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光石七さん

光石七(みついしなな)です。 子供の頃から空想(妄想?)が好きでした。 2013年から文章化を始めました。 自分では気付かないことも多いので、ダメ出しを頂けるとありがたいです。

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魔法の鏡は少し外れた音を奏でるけれど

16/01/18 コンテスト(テーマ):第九十九回 時空モノガタリ文学賞 【 失恋 】 コメント:12件 光石七 閲覧数:1268

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 外は小雪が舞っている。あの日のように。僕はお気に入りの椅子に腰かけ、コーヒーを啜った。
「おはようございます。寒いですね」
恋奈君が出勤してきた。いつものようにすぐ店の掃除に取り掛かるかと思いきや、綺麗にラッピングされた小箱を僕に差し出す。
「これは?」
「わかりませんか? 今日はバレンタインデーです」
恋奈君が呆れたように言う。
「そうだっけ?」
「もう、先生ったら。世間はバレンタイン一色ですよ? まだ三十なのに、世捨て人ですか?」
「かもね」
「毎日他人の失恋話聞く世捨て人っています? それに、可愛い魅力的な女性が近くにいるのに、何も感じませんか?」
「えっ、どこに?」
素直な疑問だったのだが、恋奈君はむくれてしまった。黙って掃除道具を手に取り、奥の応接室に入っていく。……可愛い魅力的な女性って恋奈君のことか? 確かに可愛い顔立ちと言えなくもないが。僕がそこに気付かなかったから、気分を害したのか?
(鏡平はホントわかってないね)
クスクス笑う愛莉の声が聞こえた気がした。

「私、本当に信じてたんです。なのに……」
クライアントが泣きながら失恋の経緯を話す。――女性の話ってどうしてこうも要領を得ないんだろう? いつも不思議に思う。要は、付き合っていた男には本命の彼女がいて、このクライアント――泉井優花、二十三歳は都合よく遊ばれてたってことだ。
「ひどい男。彼女に優花さんのことを面白おかしく報告して、二人で笑ってたなんて」
恋奈君が泉井優花の背を優しくさする。……人の気持ちに寄り添うとはこういうことなのだろう。恋奈君を見てるとそう思う。しかし、クライアントのほとんどは若い女性だ。僕が気安く触れるのもどうかと思うし、そもそも男と一対一で話すのは抵抗がある人もいるだろうと思ったから恋奈君を雇ったわけで……。
「もうこれ以上付き合えないって思いました。でも……職場が同じだから、毎日顔合わせるから、辛くて……仕事、辞めちゃいました……」
「そんな最低男のために会社まで……」
恋奈君は同情して涙ぐんでいる。僕も神妙な表情を作ってはいるが、内心首を傾げていた。仕事は仕事と割り切れないものだろうか?
「次の仕事探そうにも……気持ちを切り替えられなくて……」
「それでここに来たんですね。わかりました」
僕は頷いた。一応事情は呑み込めた。あとは最終的な本人の意思確認をしたうえで『処置』を行えばいい。
「泉井優花さん。この恋を無かったことにする、ということでよろしいですか?」
「はい、お願いします」
はっきりした返答を聞き、僕は立ち上がった。泉井優花の横に移動し、彼女の額に左手をかざして精神を集中する。彼に関する記憶の場所を探り、消去と補正を施していく――。
 『処置』を完了すると、泉井優花はゆっくりとソファに倒れこんだ。恋奈君が彼女に毛布を掛けてやる。二十分ほどで目覚めるはずだ。
「恋奈君、あとはよろしく」
僕は応接室を出た。窓の外を見ると、まだ雪がちらついている。

 何故僕が『処置』――記憶隠蔽の力を持っているのか、原因はわからない。物心ついた時には自覚があった。僕のことを忘れればいじめられないと、幼稚園でいじめっ子の記憶を封印したのが最初だった気がする。僕は集団の中で浮くことが多く、友達もいなかった。特殊な力の代償なのか、僕は他の人とはどこかずれているらしかった。
 唯一僕のそばにいてくれたのが幼馴染の愛莉だった。力のことを打ち明けても、愛莉は変わらず笑顔で接してくれた。
「鏡平は人の気持ちがわかってないね。そういうトコも個性だけど、寄り添ってわかろうと努力するのも大事だよ。力も、人のために使ったらどうかな? 苦しんでる人のために。例えば、失恋の痛手からなかなか立ち直れない人とか」
愛莉が事故に遭ったと聞いたのは、そんな話をした翌日だった。小雪の舞う寒い日だった。

