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手紙

16/01/18 コンテスト(テーマ):第九十九回 時空モノガタリ文学賞 【 失恋 】 コメント:0件 ケイジロウ 閲覧数:765

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 一方的に別れを告げられたその短い手紙を読み終えた時、とても辛いと感じた。
 この感想には自分自身も驚いた。今まで何人かの女性と付き合ったことはあったし、それぞれの「終わり」を経験してきた。しかも、だいたい振られている。しかし、「辛い」というよりホッとするのが常であった。今までの付き合いと今回の付き合いとでは何かが違うのだろうか。
 とりあえず、靴を脱ごう。考えるのはそれからだ。僕は靴を脱いで狭い玄関を上った。いつもなら、部屋に入る前に、冷蔵庫からビールを取り出すのだが、今日はやめておいた。酔わずに色々考えたいと思ったからだ。
 電気をつけると、窓に疲れた顔をした中年の男が映っていた。僕である。あまり目を合わせないように水色のカーテンでその男を消した。青がいいと散々主張したのに、結局水色で押し通されてしまった。青好きから言わせてもらうと、水色と青は全く別物なのだが、ピンク好きに言わせると、「同じじゃない」になる。でも、「赤とピンクは全然違うの!」らしいが・・・。そんな些細な口論もこれからはできないのである。
 僕はネクタイを少し緩め、ベッドに倒れこむようにして仰向けに寝転がった。そして、もう一度、手紙を読み返そうと、中身を一旦封筒に戻し、宛先、送付者の確認を慣例どおり意味もなくもう一度した。どんな意味がこの別れにあるのか知りたいというよりも、今まで通りの別れと同じである事を、心の奥底では願っていたのかもしれない。
 中身を丁寧に読み返した。後半部分の字が少しだけ乱れている。行が微妙に右上がりになっている。そんなところが生々しく、愛おしく感じてしまう。くそっ!手紙をクシャクシャに丸めたい衝動に駆られるが、なんとか耐えた。
 何度読み返しただろうか?時計を見ると12時を回っていた。8時頃帰ったはずだから、もう4時間以上も読み返していることになる。今日は何曜日だ?あぁまだ月曜日だ。明日も仕事なのか。今日が金曜日だったらどんなによかったことか。
 動けない。いつまでもこのままの状態でいたい。そのうち眠くなるだろう。そしたらいつまでも寝ていたい。そして、目が覚めたら、またこのままの状態でいたい。いや、目なんか覚めないでもいい。まだ枕に彼女の匂いが残っているような気がしたが、たぶん気のせいだろう。彼女がこの部屋を出て行ってからもう2カ月が経つ。
 そんなことを考えているうちに、お腹がすいてきた。そういえば昼食以来何も食べていなかったっけな。とりあえず、ビールを飲もうと立ち上がった。あぁ、まだネクタイも取っていなかったんだな。クシャクシャになったスーツをハンガーにかけた。
 「あなたのことを理解しようと努力することが『愛』と呼ぶならば、私にはその『愛』が欠けていたのかもしれません。」
 いつの間にかプルトップが空いていた。半ば義務的にアルコールを胃に押し込めてみる。が、なんの解決にもならない。この感情は一体どこに向かっているのだろうか。
 一口だけ啜った缶ビールを流しに放置し、ウィスキーのボトルを手に取った。何も考えないように心掛け、一口ラッパ飲みをした。アルコールが胃から脳みそに突き抜ける。それに少し快感を覚える。
 「室内禁煙」という彼女の書いた張り紙がテレビの下の方に張られていた。僕は、彼女が去った後もこのルールを忠実に守ってきた。僕は慌ててクシャクシャのスーツの前に行き、内ポケットを探りタバコを取り出し、火をつけた。何の味もしない。無心で慌てて何度もふかしてみる。張り紙を見つめながら。灰がカーペットの上に落ちたが、そんなことどうでもよい。
 「あなたの部屋を出た日から、今まで、いろんなことから逃げてきました。」
 僕はどうやら立ったままスーツの前でタバコを吸っていたようだ。タバコの火はすでに消えている。
 僕は流しに向かった。まだほとんど残っているビールを流しにゆっくりと捨てた。そして、空き缶を殴った。もう一度殴った。コブシが切れたような気もしたが、かまわず殴り続けた。くそっ!!
 気が付くとペコペコの空き缶と、血だらけの右手が目に入った。どうにでもなれ。ウィスキーを傷口にかけてみると、少し沁みた。それがまた快感でもあった。僕はもう一口ウィスキーを胃におさめた。
 とにかく寝よう。そして目が覚めたら、明日のことを考えよう。


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