1. トップページ
  2. なにわの未練に、雪は降る

冬垣ひなたさん

時空モノガタリで活動を始め、お陰さまで4年目に入りました。今まで以上に良い作品が書けるよう頑張りたいと思いますので、これからもよろしくお願いします。エブリスタでも活動中。ツイッター:@fuyugaki_hinata プロフィール画像:糸白澪子さま作

性別 女性
将来の夢 いつまでも小説が書けるように、健康でいたいです。
座右の銘 雄弁は銀、沈黙は金

投稿済みの作品

7

なにわの未練に、雪は降る

16/01/18 コンテスト(テーマ):第九十九回 時空モノガタリ文学賞 【 失恋 】 コメント:8件 冬垣ひなた 閲覧数:1404

この作品を評価する

 なにわの神さんは、アメリカ人や。
 通天閣の展望台には、米国生まれのビリケンさんがいて、足の裏を触ると御利益がある。小さい頃からアホ可愛いく信じて俺たちは今日もビリケンさんを拝む。
「コウ。今日な、いい事あるんやで!」
「お前幼稚園から何度言うとるんや、耳のたこでたこ焼き5ダース作れるわ。物忘れ激しすぎ、リカコは」
 家は通天閣のおひざ元。俺ん家はたこ焼き屋で、リカコん家は串カツ店。お隣同士同い年、生まれた時からの幼馴染で、テストの点からおねしょの数まで知られる仲やった。
 俺たちの暮らす界隈をガラス越しに見下ろし、リカコは笑う、
「アホと煙は高い所が好きやな。アホはうち。煙はあんたや」
 リカコのショートパンツから見せる膝小僧が、俺の脚を軽く蹴る。
「お父さんのタバコの煙みたいにふわふわして、進路かて決めとらんのやろ?」
「進路いうてもな、まだ中2やし」
「遅い、チューしたらへんで!」
「チューは要らん!」
「イランの首都はテヘランだよ!」
「お前な、ネタにするその努力をテストに生かせよ、おい……」
 リカコは急に背伸びをして、おれのほっぺたにチューをした。
「予約しとくな」
 俺の顔は点滅する赤信号になっていたが、へへへっとか笑うリカコのほっぺたも真っ赤だ。


 それからも俺たちは一緒だった。
 春は造幣局の桜をくぐり、夏は淀川の花火ではしゃぎ、秋は箕面の大滝で紅葉に寄り添い、冬はイルミネーションに輝く御堂筋を歩く。
 いつの間にか、手を繋ぐのも普通になった。
「高校出たら、どうするん?」
「リカコのダーリンになったる」
 観覧車から見下ろす大阪湾をバックに、リカコとの初めてのキスは、甘いミントの香りがした。


 俺さえ望めば、何気ない毎日がこれからも続くはずだった。
 でも、小さい頃からリカコの隣で、ビリケンさんに願っていた。
「リカコにいつも笑ってほしい」
 恥かしくて言えなかった夢を、夢で諦めたくはなかった。
 高校卒業の日。俺は親父に殴られた頬を押え、最後にビリケンさんの足の裏を撫でに来た。
 大丈夫。俺とリカコの仲やん。
 何年か離れたって。
「コウ!」
 展望台に追いかけてきたリカコは、泣き晴らした目をしていた。
「東京行くって、ほんまなん?」
「そうや。スカウトされたんや」
 親やリカコに内緒で出た素人ライブで客の声援を受けた俺は、東京の事務所から誘いを受けた。こんなチャンスは二度とない。
「リカコ。俺、お笑い芸人になる」
「どうして!」
 リカコはボロボロと泣きだした。
「お笑いやったら大阪で出来るやん!」
「知っとるやろ。今のお笑いは、大阪の笑いだけじゃ勝てない。もっとグローバルな笑いが求められてるんや!」
「コウ……」
「3年や。3年経ったら、迎えに来るから」


 あれから5年が過ぎ、俺はすっかり東京の人間になっていて、大阪弁を話すこともなかった。デビューを約束した事務所からの給料は雀の涙で、今もバイトに汗水たらす毎日だ。
 リカコにはふられた。
 仕方がない、散々泣かせたもんな。
 俺の知らない誰かと結婚したらしいから、実家には去年の暮れも帰っていない。帰る金もない。それでも夢にしがみついていたら、思いもかけず深夜番組に出演することが決まり、慌てて実家に電話した。

『あのな、お母ちゃん。犬欲しいねん』
『アカン』
『猫欲しいねん』
『アカン』
『鳥は?』
『アカン言うたらアカン』
『弟は?』
『お父さんがアカン……』

 初めてのTVで緊張はしたが少しは手ごたえがあった。リカコの代わりなんてない。だが、俺は遅すぎても、一人でも、ビリケンさんに誓ってこの道を完走するしかないのだと思った。
 TV放映が終わった頃、家の郵便受けにでっかい封筒が入っていた。
 リカコの字だ。
 部屋に入った俺は、躊躇した後封筒を開けた。
 中には、キラキラした紙切れが一杯に詰まっていた。
「何だ?」
 その小さな一枚一枚に、ひらがなが書いてある。