 泉井優花を見送った恋奈君が報告に来た。
「優花さん、スッキリした顔で帰って行かれました。就活頑張らなきゃって張り切ってましたよ」
「そりゃよかった。ご苦労様」
「……それだけですか?」
「それだけって?」
恋奈君は何が不満なのだろう?
「バレンタインデーに恋の思い出を消したいってよっぽどですよ? 優花さんの再出発をもっと応援してあげてもいいじゃないですか」
「応援って……」
女性って、なんでこう論理が飛躍するんだ?
「先生って『処置』はすごいけど、恋とか女心とかホントわかってないですよね。よくこんな商売やろうと思いましたね」
恋奈君は時々愛莉と同じようなことを言う。
「……恋奈君こそ、よくこんな商売手伝おうと思ったね」
そう返すと、どういうわけか恋奈君の顔が赤くなった。
「べ、別に先生のためってわけじゃ……あ、応接室片付けなきゃ」
急に話を切り上げられ、僕は困惑した。


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このストーリーに関するコメント

16/01/18 霜月秋介

光石七さん、拝読しました!

恋奈さんと鏡平先生の今後が楽しみですね(笑)
記憶隠蔽とは凄い力を持ってますね。しかし出来るなら記憶を消すことなく、辛い経験を乗り越えて次の恋と進んで欲しいものです。

16/01/19 泉 鳴巳

拝読しました。
記憶隠蔽の力を持っている鏡平先生が、最愛の人を喪失(と読みました)した痛みを封印することなく抱え続けているというのが切ないですね。
今もまた「そばにいてくれ」て、「変わらず笑顔で接してくれる」人がいることに気付いた時、先生がどう振る舞うのか、この先を想像してしまう物語でした。

16/01/20 滝沢朱音

ああ、鏡平だから魔法の鏡なんですね!イメージの広がる好きなタイトルです。
愛莉が重要な言葉を残し旅立った雪の日から、もう何年たったのか…
そろそろ恋奈さんの思いに気づきなさい、と愛莉が言ってるのかも。
でもご本人は、まだまだピンとこなさそうです(笑)

16/01/22 光石七

>霜月 秋介さん
コメントありがとうございます。
鏡平は相当鈍いので、恋奈の気持ちに気付くのはまだまだ先だと思います(笑)
辛い恋も自分の糧にして前に進むことができればいいと私も思いますが、元々“失恋買取屋”で何か書けないかと、いろいろこねくり回しているうちにこの形になったのでした(苦笑)
いろいろ足りませんが、楽しんでいただけたなら幸いです。

>泉 鳴巳さん
コメントありがとうございます。
書き込みが不足していて申し訳ない限りですが、実は鏡平は愛莉に対する自分の思いの正体に気付いていなかったりします(大切な存在だという認識はありますが)。死別も広い意味では失恋に含まれるようですし、記憶隠蔽の処置は自分自身には施せないので、鏡平は無自覚の失恋を引きずっていると言っていいかもしれません。
鏡平の今後も思いやってくださり、うれしいです。

>朱音さん
コメントありがとうございます。
はい、“魔法の鏡”は鏡平のことです。いつもの如く書き上げたのがギリギリで、タイトルも切羽詰まって苦し紛れにつけたのですが(苦笑)、気に入ってくださり恐縮です。
鏡平が恋奈の思いに気付くのはいつのことやら……(笑)
少しでも楽しんでいただけたならうれしいです。

16/01/25 泡沫恋歌

光石七 様、拝読しました。

鏡平先生は記憶隠蔽の力を持っていても、自分の思い出が封印できないのが不憫ですね。
過去は忘れて、恋奈さんと新しい恋を始められたらいいのに。
相談者の優花さんは、会社を辞める前にここにきてたら就活しなくてすんだのにと思った(笑)

