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むねすけさん

ブログで創作をやっていましたが、誰にも相手にしてもらえないため、こちらに辿り着きました。 面白い物語、少しほっとしてもらえるようなお話を書きたいと思っています。

性別 男性
将来の夢 作家になりたいですが、 それが無理でも、何かの原案家とか、 自分の考えた物語が世に出ること。
座右の銘 我思う、故に我在り。

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晩白柚泥棒

16/01/18 コンテスト(テーマ):第九十九回 時空モノガタリ文学賞 【 失恋 】 コメント:0件 むねすけ 閲覧数:742

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月夜に無知な泥棒が一人。
満月の夜の泥棒行為が、成功した例はないというのに。

男が盗むのは小学校の敷地内の晩白柚。

男はパン工場の年末アルバイト募集の面接に落ちた帰り道、
晩白柚の存在を目視した。

元より柑橘系の果物は好きであったが、グレープフルーツにおたふく風邪をひかせたような見た目のユーモラスに
心を奪われてしまった、決して面接に落ちた腹いせでも、案内してくれた作業つなぎの麗しい黒髪の美人お姉さんへの
報われない恋心のはけ口でもない。
その、視神経に優しい黄色の果実を胸に抱いて、指サックなどに頼ることなく親指の強力で皮をひん剥き、
ビタミンCの果汁溢れるを見て、条件反射の唾液をにじませたかっただけ。

夜の闇に男。
脇道の少なく、迷い込むと直進を恐怖するかのような一本道、郵便局、パン工場、そして、小学校。
「まぁなぁ、壁の外に出てたら楽だったが、うっかり人の頭にでも落ちたらことだわなぁ」
男は壁をよじ登りつつ、独り言。

男が学校の敷地内に、晩白柚泥棒の意志を固く真一文字に腹にくくって降り立った瞬間。
晩白柚の木の側に立つ懸垂用鉄棒の意識が醒める。

男が狙いを定めた晩白柚に、恋心のあることを月夜に話し合った仲だったからだ。
意識を目覚めさせて、鉄棒はささやく。
「そいつだけはやめてやってくれ、そいつは他のとは違う、パン工場のパンの匂いに恋をして、意識を積み重ねた身重なのだ。
他のならどれでもいい、他のならどれもただの柑橘の果実だ」

無知な男は夢を見ない男でもあったので、口のないものが物を言うとも思えない。
思えない人間に、声が聞こえるわけもない。

「あぁ」

懸垂用鉄棒の悲痛な叫びと共に、ちきんと、恋心持つ晩白柚が男の胸に抱かれてしまった。

「無念」

「その無念、任された」

晩白柚と鉄棒の言葉が月夜に往来する。

「しかし、返事を待てぬ身での愛の呟きなど、男として許されるものか」

「事態が事態だ、いたし方あるまいぞ、伝えたいのであろう」

「うむ、己の口から伝えたかったが、真、無念だ」

「また会おう、来年またやってこい結果を報せよう」

「そうか、その手か、なるほど、そこもとと語り合うこと叶ってよかった、感謝する、さらば」

「さらば」

満月の夜に泥棒行為が成功に終わるはずもなく、男は帰り道で晩白柚をうっかりとなぜか開いていたマンホールに
落っことしてしまう。

ボチャリと下水に落日の如く黄色の淡い光のしみ込んだ晩白柚が揺蕩う。

朝が来て、
下水の中で息を引き取った晩白柚。
パン工場が動きだして、
小学校まで匂いが漂いだす。

うむ、務めだ、
懸垂用鉄棒が決意を飲みこんで、
パン工場の甘い臭いに話しかけるのだった。

「そこに、晩白柚の実がなっているでしょう」

「あら、そうね、あら、あら、あんなに大きくって重そうで、よく落っこちないこと」

「その中の一つがあなたに恋をしていました」

「あら、そう、あらあら、でも残念なこと私にはもう心に決めたお方があるのよ」

あぁ。
懸垂用鉄棒はこれを想定していなかった。
一年後、あいつが生まれ変わってあの木になった時、
記憶の引継ぎを失敗していればいいのにと、
これから一年、懸垂用鉄棒は月に願うばかり。


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