1. トップページ
  2. スペース・ラヴ

はつゆき船長さん

ただのおっさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

0

スペース・ラヴ

16/01/21 コンテスト(テーマ): 第72回 【 自由投稿スペース 】  コメント:0件 はつゆき船長 閲覧数:571

この作品を評価する

<第1話>

その娘とはL1198惑星の宇宙ステーションで出会った。
お隣のL1123惑星行きのローカル線ホーム。 髪の色は 七色。
僕は留学先からの帰りだった。お気に入りの音楽を聴いていたらふいに声が割り込んできたのだ。

∽ いつまで待つの?
 「な、なんだよいきなり入ってきて。音楽聴いてたのに」
∽ 音楽ってなに? 私の星にはないの。耳がないもの。どうやって聴けるようになるの?
 「え?じゃあ僕の声は何故聞こえるの?」
∽ 心で聞くの。みんなそうよ、ウチの星じゃ。音楽ってメロディのこと?
 「まあ、そうとも言う」
∽ じゃ、心で聴ける? だって、あなたの気持ち、伝わるもの。
 「え?」 ドキ、「君って何? 形は僕らと似てるけど。銀河のパスポートはあるのかい?」
∽ さあ、知らない。念じたらここに着いたの。まだ先に行きたいの。水車のところに。

時々髪から七色に光る粉が舞い落ちる。まるで虹のようだ。レディ・・・なのかな。

 「ね、君って女性なの?」
∽ なにそれ。私は私よ。みんな胞子から育って透明の羽根を持つのよ。大きくなったからもう無くなったけど。
 「それってエンジェル?」
∽ なにそれ。ね、まだ待つの?
 「うん、まだ1時間くらい。おなかすいてる?何か飲む?」

僕はなんだかわくわくしてきた。だって可愛いよ。エンジェルでもガブリエルでもいいや。
すると、また彼女?の髪から七色の粉が散った。

∽ うん、飲むの大好き。だって植物だもの。
 「えーっ?植物? 胞子から育ったって言ったっけ?」
∽ あなたの言葉では植物。私たちはそうは言わないけど。

叶わぬ恋かな、この出会い。僕はだんだん混乱してきた。
だって七色の髪を持つ、どう見ても女の子の、それも相当美人の、それで植物とこれからお茶しようとしてんだ。ばあちゃんに何て説明したらいいんだ?

∽ ごちゃごちゃ思ってるのね。面倒そうな生き方。
僕は取り敢えずホームの端にあるスタンドカフェに誘ってみた。
彼女?はふわふわついてくる。時々七色の粉がはらはらと舞い散る。
 
 「何飲む?メニューここだよ」
∽ わからない。あなたと同じでいいよ。
 「じゃ、アイスティーにするよ。ああっと、これ葉っぱから取ったエキスみたいなものだけど大丈夫かな?」

一瞬、僕の頭を「共食い」が横切ったのだ。そんな心配をよそに、彼女が顔にグラスを近づけると、グラスは一瞬で空っぽになった。

 「え?どこから飲んだの?」
∽ どこからって、どこからでも普通に入ってくるわよ?

ポカンとした彼女に僕もポカンとした。コミュニケーションって難しい。
水分摂って元気になったのか、彼女は歌い始めた。七色の粉に ♪ ♪ ♪・・・
頭から足から入ってくるメロディ。さっき聞いていた音楽とは全く違う。なんだこれ。周りの風景さえ霧の中にぼやけて行く。昇天ってこのことかな・・・、天に還る? ハゴロモ天女?

”これこれ、お兄ちゃん、フネが入ってきてるよ” 
スタンドカフェのおば様の声で、僕は急に我に返った。あれ?天女は?
”一人でアイスティー2つ頼む人は初めてよ。早く行かないと遅れるよ”

急かされた僕はL1123惑星行きの光速船に駆け込みシートに倒れ込んだ。フネはすぐに出発、Gを感じさせず真っ暗な宇宙に切り込んでゆく。夢でも見たのかな。
ふー 溜息ついて真っ暗な窓を見やると、少し離れて七色の光が一筋流れて行くところだった。
∽ 先行くね、待ちきれなかったよ。でも、あなたって面白いね。

クスクス笑う声が歌のように頭から足まで通り抜けて行った。さっきの天女か?

