れないお茶はここ数日間、テーブルに用意され続けていたのだが、今日はいつもと違いお茶の味に心配りがまったく感じられなかった。いや、むしろ不味い。どうやって淹れたのか聞きたい位だった。そして、湯呑のまわりには何故か乾燥した茶葉が散らかっていた。
 男は頭をひねり、これには何か意味があるのかもしれないと考えた。お茶を美味しく淹れることは飲む相手を思いやることだ、ならば不味さは怒りの現れかもしれない。そして、茶葉が散らかっているのは? 散らかっている、汚い……、もしかして、この家が汚いことに怒っているのか?
 そう考えついた男は怒れる味のお茶をやっとの思いで飲みほして、少しずつ掃除をはじめた。一日ではとても終わらなかったが、男は仕事から離れていたために時間は十分にあった。男の予想通り、家が見違えるほど綺麗になるとお茶の味はまた元通りになっていた。

 男は用意されるお茶を飲み続けた。そして、お茶には時折おかしなことも起き続けた。ある時、お茶ではなく舌が火傷しそうなほどの熱いお湯が用意されていたが、前回と同じく何かあると気がつき、男は自分の不潔な身なりを思い出して、『風呂に入れ』ということだとわかった。きっと、お茶にメッセージを込めて、それに気がついて欲しいのだと確信した。ちゃんと意志があるのだ。
 そこで男は考えた。ならば、ちょっと試してみよう。家には緑茶しかなかったので、ほうじ茶や玄米茶、紅茶などを数種類の銘柄ごとに買い込んでみた。すると翌日、まるでバイキング形式のようにいくつもの湯呑が所狭しとテーブルに並べられていたのだ。これは流石に淹れすぎだろうと男の顔に久しぶりの笑みがこぼれた。次からはまた用意されるお茶は一杯に戻ったのだが、日替わりで色々なお茶が淹れられるようになり、男は嬉しくて楽しくて仕方なかった。

 男はお茶に込められたメッセージをつぶさに読み取るよう努力した。湯呑が汚れているのは『ちゃんと食器を洗え』、お茶に砂糖が入っているのは『栄養が足りてない食事をとれ』、お茶が数日かけて徐々に薄くなっていくのは『貯金がなくなってきている仕事を探せ』、お茶にタバスコが入っているのは……、恐らくただの悪戯だろうと思った。
 もしかしたら、これらは男のただのこじつけなのかもしれない。しかし、男にとって、そのメッセージは最早かけがえのない大切なものであり、絶対にそうであると思いたかった。メッセージがない時も、お茶は相変わらず丁寧に淹れられており、淹れてくれた人物の優しい気持ちが男の胸に伝わってくるようだった。姿は見えなくても、その人の淹れてくれたお茶は男に安らぎと元気を与え続けた。お茶のおかげで男の生活はある一点を除いて徐々に以前の様相を取り戻しつつあった。

 男は久しぶりに首をかしげた。
 いつものお茶、なのだが、注いである量が日に日に少なくなっていくのだ。きっとメッセージなのだが思い当たる節がない。そのうちどんどん少なくなっていき、お茶が湯呑の半分をきった時、男は悟った。これはきっと別れの合図なのだと。そして、用意されたお茶がもうほんの一口になった時、男はお茶を前にして、姿は見えないが、お茶を淹れ続けてくれた相手に伝えたかった言葉を口にした。

 僕はどこにもいないはずの君にこんなにも心配をかけていたのだね。でも、君が助けてくれてもう大丈夫だよ。だから安心してほしい。君の淹れるお茶はやっぱりおいしかったよ。ありがとう。これからもずっと君を愛している。今度こそ、ちゃんと、さようなら。
 男が飲みほした最後のお茶は少しだけ涙の味がした。

 翌日、男は自ら時間をかけてお茶を淹れ、それを保温ができる水筒に入れてある場所へと向かった。
 彼が訪れることをずっと拒んでいた場所。
 男は妻のお墓の前にあたたかいお茶を供えて静かに手を合わせた。


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このストーリーに関するコメント

16/02/02 南野モリコ

アシタバさん、時空モノガタリのレギュラー投稿者で、
利き茶パーティーのスタッフでもあるミナミノと申します。

『誰かが淹れてくれたお茶』とてもいい作品ですので、
フェイスブックの利き茶パーティー・イベントページで
シェアさせて頂きました。

アシタバさんは東京近郊にお住まいですか?
ご都合がつきましたら、3月19日の利き茶パーティーにも是非いらして下さい。

16/02/02 南野モリコ

アシタバさん、時空モノガタリのレギュラー投稿者で、
利き茶パーティーのスタッフでもあるミナミノと申します。

『誰かが淹れてくれたお茶』とてもいい作品ですので、
フェイスブックの利き茶パーティー・イベントページで
シェアさせて頂きました。

アシタバさんは東京近郊にお住まいですか?
ご都合がつきましたら、3月19日の利き茶パーティーにも是非いらして下さい。

16/02/02 南野モリコ

イベントページのリンクはこちらです。

https://www.facebook.com/events/539297089573695/

先のコメントがなぜか2回、入力されてしまいました。
申し訳ありませんでした。

16/02/03 アシタバ

ミナミノモリコ様
お読みいただきましてありがとうございました。
私のこの様な拙い文章をシェアしていただけるなんて誠に恐縮です。
そして、利き茶パーティとても風流な催しですね。
残念ながら仕事の都合で参加は叶いませんが素敵なパーティになるよう陰ながら応援しております(^^)

16/02/23 光石七

拝読しました。
毎日のように用意される謎のお茶、そういうことだったんですね…… ラストに納得しました。
主人公はきっともう大丈夫ですね。
素敵なお話をありがとうございます。

16/02/24 アシタバ

光石七様
お茶みたいに温かなお話を作りたい!と思いましたが、拙い文章なので、少しでも楽しんでいただければ幸いです。
お読みいただきありがとうございました。

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