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佐々木嘘さん

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ラッシュ

16/01/12 コンテスト(テーマ): 第72回 【 自由投稿スペース 】  コメント:0件 佐々木嘘 閲覧数:660

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緑ちゃんが僕の名前を呼ぶ。
--青くん、青くん

小さく歯並びのいい口から甘い声が零れ落ちる。青くん青くん。その声はヘロインとよく似ていた。快楽中枢をダイレクトに刺激し一瞬にして最高の快楽と喜びを与えてくれるのであっという間に虜になってしまう。もう二度と手放せなくなるほどの中毒性。
緑ちゃん。
僕がおかしくなったのは全部全部君のせいだ。


「青くん、青ちゃん。こんにちわ」

日曜日の午後、緑ちゃんがお菓子を持って来た。彼女が言う青くんというのは僕、青ちゃんとは1歳上の姉のことで僕達の青葉という苗字からとっていいる。同じアパートでお隣同士になる姉と同じ年の緑ちゃんこと緑川さんとはもう幼稚園からの付き合いだ。

「今日はロールケーキを焼いてみました」

高校生になった今でもこうして交流があり、時間が合えばこんな風に三人でお菓子を食べながら家でごろごろと過ごしたりする。僕達の両親は仕事が忙しくほとんど自宅に居なかったため小さい頃から姉弟そろって緑川家には随分とお世話になっていた。ただ緑ちゃんのお母さんは今長期で入院中のなので父親と二人で暮らしている。

「そういえば昨日またあんたと間違えられたよ。応援してますって可愛い女の子に言われた」
「青ちゃんが制服着てる時に話しかけられたよね」
「げっ、それじゃあ俺が女装して歩いてるって思われてるじゃん!」

一つ上の姉とは一卵性双生児のように顔のパーツも位置も体型も声質も自分でも恐ろしい程良く似ていた。身長もぴったり179cm。髪の長さと性別しか違いがない。
一時期姉はそんな男性的な自分の姿にコンプレックスを強く感じ自宅に引きこもっていた事があったが、今ではその長い足を短いスカートから堂々と見せつけ長い髪の毛に吹き付けた香水を振りまき背筋を伸ばして歩けるようにまでなってくれた。
それはただ側でずっと温かく見守って支えてくれていた緑ちゃんのおかげであるので青葉家はみんな緑ちゃんが大好きだ。

「何かの撮影と思ってるんじゃないの?だから多分へーきへーき」
「あ、青くん見たよ。一昨日のドラマに出てたよね?」
「緑ちゃん見てくれたの?ありがとう。実は今回結構いい役を貰えたんだ」

ドラマというのは高校に通いながら両立させている芸能活動のことだ。今までは雑誌のモデルが主だったけど最近は演技の仕事に力を入れていた。
役者という仕事は素晴らしい職業だと僕は思っている。自分ではない他人になれる唯一の職業。取り憑かれたように役を演じている時、警察官にも弁護士にも社長にも、殺人鬼にだってなることが出来るのだから。

「あ、ごめん!急用が出来た。ちょっと出かける」
「え、そうなの?じゃあ青ちゃん気をつけていってらっしゃい」

携帯を見ながら姉は寝そべっていたソファから飛び起き上着を羽織って慌ただしく出て行った。うるさい人間が消えたのでこの部屋に穏やかな空気が流れはじめる。急に二人っきりになるのは未だに恥ずかしくてどうしたらいいのか少しだけ戸惑ってしまう。

横で緑ちゃんは僕が去年端役で出演してた映画を鑑賞していた。
本当にキラキラと目を輝かせながらテレビ画面に釘付けだ。

「凄いな。かっこいいね青くん」

青くん、青くん。頭の中で反芻する。
とても純粋な彼女は人を疑いもせず全て素直に吸収してしまう。だからこんなにも甘い甘い声を吐き出せるんだろう。僕はいつまでもその声に酔っていたかったんだ。

でもね、緑ちゃん。誰にだって秘密がある。
人間は思った以上に綺麗じゃない。


いつの間にか緑ちゃんは眠っていた。さっきまで姉が寝そべっていたソファでぐうぐうと眠っている。でも時刻はもう6時をまわろうとしてたので僕は緑ちゃんの真っ白い二の腕を掴み軽く揺さぶりをかけた。

