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月洛さん

仕組、型紙、運命、思考も含めての物語フェチです。 twitter: @keera_ch

性別 女性
将来の夢
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冬が廻る

16/01/15 コンテスト(テーマ):第九十九回 時空モノガタリ文学賞 【 失恋 】 コメント:0件 月洛 閲覧数:794

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 歩道の隅の落ち葉が、風に洗われて、転がっていた。
 カラカラ、サカサカ
 その音に誘われて、僕は落ち葉を踏みしめた。少し道端に寄ると、何枚も重なった落ち葉たちをいっぺんに踏みしめられた。雪道と違って、靴底に響く感触はごくごく小さいけれど、音は一人前だ。
 ガザザザ、ガザザザザー
 冬の深夜の冷えた空気のなか、立っているのは、僕と街路樹と電柱だけ。電柱に取りつけられたLEDの灯りは、オレンジ色のプラスチックカバーを通ってもやっぱり無機質でよそよそしく感じる。
 他に好きな人ができたと言って、昨夜、僕に別れ話をした彼女は、今日はもう、会社ですれ違っても完全無視で目も合わせてくれなくなった。
「冷たいもんだよ」
 口に出すと同時に、もうひと足。
 ガザザザ、ボワッ
 え?
 足元をよく見ながら、さらにひと足。
 ガザザ、ボワッ
 小さく煙の上がるのが見えた。
 もうひと足、そっと落ち葉に近づける。じんわり踏み込んだ。カサッと落ち葉同士の擦れ合う音がするけど、まだ地面に踏みつけてしまわないで、ゆっくりゆっくり。
「ちょっと! さっさとやりなさいよ!」
 びっくりして一気に足を下ろした。
 ザサッ、ボワッ
 煙が消えるのを呆然と見ていると、
「勢いよくやってくれないと困るのよ。気持ちよく死ねないじゃない」
 反射的に顔を上げた。
 目の前にいたのは、小さな小さな……、ストラップの先のフィギュアほどの女の子だった。おかっぱの髪を揺らして、浮かんでいた。背中にチラチラと動いている破片みたいなのが羽だとしたら、飛んでいるのだろう。
「だれが死ぬの?」
「わたし」
「ボワッて?」
「そう」
「今もしたよね、ボワッて」
「いまいち気分よくなかったけど、一応ね」
「だれが死んだの?」
「わたしよ」
「キミ、死んでるの?」
「ああ、もう、じれったい。死んでるわけないでしょ。わたしを何だと思ってるのよ。わたしは死ねないの。こーんなに死んでしまいたい気分なのに死ねないのよ。葉っぱといっしょに踏み潰されても、ただ、ボワッて。一瞬で再生しちゃうわけ。んー、死んでないのに再生ってのもおかしいけど、まあ、そういうことよ。死ねないんだから、せめて、再生の一瞬くらい勢いよくやりたいじゃない? 頼むわよ、ったく」
 小さな女の子は、小さすぎて表情なんか全然わからないけど、たぶん、すごく怒っている。
「ごめんなさい」
「なんで謝るの?」
「だって、」
「こんな理不尽な言い分を真に受けていちいち謝らないでよ。ほんと、やりにくいなー、もぉ」
 小さな女の子はくるっと背を向けると、そのままの向きで僕の顔の輪郭を描くようにまるく飛んだ。
 ごめん、と言いかけた声を呑み込んで、代わりに、
「なにかあったの?」
 と、小さな女の子の背中に声をかけてみた。
 寒くてどんどん体が冷えてきていたけど、小さな小さな女の子は、僕を精一杯とおせんぼ≠オているように思ったから。
「あったのよ。ものすごーく嫌ぁなことが」
 小さな女の子は体ごと振り向いて、僕の鼻先まで近づいてきた。
「でも、もう、どうでもよくなっちゃった」
 チラチラと羽ばたいて、僕の右目、左目を交互に覗き込んでくる。
「わたしの姿を瞳に映してる。ひさしぶりに会ったわ、こういう人間」
 やっと、僕の一番の疑問を、この小さな女の子に尋ねるチャンスだ。
「キミは、いったい、」
「今日はもう遅いから、また今度ね。パニクってるのが収まったら、急に寒くなってきちゃった」
 そう言うと、女の子は少しだけ上に移動して、僕はおでこに何かが触れたのを感じた。キスされた、と思った。
「またね」
「あ、待って、名前、」
 ……とか、いろいろ聞きたいことだらけなんだけど。
 女の子の消えた空間をまだ見つめたまま、女の子に触れられたおでこをそっと左手で押さえてみた。
 ずっとこわばったままだった頰が緩んでいた。きっと目も笑っているだろう。冷たい空気さえ、清々しいと思える。
 西の空に傾いている三日月に微笑みかけながら、女の子の言った「またね」を何度も何度もくり返し、胸に抱いた。
 
 


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