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冬垣ひなたさん

時空モノガタリで活動を始め、お陰さまで4年目に入りました。今まで以上に良い作品が書けるよう頑張りたいと思いますので、これからもよろしくお願いします。エブリスタでも活動中。ツイッター:@fuyugaki_hinata プロフィール画像:糸白澪子さま作

性別 女性
将来の夢 いつまでも小説が書けるように、健康でいたいです。
座右の銘 雄弁は銀、沈黙は金

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リサイクルショップ『恋ばな』

16/01/18 コンテスト(テーマ):第九十九回 時空モノガタリ文学賞 【 失恋 】 コメント:9件 冬垣ひなた 閲覧数:1010

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「あなたの恋、高く買います」
 洒落た看板を尚子は目にした。
 『恋ばな』はリサイクルショップらしい。
「タンスの引き出しや押し入れ、引き出しに眠った恋はありませんか?破れていても、鑑定の上買い取らせて頂きます」
 早速、尚子は実家を大掃除して集めた品を手に、店に入ろうとした。
「いらっしゃい」
 内側からドアが開き、ワンピースに身を包んだ清楚な黒髪の女性が出迎えてくれる。この人が店主だろうか?
「あの……失恋でも買ってくれるんですか?」
「勿論です、得られない恋に身を焦がしてもお客様がつらいでしょう?」
「こんなもの何に使うのですか?」
「喉から手が出るほど欲しい方は大勢いらっしょいます。例えば、締め切り前の小説家とか」
 成程、販売ルートは確保されているのね。尚子は安心して持って来た品々を取り出した。
「この手編みのマフラーは……」
 網目が飛びだしていてガタガタで、しかも編みかけ……そんなものを出して急に尚子は恥かしさがこみ上げてきた。
「小学生の時バレンタイン用に急いで編んだのだけど間に合わなくて……。しかも彼は別の女の子と付き合いだし始めて、それっきりで」
 そのまま押し入れの中に放り込んで見ないふりをしていた駄作に、店主は目を細める。
「これは逸品ですね」
 店主の叩いた電卓を見ると、五桁の数字が並んでいたので、尚子は目を丸くした。
「こんなものが1万円超えるのですか」
「そうですね。通常なら半値という所ですが、あなたは先日同窓会に出席して、その方と再会を果たしていますね?」
「どうしてそれを?」
「毎日恋を鑑定していれば分かりますよ、その位」
 うっとりとした店主の目が輝きを帯びている。
「今お売りになるという事は、あなたはこの恋が再燃する可能性を失うということです。純愛じゃありませんか」
 そういうものなのかしら。尚子は良くは分からぬが、このマフラーもどきを売ることを承諾した。
 出せなかったラブレターや片思いの彼が読んでいたのと同じ詩集、元彼に貰ったリング、こうして次々に値段が付けられていくと、尚子の心は長年のしがらみから離れて軽くなって行った。
 失恋を手放す。なんて、気分が良いものなのかしら。
「そうだ!実はうちの人が」
「存じております。家事を何も手伝ってくれない、『疲れた。寝る』が口癖で、ちっとも面白くない。勿論、醒めた恋でもお引き取りいたしますが、この場合これくらいかと……」
「300円!」
「なので、お考え直し頂いた方が得策かと」
 心を軽く、財布を重くして、尚子は店を出た。
 店主は綺麗な人だったし、良心的な店だとは思ったが少しだけ怒りもあった。
 うちの人が300円だなんて!ちょっと酷過ぎると思わない?その夜、尚子は野菜炒めだった夕食の予定を、ステーキにしたので、夫の勝也は目を丸くしていた。


 勝也が緊急入院したのは、しばらく後の事だった。
「あなた、あなた!」
 精密検査の結果、ガンで余命わずかと宣告され、泣き崩れる尚子を支える事も出来ず、勝也はベッドに臥している。
「まことにありがとうございます」
 そんな時病室にやってきたのは、あの店主だった。
「今日は出張鑑定にやってきました。奥さま、見て下さい。先日の件ですが、当店の最高額がついています」
「何言ってるんですか!」
「俺が頼んだんだよ」
 言ったのは、痩せた勝也だった。
「尚子、俺が死んだら今までの事は清算して、もっと前向きに生きるんだ」
「嫌です、私にはあなたしかいないんです!」
 破れた恋を手放した尚子の目には、勝也の姿しか映っていなかった。
 店主が勝也に耳打ちする。
「大丈夫。私にお任せいただければ、奥さまの傷心はすぐに癒されます」
「尚子……すまない……」
 勝也の胸にも、妻との思い出が走馬灯のように蘇る。
 美しかったウェディングドレス姿。
 初めての子を抱いた満足げな顔。
 うなじを見せ、台所に立つその背中。
 これだけ愛されて死ねるんだ、悔いはない。勝也は目を閉じた。


 この日は『恋ばな』のドアを二人で潜った。
「本当にありがとうございました」
 尚子の隣で勝也も深々と頭を下げている。
「何の事かしら」
「あなたがいなかったら、今頃……」
 あの時、店主が札束を積み上げ申し出て、ガン細胞を買い取ってくれたおかげで、こうして勝也は奇跡的な回復を果たし、死の淵から生還したのだ。
「私はただ、不治の病に破れた男の絶望的な失恋を買い取っただけです」
「しかし」
「恋の情熱は愛があれば身のうちから湧き立つもの。でも、もし困ったならうちの商品も見てあげてください。どれも素晴らしいものばかりですよ」
 自分の恋ではないのに、実に照れくさそうに店主は言ったのだった。


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このストーリーに関するコメント

16/01/19 冬垣ひなた

≪補足説明≫
こちらの写真は「写真AC」からお借りしたものを加工しました。

16/01/19 泉 鳴巳

拝読しました。
出だしから引き込まれました。“破れていても〜”の言い回しが洒落が利いていて巧いですね。
クールなようで人間臭い『恋ばな』の店主さんのお話をもっと読んでみたくなりました。

16/01/20 滝沢朱音

恋バナのリサイクルっていうアイデア、いいですね!
「締め切り前の小説家とか」に笑いました。私、買い取りにいきます!笑

16/01/25 泡沫恋歌

冬垣ひなた 様、拝読しました。

このアイデアは面白いですね!
旦那との恋に「300円」は笑った。うちなら「10円」にもならないかも(笑)
最後はハッピーエンドで読後感も良かったです。

16/01/27 冬垣ひなた

泉鳴巳さん、コメントありがとうございます。

今回はこういうお店があったらいいなという願望を素直に作品にしてみました。
気にいっていただけて良かったです。この話は世界観が固まっているので、また書くかもしれません。

滝沢朱音さん、コメントありがとうございます。

大なり小なり経験をもとに書き起こす小説家も、加工業みたいな部分があると思います。
そのくだりは心の叫びですね(笑)。『恋ばな』があったら私も通いたいです。

泡沫恋歌さん、コメントありがとうございます。

『恋ばな』は玄人向きの専門店なのでこの価格なのですね。
他のお店では凄い金額がつくかもしれませんから、大事にしてください(笑)。
今回は2作品投稿で違う読後感にしたかったので、そう言ってもらえてうれしいです。

16/01/28 光石七

拝読しました。
私も「不要な恋、買い取ります」というフレーズの店が思い浮かんだのですが、なんだかんだで当初のイメージとはだいぶ違う形になり、フレーズも消えました(苦笑) 買い取った恋を欲しいと言う最たる人は小説家、やっぱりそうですよね(笑)
単なるリサイクルショップではなく、お客の幸せを考えてくれるのが素敵ですね。店主さん、すごい鑑定眼で最初は淡々とした人かと思っていましたが、ラストの表情にグッときました。
素敵なお話をありがとうございます!

16/02/02 そらの珊瑚

冬垣ひなたさん、拝読しました。

面白い設定ですね。
実際には失恋を手放すのはちょっと惜しいような気もしないではないですが、
高く売れればそれはそれでいいかな〜
でも私のは高く売れそうにない失恋ばかり、かも。

16/02/05 草愛やし美

いいなあ、こんなお店。

この綺麗な店主さんは先が見えているのかしら?

あったかいお話で笑みをいただきましたよ。

(人´∀`)ぁりがとう☆ございますひなたさん。

16/02/11 冬垣ひなた

光石七さん、コメントありがとうございます。

CMの煽り文句とか、結構作品にしたくなりますよね。自分の見聞きした話だと個人情報に問題あったりして、意外と書きづらい部分もあり、こういう店があったらいいなと思ったわけです。
ファンタジーに近いイメージで書きあげたので、店主さんかなり万能です。書いた私もこういうラストになるとは予測していませんでした、ええ。


そらの珊瑚さん、コメントありがとうございます。

失恋を美しい思い出の記念として持ち続ける乙女心は、それだけで価値があると思います。売らないけど、ちょっと見てもらいたいよって人もいるでしょうし、ここの店主さんはそういう人がお好きですから一度足をお運びください(笑)。


草愛やし美さん、コメントありがとうございます。

店主さん確かに神がかった眼の持ち主ですね。リサイクルショップという性質上お金が絡みますが、そこをほんわかした話になるように精一杯に頑張りました♪草藍さんに喜んでいただけて嬉しいです、どのような話でも心に優しい作品を作っていきたいむと思います(*^_^*)

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