くそー、でも追いついてやるよ、水車の所で。何だか逃がしたくない。待ってろプリンセスかぐや。 袖口と心に残った七色の粉がにわかに輝き出す。

夢幻の宇宙で恋のレースが始まった。

<第2話>

七色の光の筋が惑星に吸い込まれてゆく。地上で気づいた人はカラフルな流れ星と思っただろうか。

彼女は水車の横にいた。初めて見る水車と飛沫、こんなダイナミックな水があったなんて。
見上げるほどの大きな水車を見ているうちに、意識もなく彼女はすーっと浮き上がり、掻かれる水に同期し始めた。回る水車に回る七色の髪、虹の粉が周囲にまき散らされる。次第にトランス状態に昇華する彼女の心。意識は水とともに回る。涙が止まらない。知らずして泣いていた。それはまるで、大きな虹の渦が水車に寄り添っている様だった。

光速船から降りた僕は、取り敢えずエアタクシーを拾った。A15区画の水車、L1198惑星から真っ直ぐ飛ぶと、一番近いのがここなのだ。僕は留学先の大学で資源開発を専攻していて、この星の資源テクノロジィには詳しい。A15区画の水車だってレポートの参考値を取りに訪れた事があった。「急いで!」

エアタクシーが水車に到着する前から、その虹色の渦は目に入った。「なんだ?」 飛び降りた僕に降りかかる七色の粉。一瞬で僕は悟った。

「どうしたんだ? 降りといで!」絶叫する僕になお降りかかる七色の粉。「駄目だ!」僕はダッシュした。緊急停止レバー。機械的に水車を止める最終手段。必死だった。後先関係なかった。全身で飛びついた。オーーフッ!

水車が緩やかに停止すると、彼女はふわりと落ちてきた。駈け寄って抱き止める。なんて軽い。七色の粉も最後の粉雪のように静かに落ちてくる。

「起きろよ!」「頼むから起きろよ!」何度叫んだことだろう。彼女はうっすらと目を開いた。

「よかったー。大丈夫か?目が回った?」座込んだ僕の腕の中で、彼女は軽く頭を振った。粉たちがちらっと舞い落ちる。

∽ ごめん、どうなったか判らない。まだ回ってる。

「いいよ、少しこのまま休んで。水に飲まれたんだよ」

止まった水車の横で、僕と彼女は交信さえ脇に置いて静かに時を数えた。

∽ あの、本当にごめんね。見てるうちに回ってしまって…。

彼女が細い声で語りかけたその直後、僕の背後から怒鳴り声が聞こえた。

『誰だ!水車止めた奴は! 許可あっての事か!』

そうだ、大変だ。エナジー監督署がモニターしてるんだった。僕は彼女をそーっと下して怒鳴り声に相対した。

「すみません、友達が巻き込まれそうになって」そう言って僕は学生証を提示した。

『エリート学生だからってやっていい事と悪い事がある。その歳で解らんのか!』たっぷり15分はお説教されただろう。それだけの事はやったのだ。大学に通報されるのだろうか。

ようやく解放されて戻ると、彼女は起き上がり、少し浮いていた。僕のヘコみを彼女は全て感じ取っていたようだ。

∽ ごめん、私のために。あなた大丈夫かな? 本当にごめんね。

「もういいんだ。それより少し水車から離れよう。すぐに回り出すから」

再び彼女を抱きかかえ、少し離れた丘の上で介抱することにした。差し当たっては水分補給だ。

「ね、どこからでもいいから少し飲んでみなよ。この星の水は軟水だから、きっと大丈夫だよ」

∽ 駄目なの。私がこの星の水を吸収するのは私の使命なの。万全でやらないと実験にならない。

「え?実験? 何の事?」

彼女は途切れ途切れに事情を語り始めた。彼女の名前はワラ。水の星、僕たちの呼び方ではL878惑星からやって来た調査員だった・・・。

<第3話>

水の星は火の星、つまり太陽を周回する小惑星。僕たちの知る限り、生命体の存在はない。太陽との距離の割に表面温度の低い事が確認されている。でも、それ以上の観測データはなく、観測予定もなかった。ワラはそこからやって来た植物なのだ。