「き」「す」「し」「た」「で」

 俺の胸の中は、あの日のミントの香りで一杯になる。
 しかし、そんなはずはないのだとすぐに気がついたのは、生まれた子供と旦那の間で笑うリカコの写真が入っていたからだった。
 写真の裏には「応援しています!」とよそ行き言葉で書いている。

「す」「き」「で」「し」「た」
 
 俺の手から、何もない六畳間に金と銀の紙吹雪が舞った。
 人生の相方にはなれんかったな。けど、お前を幸せには出来るんや……。
 失った恋の切れ端を、俺はそっと掌に包んだ。
 なにわから運ばれた光る雪は、俺の心臓に降り積もる。
 俺はミントの香りを消そうとして煙草に火をつけると、泣けてきたから、男らしく胸を張った。
「うわっこの煙、よう目にしみるわ」


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

16/01/20 滝沢朱音

タイトル、いつもながらにとても素敵でひきこまれました。
なにわ節な世界と紙吹雪のイメージ、なんだかすごく相性いいですね〜
立派な芸人さんになったことへの、お祝いの花吹雪でもあるのかな。
「きすしたで」でドキッと、「すきでした」でオオッ!!となりました♪

16/01/25 泡沫恋歌

冬垣ひなた 様、拝読しました。

大阪の情緒があふれる話で、昔流行ったボロの「大阪で生まれた女」っていう、
曲名だったか、フレーズだったか思い出した。
私は通天閣には一回しか上ったことないです。

16/01/27 冬垣ひなた

滝沢朱音さん、コメントありがとうございます。

毎回タイトルつけるのが楽しいですね、掌編の醍醐味だと思います。
滝沢さんの京都への想いに触発され、私も大阪を書きましたがこれは本気で取り組まなきゃ(汗)。
大人への成長と別れがメインテーマでしたが、細部にこだわって書けて良かったです。


泡沫恋歌さん、コメントありがとうございます。

そうです!その「大阪で生まれた女」のアンハッピーエンド版を想像しながら書きました。
あの曲では、女は男について東京へ行くのですが……。彼らは、お互いに若かったのですよ。
通天閣は大阪人は意外と行かないでしょうね、しかし私は串カツにつられるのです。
写真は最近新しくなった3代目ビリケンさんです。

16/02/02 そらの珊瑚

冬垣ひなたさん、拝読しました。

夢と恋、両方は手に入らないことが多そうですね。
結果、失恋してしまいましたが、
それぞれエールを贈り合うラストが素敵であたたかったです。

16/02/04 草愛やし美

なにわやねえ、しみじみと読み終えました。
この舞台設定、いちいちわかるんですわ。苦笑
切なすぎる失恋ですわ。
けど、こういうのあっての人生生きたはるんやろうなあ。
主人公はんは……。
手紙よこしたリカコの気持ち切ないけど
けじめとしてコウには良かったと頷いてますわ。

16/02/07 冬垣ひなた

そらの珊瑚さん、コメントありがとうございます。

二人は両方手に入れようと頑張っていて、お笑い目指すことをずっとコウが黙っていた所から、すれ違ってしまったのだと思います。
恋を失って、初めてお互いを思いやるということが出来たのかもしれませんね。


草藍やし美さん、コメントありがとうございます。

ほんまに、なにわ節ですわ(笑)。折角書くんやったら、もうコテコテの大阪にしようと。
せやけど個人的にはご当地もの読みたい思うわ。折角時空モノガタリ全国展開してるんやから。
最後は「男やったらきちんとせんかいな」と、作者も思いながら書いたわけですわ。
多分、この二人の縁はこれからも続いていくんや、そう思います。

16/11/10 宮下 倖

拝読いたしました。
夢と恋、両方は掴めなかった主人公。せつない結末だけれど、作品全体を包む優しい雰囲気に癒されました。
読み直すと、テンポのいい会話の中にもせつなさと優しさが潜んでいてじんわりと心に沁みる読後感が素敵でした。
教えてくださってありがとうございました。読めてよかったです!

16/11/10 冬垣ひなた

宮下倖さん、コメントありがとうございます!

いつも掌編小説に色々な要素書き込みすぎだなぁと自分では思うのですが、癒されたと言って頂けて作者冥利に尽きます。ツイッターで書いたように「恋の呪文はスキトキメキトキス」という曲がこんな形で違う呪文に変わってしまいましたが、分かってくださる方がいて非常に嬉しかったです!

ログイン

ピックアップ作品