16/01/25 6丁目の女

「この恋を無かったことにする、ということでよろしいですか?」
これを決めゼリフに、シリーズ化できそうですね♪
深夜枠のテレビドラマにいいかも♪♪

失恋というテーマでこんなに面白いストーリーが書けるなんて♪

どんなことであっても、経験はその人だけの大切な財産になり得ますが、痛みに耐えられないこともありますよね。すがりたくなる気持ちはわかります。

幼稚園でいじめっ子の記憶を封印したのが最初だった…という設定が切ないですね。とても説得力があります。鈍感にならないと生きていけない、剥き出しの感受性では辛すぎる、という人もいるでしょうね。 いろんな形で折り合いをつけながら、人はそれぞれ、なんとか生きていくのでしょうね。

ラストがいいですね!
僕は困惑しているのだけど、読者にはわかっている(^^)
タイトルも素敵ですね☆

16/01/25 光石七

>泡沫恋歌さん
コメントありがとうございます。
自分の記憶は隠蔽できないという以前に、鏡平は愛莉を忘れるつもりはないと思います。この店を始めたのも彼女の言葉が大きかったわけですし。
ただ、鏡平は未だに愛莉への想いを自覚していなかったりします。大切な幼馴染で唯一の友人だと思い込んでいるというか。そこらへんのずれも恋奈の想いに気付かないことにつながるようにしたかったのですが、書き込みが足りなくてすみません。
優花に関してはおっしゃる通りですね(苦笑) でも、気持ちに区切りをつけるタイミングもなかなか都合良くはいかないということで。

>6丁目の女さん
コメントありがとうございます。
決めゼリフになってますか? 最終確認をどういうセリフにするか結構悩んだので、少しでも印象に残るものになっているならうれしいです。
シリーズ化とは、もったいないお言葉です。これ以上書くとボロが出ます。……もうとっくに出ていますが(苦笑)
鏡平の『処置』にすがる人の気持ちや鏡平の原体験など、作者以上に深く考察してくださり、ありがたく思います。
〆切ギリギリになんとか形にして投稿した感じで不足な点が多々ありますが、こんなに褒めていただいて……
精進したいと思います。

16/02/02 そらの珊瑚

光石七さん、拝読しました。

すごい能力を持っているのに、天然な先生と恋奈さんの恋は
その後どうなるのでしょうか。
実るにしても時間がかかりそうですね〜♪

16/02/03 光石七

>そらの珊瑚さん
コメントありがとうございます。
鏡平が恋奈の想いに気付くまでが、まず長そうですね(笑)
鏡平は鈍いし、恋奈も表情に出てるくせにはっきりとは言わないし。
でも、できれば二人で幸せになってほしいなと、作者も思っています。

16/02/04 冬垣ひなた

光石七さん、拝読しました。

消したい記憶を消せる。そんな力を持つのは重いと思います。
でも鏡平を慕う恋奈、それに愛莉の存在がふわっとした空気を醸し出していて、ソフトに心に響きました。
シリーズ化いいなぁ、こういう気づかれない片思いってやつは大好きです♪

16/02/05 草愛やし美

最後の文、とっても素敵な恋の予感が。

しかも、バレンタインデイの設定なんですから、
これからおふたりに素敵なことが起こりそう。

主人公さん、特殊能力を素晴らしいことに使えってますね。

タイトルも意味深で素敵。上手いなあ光石さん面白かったです。

16/02/06 光石七

>冬垣ひなたさん
コメントありがとうございます。
元々思いついたのは“失恋買取屋”だったのですが、どういう方法で買い取るのか、何故そういう商売をしているのか、いろいろ考えるうちにこの形になりました。この力、重いよなあ……と私も思います(苦笑)
愛莉は当初考えていた設定とは変わってしまいましたが、却ってよかったのかな……?
鏡平が恋奈の想いに気付くのはいつでしょうね(笑)
楽しんでいただけたなら幸いです。

>草藍さん
コメントありがとうございます。
恋の予感を感じてくださいましたか。ただ、鏡平はかなり鈍いので、恋奈の想いに気付くまで時間がかかりそうです(笑)
「力の使い方として、これはどうなんだろう?」という不安がありましたが、肯定していただけてホッとしました。
タイトルは切羽詰まって苦し紛れにつけたのですが(書き上げたのが〆切ギリギリだったので)、気に入ってくださり恐縮です。
楽しんでいただけたようで、うれしいです

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