水の星には”フィリー”と”リリー”と呼ばれる二つの大株があり、それぞれから生まれた生命体の最年長プラントである”長老”が交互に星を仕切っている。ワラは”フィリー株”であり、七色の粉はフィリー株特有のもの。リリー株ではゴールドとシルバーの粉が舞う。両株とも胞子から成長するので全員が兄弟である。彼ら彼女らは水分が枯渇すると死ぬのだが、両株は未だ衰えを見せていないので誰もその存続を疑わない。と言うより、寿命とか世代などの概念がない。あるのは”今”だけである。彼らは互いの交信手段として何らかのテレパシーを有していて、それは他の生物にも通ずる事がある。

近年、水の星は温度が少し上がってきた。長老は微妙な星の軌道の揺れによると考えているが、これを是正する技術は持ち合わせていない。水の星は中央の氷塊に岩石や砂が周囲を覆った星なので、このままでは氷塊が縮小し彼らの生命の根源である”水”が減ってゆく、そして星そのものが崩壊する可能性がある。長老は考えた末、今後の移住先を探すことにした。

一方で、L1123惑星は中央に大きな氷山が隠れていて、その溶けた水が伏流水となってあちこちで湧き出ている。これを利用した水車でエネルギーを得ているのだ。これを知った長老は、ワラに水車に赴き、その水を自らが採取(取り込む)ことで生命が維持できるか調査するよう命じた。命懸けの調査だが、生命は廻(めぐ)る事を信じているワラは何も疑わずに従った。そうして、L1198惑星の宇宙ステーションで乗り継ぎが判らず、僕に出逢ったのだ。

ワラは彼女の名前と言うより識別符号のようだ。性別はない。きれいな葉っぱとそうでもない葉っぱがあるように、見え方だけの話なのだ。でも僕にはそんなの関係ない。

ここまで語ったワラは目を閉じて寝息を立て始めた。随分疲れているに違いない。水分はワラの意思がないと吸収できないらしく、生憎ここにはこの星の水しかない。エリートの資源開発専攻がなんてザマだ。どうしよう。祈るしかないのだろうか。何かないかな ・・・・ そうか! そう言えばさっき・・・。

<第4話>

さっき、ホームのスタンドバーで、僕はワラの歌を聞いて昇天しそうになったっけ。光速船の窓の外から聞こえたワラの声が全身を駈け抜けて、僕はアドレナリンで満たされたっけ。メロディだ。

ポケットをゴソゴソし、僕はポータブルプレイヤーを取り出した。お気に入りの音楽が入っている奴。ワラには耳がないけど、何とかなるだろとスイッチ・オン。

ん? ワラ無反応。寝てるだけー。そう言やさっきも聞こえなかったわ。僕の声は聞こえたのに…。 そうか! 僕が歌おう!

差し当たって何歌う?何でもいい、下手でもいい。適当に作っちゃえ。僕は歌い出した。この星のこと、僕の生まれてからこれまでのこと、この星の水がきれいなこと… 勿論、メロディも歌詞もアドリブもいいところだ。長い歌になった。

♪ こーのほーしぃーにぃー うーーまあれたあ ぼーくぅたーちぃわあー  ♪
♪ ほおーしぃーがー なあがあれーてぇー ねーがいーーがあ ひーぃとつぅ〜 ♪

生い立ちもどんどん新しくなって、ついに先程のL1198惑星宇宙ステーションでワラと出逢ったところに差しかかった。さっき想った僕の気持ち。

♪ にぃーじーのかーみーしたあ きぃみーがーいーてー ♪
♪ ざあーわめえくぅ こーころーにぃーきぃみーがーいーてー ♪

# なーーんにーもーしーらなあい わーたしーにーもー #

あれ?声がハモってる? え?ワラ? いつの間にかワラが一緒に歌っている。七色の粉も舞い散り、時には輪唱で、時には掛け合いで、まるでミュージカルのクライマックスのようだ。ワラ、良くなったのかい?