「緑ちゃん起きて。もう夕方だよ」
「…うう…ん…」

まだまだ彼女は寝ぼけてる。仕方がないので僕は起き上がり彼女の両頬を両手でぎゅうっと挟んで無理やりお越しかかろうとした。

「起きなさーい」

その声に反応し緑ちゃんはぼやぁと目を開けたけど焦点が合わずに虚ろになっている。
そしてうっすら開いたその大きな目で僕を見て、半開きの唇から言葉を零したんだ。

「ううーん…あ、青ちゃんだ………青ちゃん、すき」
「…え、?」
「……ん?」

するとハッと我に返り正気に戻った緑ちゃんが凄い勢いで後ろへとのけぞり、はっきりと僕の顔を見た。

「え?あれ、…あ、青くん!?」
「…そうだよ」
「あ。ご、ごめん寝ぼけてて!今のは、ち、違うから…だからその…」

みるみる顔を赤くしながら緑ちゃんはあからさまに動揺する。その瞬間、体中に電気が走ったような衝撃を感じたんだ。
これだ。
これだ、と。
この台詞を、この時を。ずっとずっと待ち焦がれていたんだ、と。僕の細胞は高揚感で一斉に震え上がった。

抑えきれないほどの感情が昂ぶり興奮状態が収まらない。まるでヘロインを打たれた時のような最高の快感が体に隅々まで犯されている。心臓が踊り狂った。
嗚呼、なんて、なんてこんなにも気持ちいいんだ。

「…嘘ばっかり。緑ちゃんはずっと姉ちゃんが好きなんだよね?女の子同士なのに」

表面上必死で興奮を抑えながら戸惑う緑ちゃんを見つめて僕は少しだけ意地悪を言った。

ごめんね。緑ちゃんは隠してたつもりだけど僕はその秘密をずっと前から知っていたんだよ。姉を支えてた数年の間に彼女の友情が愛情に変わっていたのを。
ごめんね。だからやっとボロを出し、その秘密を利用できると思うと嬉しくて嬉しくて、
思わず堪えきれなくなった口元がこんなにも歪んでしまうんだ。

「青くん違っ、違う…」
「違わない。だって今、青ちゃん好きって言ったでしょ?」
「違う、だって、…だって青ちゃんも私も女の子…」
「緑ちゃん。話を聞いて。大丈夫だよ」

僕はくっきりと最上級の笑顔を作った。
確かに女の子同士は難しいかもしれないけど、安心して大丈夫だよ、大丈夫だよ。

「僕はこんなにもお姉ちゃんに似ているんだから」
「…え?」
「緑ちゃん。今から僕を君の大好きな青ちゃんと思って」

そう言いながら僕は緑ちゃんの首にかかってるストールをはずし彼女への目隠しに使った。緑ちゃんは抵抗はしないものの、え?え?と驚きを隠せない。だから僕は彼女の右手を掴み、柔らかい口調で優しく導いてあげるんだ。

「ほら、顔触って。見えなくても触れるだけでもわかるよね?」
「あ、青くん…?」
「違うでしょ、僕は。……私は、あなたの大好きな青ちゃんよ」

小さな身体を丁寧に押し倒し、姉に真似た声に出す。でもその声が姉にあまりにそっくりだからうっかり声を出して笑いそうになった。
出来るだけ遅い動作で彼女の手の甲を唇で触れる。次に首筋を、次に頬を、次に瞼を。誘導するように、ゆっくりと。

「あ、…あお、」
「そう、緑ちゃん。ちゃんと私の名前呼んで」
「あお…あ、…あおちゃ……ん」
「いい子。さぁ私に何をして欲しい?」

彼女の薄い耳たぶを優しく噛んであげる。
ひゃっと、声を出す彼女の呼吸は徐々に荒くなった。

誰だって秘密はある。
夜な夜な援助交際をしている女子高生も。
万引きを繰り返している優等生も。
お偉いおばさんを抱きながら枕営業で仕事を得ている僕も。
奥さんの不在をいい事に緑ちゃんのお父さんと不倫関係になっている姉も。

みんなみんな、そんな秘密をうまいこと隠しながら何食わぬ顔をしてひょうひょうと普通に生きている。緑ちゃん、君が思うほど人間は綺麗じゃないんだよ。
だからもっともっとその欲望を忠実に求めていいんだ。世間体なんてどうでもいい。恥も外聞もなくして素直になればこんなにも最高の快楽がそこにはある。
だってそうだろ?
さっきまで姉が寝ていたソファの匂いを嗅ぎながら、姉によく似た顔の僕に触って彼女は今こんなにも恍惚とした顔をしているのだから。

「あまい」

キスをすると、甘い生クリームの味がした。可愛い緑ちゃん。ずっと大好きだった緑ちゃん。もっと歪んで。もっと求めて。もっと触れて。貪るように僕をもっともっと好きになって。大丈夫。これは僕達だけの秘密だから。

僕の腕にすっぽりと納まりながら彼女は嬉しそうに口角を上げた。赤くぽってりとした唇を震わせながら必死に名前を呼ぼうとする。甘い甘い、麻薬じみたその声で。もっと聞かせて。ねぇ、僕の緑ちゃん。

「あおちゃん」


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