僕は水車の場面になる前に歌を止めた。逆効果になると困るからね。ワラはすーっと立ち上がった。

∽ 水分以外にも元気になれるものがあるみたい。

ワラは恥じ入るように微笑んだ。七色の粉がキラリと光る。可愛い。もう離さない。今のこの気持ち、告らずには居られない。

「ワラ、僕はね、」 言い始めた僕の声をワラの気持ちがスパッと断ち切った。

∽ 私、使命を果たす。

目の前からワラが消えた。

<第5話>

僕は丘を駈け降りた。ワラが水車へ行った事は自明だった。水車小屋の入口にはエナジー監督署員。

『今度は何だあ?』
「すみませんっ!緊急なんです。止めたりしませんからー」

叫びながら関門突破。ワラーーー!

ワラは水車の横で倒れていた。言わんこっちゃない。

「どうしたワラ!返事しろ!返事しろよ 返事しろよぉ!」殆ど絶叫になっていた。ワラは動かない。眼も閉じたまま。
「ワラ、逢ったばかりじゃないか!なんで一気にやるんだよ。起きろよワラ。放っとけないんだよー」

こみ上げてきた。七色の髪も色を失ったようだ。僕の腕の中に枯れてしまったワラ。粉も舞い上がらない…。嘘だろ。使命なんてくそくらえ、勝手に涙がこぼれる。

すると、ぼやけた視界の中で、ワラの髪がうっすらと変色し始めた。七色が抜けて水色へ。頭から次第に髪の先へ拡がるきれいな水色、アクアブルー。

「枯れるとこんなになるんだ」ぼんやり考えた僕の眼に、ほんの少しワラの瞼が動いたように見えた。え?ワラ、生き返った?

ワラはうっすらと眼を開けた。

∽ あー、なんだか優しい水が入ってきて夢から覚めたみたい。

小さな声でワラが伝えてきた。まだ語尾が震えている。

「喋らなくていい。そのままそのまま」僕はワラをそーっと抱きしめた。ワラ、良かった…。

どれ位の間、そうしていたことだろう。水色の髪のワラは僕の腕から起き上がった。腕にほんの少し水色の粉が残る。

∽ ごめんね、ありがとう。優しい水はあなただった。

やはりL1123惑星の水はワラには強すぎた。それが僕の涙で中和されたようだった。男の涙も満更捨てたもんじゃない。

∽ 報告しなくっちゃ。   ワラは言った。 「え? 帰るの?」

∽ でもきっと戻って来る。だってこんな髪の色じゃ生きてゆけないもの。

生気が戻ったワラの周囲に水色の粉が舞った。これはこれで素敵だよ。
その瞬間、僕は決めたのだ。ワラが吸収できる水を開発する。資源開発専攻の意地にかけても、君が戻るまでにきっと作って見せる。だからみんなを連れておいで。ばあちゃんにも紹介するよ。

∽ ありがとう、本当にありがとう。あなた好き。

ワラの水色の粉が僕を包んだ。僕は幸せに満たされた。で、口が滑った。

「いやあ、ワラの水色の髪、婆さんになった白髪かと思ったよ」

瞬間、僕はワラに引っぱたかれた。心のビンタは頬よりも痛い。_ でも、やっぱ女の子なんだー。

ニヤついた僕が視線を戻すと、あれ? 一発喰らわしたワラはもう見えなくなっていた。空に水色の曳光、後ろには、ニヤけたエナジー監督署のオッサン。『よう判らんけど良かったじゃん、学生さん』

☆彡・・・・・☆彡・・・・・

水車はコットンコットン水を掻く。ワラは今どこを飛んでいるのだろう。一条の水色の光になって。
待ってるよ、プリンセスかぐや。

きよしこの夜 星は光り 救いの御子は 天を駈ける。
                               


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン